スカイライン400R徹底試乗。400Rの加速には、一瞬で空気を豹変させる魅力がある【新型車インプレッション3/3(走行性能編)】

■400Rに何を求めるのか?

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●驚くほどにすっきりとした印象のハンドリング
●キャラ変更の幅が広い
●「冷や汗」をかくほどの爆発的な加速
●地味ではあるが、間違いなく、一級品

最高出力408馬力のV6ツインターボのスポーツセダンを後輪駆動で駆る…といえば、心躍るドライバーは多いでしょう。試乗したコースは高速道路を約120km、一般道とワインディングを約40km。平均気温は20度で、路面はドライ。渋滞はなく、常に流れに乗った運転状況でした。実燃費についても後述します。

スカイライン400R
新色となるスレートグレーは400R専用色です。

なお、タイヤは245/40RF19 94Wのダンロップ製SP SPORTMAXX 050 DSST CTT(ランフラットタイヤ)を前後に装着しています。ちなみに、レクサスLSの国内モデルの新車装着用タイヤとしても、この銘柄が採用されているそうです(タイヤサイズは245/50RF19)。

DSSTとは「DUNLOP Self-Supporting Technology」、つまりランフラット技術のことで、DSST CTTとはDSSTのサイド補強式をもとに進化させ、乗り心地改善、および強靭さと軽量化を狙った新構造です(CTT=Combined Technology Tyre)。

スカイライン400R
400R専用開発タイヤではなく、ハイブリッド車とV6ガソリンターボ車のGT Type SPグレードに標準装着される19インチタイヤと同じです。

●驚くほどにすっきりとした印象のハンドリング

2019年7月のビッグマイナーチェンジのタイミングから、スカイラインにはDAS(ダイレクトアダプティブステアリング)が標準装備となりました。当然、この400Rにも標準装備であり、DASによる切れ味や安定感は、素晴らしい仕上がりとなっています。

走り出しの低速走行では極軽い操舵力ですが、速度の上昇に伴って手応えが増し、芯の強さがしっかりと現れます。わずかなステアリングの操舵角で、大から小までのコーナーをスイスイと駆け抜け、高速走行では怒涛の直進性を実現する様子は、よくできた欧州系のクルマと同じですが、スカイラインにはそこから先の世界があります。

スカイライン400R
キックバックのようなショックや、ステアリングからの不快な振動がありません。この点だけ見れば、欧州車を超えたハンドリングの世界が見えます。

キックバックのようなショックや、ステアリングからの不快な振動がないことで、スカイラインは、驚くほどにすっきりとした印象のハンドリングとなっています。これだけの仕上がりは、筆者が日産開発時代に味わったことがないくらい、優秀な出来映えです。

●キャラクター変更の幅が広い

さらに、スカイライン400Rには電子制御ショックアブソーバー「インテリジェントダイナミックサスペンション」が装備されます。この手のスポーツセダンに電制ショックが装着されるのは、何らめずらしいものではありません。メルセデスやBMW、アウディ、日本車だとクラウンなどにも、当たり前に装着されています。

しかし400Rでは電制ショックによる足のセッティングと、DASによるハンドルングの応答性、そして408馬力のV6ツインターボエンジンのレスポンス、これらをドライブモードセレクターで切り替えることができ、これがとにかく面白いのです。

スカイライン400R
400Rには、電子制御ショックアブソーバー「インテリジェントダイナミックサスペンション」が装備されています。

その振り幅は、通常のスカイラインがやっているモードセレクトの幅よりも広いです。400Rはボディモーションを抑える足を得たおかげで、これまではできなかった、より切れのあるDAS特性にセッティングできるようになったのでしょう。

スカイライン400R
400Rは、ボディモーションを抑える足を得たおかげで、これまではできなかった、より切れのあるDAS特性にセッティングされているようです。

●「冷や汗」をかくほどの爆発的な加速

400Rのエンジン自体は、通常のスカイラインV6ツインターボ車(304馬力)の延長にあり、通常走行をしている範囲には、ほとんど違いを感じられません。エンジン音や排気音も差がついているようには感じられず、静かなマルチシリンダエンジンなのです。

正直なところ「只者ではないオーラ」はなく、最初はちょっとがっかりもしました。しかしこれには、日産の狙いがあるのだろうと推測します。

スカイライン400R
日産国内初採用のターボ回転センサーを用いて、ターボの回転限界領域まで使い切ることを可能にしたことで、歴代スカイライン最高の最高出力298kW(405PS)/6400rpm、最大トルク475Nm(48.4kgf・m)/1600-5200rpmを実現したVR30DDTT

