スロットルバイワイヤとは?アクセル要求を電気的に検出してスロットル開度を制御する仕組み【バイク用語辞典:吸気系編】

■TCS(トラクションコントロール)やABS(アンチロックブレーキ)など安全に不可欠な技術

●安全技術に加え、燃費や排ガスの低減にも活用できるので今後の普及に期待

自動車では一般的なスロットルバイワイヤ(電子制御スロットル)方式を、バイクでも採用したモデルが増えています。アクセル開度に応じて自在にエンジンのスロットルを制御できるので、適切な出力制御によって安全性の向上や燃費、排ガスの低減など多くのメリットがあります。

スロットルバイワイヤの仕組みとメリットについて、解説していきます。

●スロットルバイワイヤの仕組み

エンジンは、スロットル開度を調整することによって吸入空気量を増減させて出力を制御します。

一般的なバイクでは、アクセルグリップの回転による出力要求を、ワイヤケーブルを介して直接エンジンのスロットル開度を調整して実現します。

スロットルバイワイヤの仕組み
スロットルバイワイヤの仕組み

スロットルバイワイヤでは、ワイヤケーブルを介さず、アクセルグリップの要求を電気的に検出してモーターでスロットル開度を制御します。具体的には、グリップに内蔵されたAPS(アクセルポジションセンサー)で検出したアクセルグリップの回転角度をECU(エンジンコントロールユニット)に送信し、ECUがその他のセンサー情報を加味して最適なスロットル開度を演算します。

アクセルグリップ回転とは独立してモーターでエンジン出力を制御できるので、単なる出力調整だけでなく安全のための車体制御、さらに燃費や排出ガス低減に活用できます。

●スロットルバイワイヤにすると何が良い

スロットルバイワイヤには、次のようなメリットがあります。

・ワイヤケーブル除去によってワイヤ系のメンテナンスが不要
2本のワイヤケーブルが1本の細い配線に替わるので取り回しの自由度が向上し、またケーブルの潤滑のメンテナンスが不要になります。

・アクセル開度とエンジン出力の関係を自在に変更
バイクの性格に合わせて、アクセル開度に対する出力感度を自由に設計できます。

・アクセルの開け過ぎによる転倒の回避
滑りやすい(濡れた、凍結した)路面やカーブ出口で急加速すると、スリップする危険があります。各種のセンサー情報から危険な状況を検知して、スロットル開度を調整し常に最適なトラクションを与えることができます。

・燃費の改善
急激なアクセル操作を行うと、制御上の遅れなどから不要な燃料を噴射することになります。スロットル開度を適切に制御することで、無駄な燃料噴射を抑えて燃費が改善できます。

一方で、ライダーの意図通りにスロットルが作動しないので過激なアクセルワークを楽しむことができない、また慣れるまではアクセルフィーリングに違和感が生じるというデメリットがあります。

●車両制御への適用例

スロットルバイワイヤを利用した代表的な車両制御の事例としてTCS(トラクションコントロール)を紹介します。

スロットルバイワイヤのイメージ
スロットルバイワイヤのイメージ

TCSでは、滑りやすい路面の走行や急発進、急加速時に、前輪と後輪の回転差から後輪のスピン(空転)を検出。スピンを抑えるようにスロットル開度と点火時期を制御して、エンジン出力を抑えてタイヤのグリップ力を確保します。

その他にも、ブレーキング時のタイヤロックを防止するABS(アンチロック・ブレーキシステム)やコーナリング時にブレーキングと加速を最適化するASC(アクティブ・スタビリティコントロール)にもスロットルバイワイヤが利用されます。


ほぼすべての自動車はスロットルバイワイヤを採用していますが、バイクではまだ採用が限られている先進技術です。

今後、安全への要求や燃費、排ガスの規制が厳しくなることを考えると、バイクでもスロットルバイワイヤが普及すると予想されます。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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