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■新世紀時代の新生ZはV35スカイラインと兄弟分に
前回のZ32解説の最後は、スポーツカー受難のあおりで生産中止、日産スポーツの歴史にピリオドが打たれたと書きました。しかしただ終わったのではありません。5代目となるZ33の開発プロジェクト開始は1999(平成11)年1月。そう、Z32終了前から着々と進められていたのです。
■5代目フェアレディZ (Z33型・2002(平成14)年7月)
初代から「安価で売りたい」という思いは一貫していたものの、4代目Z32までは専用プラットフォームによる成り立ちだったため、エンジンやトランスミッションはともかく、Zは代々、日産他車とのパーツ共有による量産効果が得にくいという悩みがありました。専用設計部位が多いということは、進化させにくいということでもあります。何を新設するにもやはり専用化せざるを得ないためです。これも量産効果の話とつながり、要は専用設計はコストを押し上げることになり、それは最終的に車両価格の上昇に直結するのです。
この頃の自動車メーカーは、環境対応や安全技術に注力するため、国境を超えて他メーカーと手を組むように入っていました。自前ですべてを完結するのは不可能な時代になっていたのです。
…という趨勢の中にある2002(平成14)年7月、Z33型フェアレディZが発売されました。
数えて5代目となりますが、2000年8月の生産中止から約2年の空白を置いてのZ33ですから、Z32からZ33へと型式が連続していても、「新型」「5代目」というより「新生」と謳うほうがしっくりくるように思います。
時代はZの専用プラットフォーム設計を許しませんでした。
前年2001年6月のV35スカイライン、そして翌2003年1月のV35スカイラインクーペとのFMプラットフォーム共有を強いられましたが、それが奏功し、当時のデトロイトショーでの「3万ドルで売りたい」というゴーン社長のコメントどおりの車両価格をほぼ実現することができました。
●2シーター1種に決め打ちされたボディバリエーション
ボディはクローズドタイプの2シーターに1本化され、2by2もTバールーフも廃止されました。4人乗りスポーツカーの世界は、数ヵ月後に発進させるV35スカイラインクーペに託したのでしょう。そういえば、2人乗りと4人乗りの違いを除けば、Z33とV35クーペのシルエットは良く似ています。
ゴーン体制以降、日産車のデザインは大きく変わりましたが、4代目シーマ以降の新生日産デザインの定石に並ぶエクステリアを纏います。
サイズはZ32よりも小さくなったように見えますが、長さ、幅ともZ32と同じなのが意外。全高が70mm高くなりましたが、ホイールベースが200mm長くなったので、真横から見ると全高の70mmアップなどものともしない伸びやかさがあります。
代々Zの外観特徴はライトにありますが、今回そのライトの構成が変わりました。ユニット内にロー/ハイとならべていた横長配置から、上にロー/下にハイ(逆じゃないよ!)の縦レイアウトに。ロー側は全車キセノンライトが標準化されました。
リヤにまわり、ハッチゲートのガラスを通して見えるZマークはただのアクセントではなく、リヤサスペンション上端左右を結んで補強する「リヤストラットメンバー」です。
これは荷室を前後に分断して使い分けられるようにする役目も果たしており、前側は上着などを座席からでも置けるように、後ろ側はメインスペースとして9インチのゴルフバッグがふたつ積めるサイズを有しています(合計235L)。そしてハッチを閉めたときはアクセントにもなる…これぞデザインと実用性の両立でしょう。
サイドの工夫では、パーシャルダウンウインドウが挙げられます。ドアを開けた瞬間に10mmガラスを下げてドアを閉まりやすくし、閉じた直後に上昇させる機能。確かヨーロッパ車から広がった機能で、室内気を一部逃がして半ドアを防ぐねらいがあります。
●新世紀Zの意気込みはインテリアにも宿る
車両寸法はZ32と変わらないながら、室内はグンとタイトな雰囲気になりました。Z31までのピュアスポーツ路線とも、Z32での知性派スポーツとも異なる、21世紀のZをめざしたようです。やはり新生Zなのです。
とはいいながらも、Z32で消えた3連メーターが復活しました。「やはりZはこうじゃないと!」とデザイナーが思ったのかもしれません。左から電圧計、油圧計、そして時計…だけではなく、時刻表示のほか、燃費、航続距離、ストップウォッチなどの機能表示を持つドライブコンピューターです。
誰が見ても奇異に感じるのはグローブボックスがないことでしょう。ここにあるのは、押してせり出すカップホルダーひとつだけ。理由は「解放感のある足元スペースの実現」のためだそう。
両席シート背後にあるキー付のリヤフロアボックスがグローブボックスの代わりです。歴代Zの2シーター車で、シート背後にふた付きの立派なもの入れが設けられたのは、このZ33が最初かもしれません。
●日産V6の傑作・VQエンジンがいよいよZにも載った!
エンジンはZ32のVGからVQに変わりました。1994年の2代目セフィーロへの搭載でデビューを果たし、世界中から名作と称されたVQがようやく2002年のZ33に載ったのは、Zにとっては遅かったというべきでしょう。本来、世界中のメーカーから軽量・コンパクトなV6と称賛を受けたVQエンジンこそ、Zにふさわしいのです。
搭載されるのは3.5L・VQ35DEの自然吸気に絞られました。いまどきツインターボでGO!という時代ではないという判断です。
自主規制いっぱいの最高出力280psエンジンは、当時のスカイライン350GT-8用の改良版で、吸排気系の高効率化、中高速域のフリクション低減などを施してあります。
MTはクロスレシオの6速となったほか、ATは新時代らしく、マニュアルモード付の5速AT…エンジンにしてもトランスミッションにしても、この頃には他の日産車で採用済みのものが多いため、生産期間が長く、ましてや生産中止の憂き目に遭ったZ32からの進化幅は大きいにしても、歴代Zを見る目には、ひとつひとつがZならではの価値観、新鮮味が乏しく映ってしまうのは否定できないところです。
【スペック】日産フェアレディZ(Z33型・6MT・2002(平成14)年7月)
●全長×全幅×全高:4310×1815×1315mm ●ホイールベース:2650mm ●トレッド 前/後:1535/1540mm ●最低地上高:120mm ●車両重量:1430kg ●乗車定員:2名 ●最小回転半径:5.4m ●タイヤサイズ 前/後:225/50R17 / 235/50R17 ●エンジン:VQ35DE(水冷V型6気筒 DOHC) ●総排気量:3498cc ●圧縮比:10.3 ●最高出力:280ps/6200rpm ●最大トルク:37.0kgm/4800rpm ●燃料供給装置:EGI(電子制御燃料噴射) ●燃料タンク容量:80L(プレミアム) ●サスペンション 前/後:独立懸架マルチリンク式/独立懸架マルチリンク式 ●ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク式/ベンチレーテッドディスク式 ●車両本体価格(当時・東京価格、消費税抜き):300万円