■大気汚染の改善に期待大。ゼロエミッションビークルの普及は再生可能エネルギーによる発電も促進させる?
現時点でのコスト、生産性、インフラ普及度などからするとBEV(バッテリー電気自動車)よりもICE(内燃機関)を使ったコンベンショナルなエンジン車のほうが有利という主張は自動車業界からよく聞くところですし、また現実的なCO2排出量削減でいえば、ハイブリッドカーを普及させたほうが効果が期待できるといった意見を目にすることも少なくありません。
しかし、世界は確実にBEVやFCV(燃料電池車)などのZEV(ゼロエミッションビークル=走行中に排出ガスを出さないクルマ)に向かっています。
すでにEU(欧州連合)は2040年を目途にエンジン車の販売禁止を宣言しています。さらにイギリスはそれに先んじて2035年にはエンジン車の新車販売を禁ずるという方針を示しました。
そして、新たにアメリカ・カリフォルニア州も2035年にはガソリン車(乗用車とトラック)の販売禁止を宣言したのです。アメリカ全体としてはトランプ政権の方針としてCO2排出量削減については世界の潮流に対して距離を置いているカタチですが、アメリカの中でも環境に厳しいカリフォルニア州は独自にガソリン車の販売禁止という方針を打ち出したというわけです。
カリフォルニア州がガソリン車を禁ずる理由は大きく2つ考えられます。ひとつは温室効果ガス(主にCO2)の排出量を削減すること。もうひとつが大気汚染への対応です。
もともとカリフォルニア州において自動車の排ガス規制が厳しくなったルーツは大気汚染対策にあります。そのためZEV全般の普及を長らくテーマとしてきたのですが、いよいよICEを禁ずる動きが具体化してきたといえます。15年後にエンジン車の販売禁止というのは、時間が少ないようにも思えますが、こうしてゴールが設定されれば、そこにリソースを集中させるという経営判断もしやすくなり、すなわち技術進化がスピードアップをするというのは過去の歴史からも明らかといえるでしょう。
また、自動車部門だけでなく発電におけるCO2排出量の削減も目標とされるはずですから、太陽光や風力といった再生可能エネルギーによる発電が増えていくことも容易に想像できます。
そうなったときに電気を保存するソリューションとして、水素社会の到来というのも予想できる未来です。ですから、ガソリン車の販売停止によって、すべてがBEVに切り替わるとはいえません。一定数、FCVのニーズも生まれてくると考えるのが妥当といえます。
とくに大型トラックやバスといったジャンルではBEVよりもFCVのほうが多数派になる未来を予想している業界関係者も少なくありません。
いずれにしても、15〜20年後という明確な未来において「特定の地域」においてはエンジン車の販売が禁じられることは確定路線となりました。もちろん、グローバルにはまだまだエンジン車のニーズが存在するでしょうから、エンジン車の生産が完全になくなるのはもっとずっと先の話になるでしょう。
それでも、エンジン車の生産設備を持っていることは自動車メーカーにとって負の遺産となることは確実です。どのタイミングでエンジン車の生産を止めるのかを想定して、それまでに生産設備の整理を進められることが将来にわたって生き残るためには必須となります。
その意味で、レガシーな負債を抱えていないZEV専業メーカーが高く評価され、株価が上昇していくのは当然で、株式市場はそこまで考えて、自動車メーカーの価値を捉えていると理解すべきかもしれません。
(自動車コラムニスト・山本晋也)