8月27日に正式発表、いよいよ10月30日から発売となる「Honda e」。見る人すべてを惹きつけるこのスタイリングの魅力はどこにあるのか。あらためて担当デザイナー氏に話を聞きました。
●「丸は円満」の言葉に沿って
──「Honda e」は極めてアイコニックなスタイリングですが、これは最初から意図されたものですか?
「そうですね。Honda eは欧州市場を意識したコンパクトEVですが、現地でのホンダのシェアは1%以下です。そこに打って出る新しいEVとして、スタイルはもちろん機能や性能などを含めてアイコニック的な存在としたかった。同時にホンダのブランド力を上げたいという意図もありますが、恐らく日本市場だけならこうはならなかったと思います」
── 造形として「丸」をテーマにしたのはなぜですか?
「まず、毎日使うものとして愛着や親しみを感じさせるものとしたかった。また、創業者の本田宗一郎の言葉に「丸は円満、四角は堅実、三角は革新」というものがあって、そこからの発想もあります。たとえばサイドミラーやドアハンドル、アルミホイールのスポークなどは、「長丸」をモチーフとすることで、デザインも迷いなく進められました」
── 革新的EVでありながら、基本的なシルエットやパッケージは従来からのハッチバックスタイルですね
「実は開発に当たってノルウェーのオスロを訪れたのですが、水力発電でほぼ全電力を賄っていて、EVのシェアは何と5割を超えているんですね。そうした北欧の豊かな生活とEVの関係を見たとき、必ずしもEVが先進的なスタイルである必要はないと感じました。また、EVではエアコン効率が航続距離に直結しますので、あまり広大な空間は避け、かつ窓の面積も小さくしたいという意図もありました」
── 前後の絞りだけでなく、コンパクトサイズにしては面の豊かな張りが印象的です
「面の張りを出すにはデザイン代(しろ)が必要ですが、フィットより50mmほど広い全幅が有効でしたね。ただ、キャラクターラインが少ないため、ボディ全体で大きな面を表現しなくてはならず、その点では難しかったと言えます。どこか1カ所の構成要素を動かしただけで、全体が崩れてしまうような難しさです」
── そのキャラクターラインはサイドに1本だけ引かれていますが、この線の意図は?
「実は初代シビックをモチーフにしていることがありますが、同時にサイドボディの上下の間延び感を避ける意図があります。また、サイドのガラスとボディ面には段差がありますので、そこを埋める役割もあるんですね」
── Cピラーはかなり太くしっかりしたものとしましたね
「はい。ひとつは先のエアコンの話に準じ、サイドとリアのガラス面積をあまり広くしたくなかった。もうひとつはリアビューでの存在感で、あまりピラーが細いと、後ろから見たときにボディが弱々しく感じてしまうんです。欧州戦略車として、リアビューがどっしり安定し、地に足が着いている感じを出したかった」
●Honda eのチャレンジは試金石だった
── 外観は従来のハッチバックスタイルですが、インテリアにはそうした懐かしさをモチーフにしていません
「そこは逆に、クルマに興味のない人にも違和感なく入り込んで欲しいという意図ですね。また、急速充電で30分ほど掛かるEVとして、その間を過ごす室内に従来とは違った世界観を与えたかった。インパネの木目やシート素材は家のインテリアを感じさせますし、ブラウン色のシートベルトは過剰な機能感を減らし、気持ちを軽くしてくれます」
── 最後に。モダン、シンプルをテーマにしたHonda eが今後のホンダ車に与える意味や影響はありますか?
「スケッチでは魅力が伝わらないクルマを、実際に作ってみたら非常に大きな反響があった。その意味でこのチャレンジは試金石であり、収穫も大きかったですね。たとえば、ルーフを1枚ガラスにしたり、Aピラーからルーフに延びるガーニッシュを1ピースにするなど、線をなくすために徹底してこだわった。つまり、このデザインをそのまま使うのではなく、そうしたノウハウで今後の新型車を作っていける確信を得たということですね」
── これからはまったく新しい取り組みが期待できそうですね。本日はありがとうございました。
(インタビュー・すぎもと たかよし)