■気候変動に対応したカーボンニュートラルの社会実験。1500台のエンジン車を1000台の電気自動車に置き換える
「地球温暖化」という言葉は誤解を招くということで、グローバルには「気候変動(クライメイトチェンジ)」という表現が使われることが増えています。
ところで、日本では現政権が2050年のカーボンニュートラル(実質的なCO2排出量ゼロ)を目指すことを表明していますが、海外では「気候変動」との関係からカーボンニュートラルの同義語として「クライメイトニュートラル」という言葉を使われることが多いようです。
さて、モビリティのクライメイトニュートラルを実現すべく、フォルクスワーゲンとギリシャが協力して、エーゲ海に浮かぶアスティバレア島において社会実験を始めるという発表がありました。
『スマートグリーンアイランド』とネーミングされたこのプロジェクトは、アスティバレア島の交通機関をゼロエミッションの電気自動車や電動スクーターなどに置き換えてしまおうというもの。そのために島内に200箇所を超える充電スポットを設置するなど、インフラ整備も進める予定となっています。
もちろん、電気自動車に充電する電気が化石燃料で発電されたものでは、クライメイトニュートラル(カーボンニュートラル)は実現しません。太陽光や風力といった、再生可能エネルギーによる発電によってモビリティが消費する電力をまかなうことは必須です。当然ながら、今回の『スマートグリーンアイランド』プロジェクトでは、そうした電力供給体制を構築することも大前提となっています。
ちなみにアスティバレア島の人口は約1300人ですが、年間で7万人以上の観光客が訪れる島であり、レンタカーが移動手段として普及していて今回のプロジェクトと親和性が高いというのも、社会実験の地に選ばれた理由ということのようです。
注目すべきは従来からのエンジン車1500台を1000台のゼロエミッション車に置き換えると発表されていること(2輪含む)。
自動車業界100年に一度の変革期と呼ばれる昨今、その変革はCASE(コネクティッド・オートノマス・シェアリング・エレクトリック)という四文字にまとめられることも多いのですが、所有からシェアリングに移行するとクルマの販売台数は大幅に減るといわれています。
今回の『スマートグリーンアイランド』プロジェクトはあくまで一例であり、一般化することはできませんが、それでも十分な充電ポイントとシェアリングを組み合わせることでクルマを所有する必要はなくなり、その台数規模は2/3程度になるというのは、インパクトのある数字です。シェアリングによって自動車市場が縮小する事例として、本プロジェクトの動向に注目といえるかもしれません。
なお、アスティバレア島においてはパトカーや救急車といった公共性の高い車両もすべてゼロエミッション化すると発表されていますし、地元企業が使うすべての商用車も電気自動車に置き換えるとアナウンスされています。そうした部分でも、どのような知見が得られるのか興味深い社会実験です。
(自動車コラムニスト・山本 晋也)