■意外と多いウイングレス
市販車、つまりツーリングカーでの競技はいろいろありますが、周回レースに於いてレギュレーションで認められている場合は、まずウイングがついています。
主な理由としては、空力でリヤを地面に押しつけてリヤタイヤのグリップ力を高めてやろうというのが目的です。特に後輪駆動の車両は、後輪のグリップが上がると、駆動力が路面によく伝わるようになります(これを「トラクション性能が向上する」といいます)。
では同様に、市販車を使って行うD1では? ウイングの有無はけっこう分かれるのです。ステーがついた高いGTウイングを装着している車両もあれば、ステーなし、ベタ付けタイプの低いスポイラーがついている車両もあるし、スポイラー的なものをまったくつけていない車両もあります。これはどういうことなのでしょう?
まず、ウイングをつけていない上野選手は、その理由を「リヤラジエターのため、ウイングをつけることで気流が変わって、冷えなくなっちゃうといやなので」ということでした。
以前のソアラやBMWのときにはつけていたので、現在のレクサスRCでは、それよりもラジエターの冷却性を重視しているのでしょう。
田中(省)選手のマシンは、以前はウイングを装着していました。しかしやはりラジエターをリヤに移設したことで前後の重量配分が改善されたことと、タイヤの性能が上がってトラクション性能が上がって不要になったとのことで、現在は外しています。装着するとむしろパワーが負けてしまうほどなのだそうです。
次はウイング装着派に聞いてみました。D-MAXチームの横井選手は「基本的にはリヤを食わせたいので使っています」とのこと。ただ、リヤのグリップが高すぎて、コーナリング中のシフトチェンジ時にフラついてしまうようなときには外すこともあり、過去には十勝スピードウェイで外したそうです。
もちろんD-MAXはエアロパーツも販売しているので、つけていたほうが宣伝効果があるという理由ももちろんあるでしょう。同じチームの末永(正)選手も「シルビアは特にウイングがあったほうがカッコいいと思います」と言っています。
また、この第4戦・第5戦オートポリスでは、最初はウイングをつけていなかったのに練習走行の途中から装着した選手もいました。そのひとり、中村選手は、「ストレートで加速するときに、もっとトラクションをかけたかった」といいます。
今回は足のセットを変えた関係で最初はウイングレスを試してみたそうですが、基本はウイング付きだそうで、「リヤのグリップが強すぎて、振り出しで引っかかるようなときには外すようにしています」ということなので、本来の仕様に戻したというのが正しいかもしれません。
また、同様に北岡選手も練習走行中にウイングを装着しました。北岡選手も同じく「ストレートの(加速時の)トラクションがもっとほしいと思ったからです。つけたらだいぶアクセルを踏めるようになった」とのこと。ちなみに「ミニサーキットなどで、リヤタイヤが食いすぎちゃってるときは外します。エア圧だけじゃなくてリヤウイングもセッティングの要素のひとつとしてつけたり外したりします」ということです。
最後にステーのないベタ付けタイプのスポイラーを使っている小橋選手に聞いてみました。
「GTウイングも試したことがあるんですけど、100km/h以上出るコースだとやっぱり振り出しにくくなりますよね。車速域でクルマの動きのちがいが大きくなりすぎちゃうし、振り出しで引っかかると点数が出ないので、GTウイングは使っていません」とのこと。
このベタ付けタイプのスポイラーはそれほど効きが強くはないので気にならないそうです。
基本的にモータースポーツというのはタイヤのグリップが高いほうがいいとされています。ところがD1のようなドリフト競技の場合は、タイヤをわざと滑らせるので、可能な限りグリップさせたい場面とそうでもない場面が、けっこう分かれるんですね。
そのなかでクルマの仕様によって、あるいは好みによって、そしてコースによって、みんな使い分けているのでしょう。ちなみに、以前のD1GPはいまよりウイング装着車が多かったと思います。前述のとおりリヤラジエター車が増えて、タイヤのグリップも上がってきたので、ウイングレス車が増えてきたのでしょう。
さて、10月30日にオートポリスで行われたD1GP第4戦では、小橋正典選手が優勝しました。つづく11月1日に同コースで行われた第5戦では、植尾勝浩選手が優勝しました。
両日とも単走優勝は藤野秀之選手でした。
このラウンドの結果、シリーズ順位は小橋選手が首位をキープ。2位とのポイント差は少し広がりました。そしてシリーズ2位には開幕戦で優勝した川畑選手が、同3位には藤野選手がつけています。2020年シリーズは残り3戦です。
(文:まめ蔵/写真提供:サンプロス/まめ蔵)
【関連リンク】
D1グランプリの詳しい情報は、D1公式サイト(www.d1gp.co.jp)で。