VW T-Rocは日本のクロスオーバーSUV試乗を席捲できるか?【新型車インプレッション・車両概要編】

●T-Rocはドイツで売れに売れているクロスオーバーSUV

2020年7月15日より発売開始となったフォルクスワーゲンの新型クロスオーバーSUV「T-Roc」。キャッチコピーは「All My T-Roc」であり、その名の通り普段使いはもちろん、長距離ドライブなど、あらゆるニーズに応えるマルチなSUVだ。

T-ROC
T-ROC前7:3

T-Rocは「Tiguan(ティグアン)」の弟分、そして「T-Cross(ティークロス)」の兄貴分にあたる。すでにドイツ本国では、2019年間販売台数が20万7863台(参考:JATOデータベース)と、ティグアン(約22万台)に次いで売れに売れている一台だ。

日本に導入されたのは、2.0リッターのクリーンディーゼルエンジンを搭載した「TDI」だ。車両価格は、税込384万9000円~453万9000円。ドイツからの最強の刺客「T-Roc」は、日本市場を席捲するだろうか?

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■車両価格384万円~、コストパフォーマンスは高いのか
■全長が短く、取り回しが楽
■まとめ

■車両価格384万円~、コストパフォーマンスは高いのか

フォルクスワーゲンによると、日本のSUVマーケットは国内の道路事情にマッチしたコンパクトなサイズのSUVが、販売全体の約75%を占めているという(VGJ調べ)。

ミドルサイズSUVであるRAV4のヒットは例外として、国内登録車ランキングで上位にランクインするSUVは、ヴェゼルやC-HR、ライズ/ロッキーといったコンパクトSUVが主流だ。この日本市場に持ち込まれたのが、2020年2月に発売開始した「T-Cross」そして「T-Roc」だ。

T-RocはベースグレードにあたるTDI Styleが384万9000円、デザインパッケージ装着車が405万9000円、TDI Sportが419万9000円、TDI R-Lineは453万9000円。

トレーリングアーム式のリアサスを用いたコンパクトSUVと考えると、随分と高く感じるが、ナビやオーディオ、コネクティッド機能を有した8インチタッチスクリーンモニタのDiscover Proや、画面全体に地図表示ができるデジタルメータークラスターも標準装備。

また、全車速追従機能付のアダプティブクルーズコントロールやレーンアシスト機能も、もちろん付く。そうなるとコスパはかなり高いともいえそうだ。

ちなみにドイツ本国ではTDI Styleが約294万円、日本向けとして90万円ほど上がるのは、日本仕向への適合費、輸送費、残りはVWのブランドバリュー代、ということだろう。なお、ドイツにはさらに安い262万円のベーシックグレードがあり、本来T-Rocはお手頃な価格のSUVなのだ。

T-ROC
コンパクトで清潔感のあるスタイリングにまとまったリアデザインもシンプルでおしゃれ

ライバルとなる国産車は、ホンダヴェゼルやトヨタC-HR、そしてキックスなどだ。燃費の面で張り合える国産SUVとして妥当なものを上げると、ヴェゼルハイブリッドが約250万円~(ガソリンエンジン仕様は約211万円~)、C-HRハイブリッドが約273万円~(ガソリンエンジン仕様は約236万円~)、キックスは約276万円~。

装備面での差異はあるが、この価格差を埋めるだけの魅力が、T-Rocに備わっているかが気になるところだ。順次、確認していこうと思う。

T-ROC
フロントマスクはT-Crossにも似ているが、細部のデザインは異なる。なおウィンカーランプはヘッドライト下の四角いリングがオレンジに光る

■全長が短く、取り回しが楽

ボディサイズは、全長4240×全幅1825×全高1590mm。トヨタC-HR(4385×1795×1550mm)や、ホンダヴェゼル(4330×1770×1605mm)、日産キックス(4290×1760×1610mm)と比べると、全長は短く、車幅はワイドなサイズ感だ。

ちなみに、ヤリスクロス(4180×1765×1590mm)と比べると一回り大きい。T-Rocは、日本人が好みそうな「コンパクトSUV」にぴたりと当てはまる。

T-Rocは、スタイリッシュなエクステリアデザイン&多彩なカラーバリエーション、全長4240mmとしたコンパクトなボディサイズ、MQBによる短いホイールベースとは思えない広い室内と最小回転半径5.0mの使い勝手の良さ、そして、VWならではの走りの良さ、この4点が訴求ポイントだ。

中でも走りに関しては、2.0リッターのTDIエンジン一本とした。兄貴分TiguanにおけるTDIへの高い評判を元に決定したそうだ。最大出力110kW(150PS)・最大トルク340Nmの高いパフォーマンスを誇り、1430kgのT-Rocを軽々と加速させる。WLTCモード燃費も18.6km/Lと、同カテゴリでもトップクラスの低燃費を誇る。

T-Rocは小回り性能が非常に高く、Uターンや駐車場での取り回しが実に楽だ。最小回転半径は5.0メートルと、国産ライバル車に比べ、さらに小さく曲がれる。ちなみに、ヤリスクロスとヴェゼルは5.3m、C-HRは5.2m、キックスは5.1mだ。フロント輪が大きく転舵できる設計なのを見ると欧州車らしい長所だと感じる。

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最小回転半径は5.0メートルと、国産ライバルに比べ、さらに小さく曲がれる

■まとめ

標準装備の内容を考慮すれば、T-Rocのコスパは高いともいえそうだ。だが、ナビとデジタルメーターで価格差がすべて埋められるわけではなく、内装の作りや使い勝手、走りの魅力が加わってこそ、戦えるだろう。

T-ROC
画面全体に地図表示ができるデジタルメータークラスターも標準装備となる

以降の記事では、そうしたクルマの使い勝手や走りにフォーカスし、ライバル車に対するメリットデメリットを比べていく。

(文:自動車ジャーナリスト吉川賢一/写真:エムスリープロダクション鈴木祐子)

試乗動画はこちら!【クリッカー第2チャンネルです】

<主要諸元>
T-ROC TDI Sport
■全長×全幅×全高:4240×1825×1590mm
■ホイールベース:2590mm
■車両重量:1430kg
■駆動方式:前輪駆動
■エンジン:DEF/直列4気筒DOHCインタークーラー付きターボ
■排気量:1.968リットル
■最高出力:110kW(150ps)/3500-4000rpm
■最大トルク:340Nm(34.7kgf・m)/1750-3000rpm
■トランスミッション:7速DSG
■サスペンション前後:前/マクファーソンストラット(スタビライザー付)
後/トレーリングアーム
■タイヤ前後:前/ 215/50R18
後/ 1215/50R18
■WLTCモード燃費:18.6km/L
■最小回転半径:5.0m
■燃料・タンク容量:軽油・50L

この記事の著者

Kenichi.Yoshikawa 近影

Kenichi.Yoshikawa

日産自動車にて11年間、操縦安定性-乗り心地の性能開発を担当。スカイラインやフーガ等のFR高級車の開発に従事。車の「本音と建前」を情報発信し、「自動車業界へ貢献していきたい」と考え、2016年に独立を決意。
現在は、車に関する「面白くて興味深い」記事作成や、「エンジニア視点での本音の車評価」の動画作成もこなしながら、モータージャーナリストへのキャリアを目指している。
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