スカイライン400Rとはいえ、ユーザーは常日頃からハイレスポンスで良く回るエンジンを望むわけではありません。あくまでパワーを解き放てるシチュエーションにおいて本領発揮ができればよく、そのほかのシーンでは普段の使いやすさに徹している方が好ましいです。

スカイライン400R
400Rの最大の主張が、トランクに付いた専用エンブレム

ですが許されるシチュエーションでアクセルを踏みこめば、V6ツインターボの「クォーン」というサウンドが一瞬で高鳴り、クルマが強烈に加速していきます。すぐさま速度オーバーしてしまい、アクセルペダルを戻すことになるほどです。

「冷や汗」をかくほどの爆発的な加速ですが、これがまた病みつきになります。どこか懐かしさを感じさせてくれるサウンドとレスポンスは、おそらく、クルマ好き皆が好む「心地よいエンジン」になっているといえるでしょう。

さらにはモードチェンジでスポーツにすれば、全く別物のエンジンレスポンスへと変わります。ノーマルでさえ十分ですが、もはや「危機」を感じるほどに刺激的になります。

スカイライン400R
シチュエーションが許されて、アクセルを踏みこめば、V6ツインターボの「クォーン」というサウンドが一瞬で高鳴り、クルマが強烈に加速していきます。

なお、実燃費は9.0km/L。WLTCモード燃費はNAが10.0km/Lであり、90%程度の結果となりました。400馬力級のV6ツインターボ車にしては良いともいえますが、一般道がメインとなる日常使用の場合だと、7-8km/L程度にまで落ち込むことになるでしょう。これは、覚悟をしなければならない部分です。

●地味ではあるが、間違いなく一級品

サーキットのような非日常の場所へ行くことができる方は、400Rの持つ実力を存分に体感できるかもしれませんが、そうでない方にとっては、非日常の、わずか数秒の加速レスポンスのために購入する覚悟があるかが判断ポイントとなります。

スカイライン400Rは高性能スポーツセダンとしての派手さがなく、「分かりやすいスポーツセダン」を求める方には不十分に感じるかもしれません。

先進の運転支援技術で快適なロングドライブを味わいたい方にはハイブリッド車がおススメですし、ちょっと懐かしい極上のエンジンフィーリングを味わいたい方にはV6ターボ(304馬力)で十分です。

スカイライン400R
フロントグリルには旧日産ブランドロゴが付く400R

ですが、400Rの中身は間違いなく一級品です。古い言葉ですが、「羊の皮をかぶった狼」とはまさにこのことでしょう。こうした状況を理解して投資できる方には、400Rをぜひともおススメしたいです。手に入れた限られたオーナーしか味わえない、魔力にも近い魅力が詰まっています。

スカイライン400R
400Rの中身は一級品といえます。まさに「羊の皮をかぶった狼」です。こうした状況を理解して投資できる方には、400Rをぜひともおすすめしたいです。

(文:自動車ジャーナリスト 吉川賢一/写真:エムスリープロダクション 鈴木祐子)

<主要諸元>
スカイライン400R 2WD
■全長×全幅×全高:4810×1820×1440mm
■ホイールベース:2850mm
■車両重量:1760kg
■駆動方式:前輪駆動
■エンジン:VR30DDTT(DOHC・筒内直接燃料噴射V型6気筒)
■排気量:2.997L
■最高出力:298kW(405ps)/6400rpm
■最大トルク:475Nm(48.4kgf・m)/1600-5200rpm
■サスペンション:前/独立懸架ストラット式
後/独立懸架マルチリンク式
■タイヤ:前/ 245/40RF19
後/ 245/40RF19
■WLTCモード燃費:10.0km/L
■最小回転半径:5.6m
■燃料・タンク容量:無鉛プレミアムガソリン・80L

この記事の著者

Kenichi.Yoshikawa 近影

Kenichi.Yoshikawa

日産自動車にて11年間、操縦安定性-乗り心地の性能開発を担当。スカイラインやフーガ等のFR高級車の開発に従事。車の「本音と建前」を情報発信し、「自動車業界へ貢献していきたい」と考え、2016年に独立を決意。
現在は、車に関する「面白くて興味深い」記事作成や、「エンジニア視点での本音の車評価」の動画作成もこなしながら、モータージャーナリストへのキャリアを目指している。
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