吸気系の概説:運転状況に応じて空気をエンジンに供給する仕組み【バイク用語辞典:吸気系編】

■吸入空気を増やすには、吸気抵抗を減らす、吸気温度を下げる、吸気の密度を上げる

●キャブレターから噴射弁に替わったことで吸気系レイアウトの設計自由度が大きく向上

バイクの燃料供給システムは、2000年頃にはキャブレターから電子制御噴射弁に切り替わりました。これによって吸気系の設計自由度が上がり、スロットルバイワイヤや可変吸気、過給などの新しい吸気システムの適用が可能になりました。

進化が著しい吸気システムの全貌について、概説していきます。

●吸入空気の取り込み方法

吸気系全体像
吸気系全体像

吸入空気はエアダクトから吸い込まれ、エアクリーナーの中のフィルターで濾過された後、吸気ポートの途中のスロットルで空気量が調整され、燃焼室内に吸入されます。

通常、吸気系はエンジン上方に装着されることが多く、エンジンの発熱によって暖められた空気がエンジンに吸入されます。空気は、温度が上がると膨張して密度が下がるので、酸素量が減少して出力が低下します。

ラムエアシステム
ラムエアシステム

これを改善するために、カウル付きロードバイクではカウル前面など車体前方から温度の低い空気を取り込む方法が採用されています。また、車体前面から勢いのある走行風を導入すると、圧力が高いのでさらに吸入空気量を増やす効果もあります。

この効果を積極的に活用しているのが、ラムエアシステムです。カウルの前面や側面の導入口から圧力の高い空気をエンジンに吸入して、過給のような効果を発揮します。

●エアクリーナーの役割

走行中に取り込む空気の中には、条件によっては空気中のゴミや砂ぼこり、異物が混入しており、そのままエンジンに吸入されるとシリンダー壁面の損傷や異常摩耗などのトラブルを引き起こします。

それを防止するため、吸気上流にエアクリーナーを装着します。エアクリーナーには、濾過機能を持つ乾式または湿式のエアフィルター(エレメント)が内蔵されています。

乾式フィルターは、乾燥した状態で使用するので定期的に交換する必要があります。一方湿式フィルターは、フィルターにオイルを浸み込ませて使用し、定期的に洗い油や灯油などで洗浄することで繰り返し使用できます。

●バイクの可変吸気システムとその効果

可変吸気システムは、吸気ポートの長さを低速域と高速域で切り替えて、全域で高いトルクを実現する手法です。

代表的な可変吸気システムとしては、2つの方法があります。

1)自動車で採用されている方法で、吸気経路を2系統とし、その片方にシャッターバルブを設けて、エンジン回転に応じて吸気経路を切り替える方法

2)バイクで採用されている方法で、吸気吸い込み口のラッパ状のエアファンネル(吸気管)の長さをエンジン回転に応じて切り替える方法

可変吸気システムを採用したエンジンは、吸気管の長い低速トルク型エンジンと、吸気管の短い高速トルク型エンジンの特性を併せ持ち、全域で高いトルク特性を発揮します。

●スーパーチャージャーを採用しているモデルは

吸入空気量を増大させる一般的な手法は過給システムで、ターボチャージャーとスーパーチャージャーの2種類があります。自動車では両方のシステムとも採用されていますが、現在バイクで採用されているのはスーパーチャージャーだけです。

スーパーチャージャー
スーパーチャージャー

バイクで唯一スーパーチャージャーを搭載しているのは、カワサキのNinja H2/H2RとZH2です。

排気量998ccの水冷4気筒の4弁エンジンに自社製の遠心式スーパーチャージャーを組み合わせて、最高出力205PS/11000rpm、最大トルク13.6kgm/10000rpmを達成しています。

コンプレッサーの回転数を高めるため遊星ギアの増速機が使われ、低速から別次元の強い加速力を発揮する究極のスーパースポーツに仕上がっています。


本章では、自動車の技術を追従しながら進化しているバイクの吸気システムについて、詳細に解説します。

(Mr.ソラン)

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この記事の著者

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Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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