環境対応で苦しんだ軽自動車産業ですが、1980年代を迎えて軽自動車市場は再び活況を取り戻します。
そのきっかけになったのは、鈴木自動車の「アルト」と「ワゴンR」でした。第5章では、軽自動車の第2黄金期(1980-2000年)を牽引した鈴木自動車の代表的なモデルについて紹介します。
排ガス規制対応で販売が低迷した鈴木自動車を救ったのは、47万円という驚異的な低価格で大ヒットした1979(昭和54)年発売の「アルト」でした。物品税がかからない商用車でありながら、乗用車スタイルの「軽ボンネットバン」という新しいジャンルを開拓しました。
1980年代のトレンドを作ったアルトは、鈴木自動車のみならず軽自動車の第2黄金期の立役者となったのでした。
第5章 軽自動車・第2黄金期(1980-2000年)と鈴木自動車
その1.軽ボンネットバン「アルト」による新しい市場の開拓
●排ガス対応のための規格改定
1970年代のオイルショックや排ガス強化によって、大きな打撃を受けたのはエンジン排気量の小さい軽自動車でした。なかでも鈴木自動車は、2ストロークエンジンにこだわり過ぎ、対策が遅れたという経緯から販売は大きく落ち込みました。
1976(昭和51)年、軽自動車の排ガス規制対応によるコスト上昇や出力低下の救済策として軽自動車の規格改定が行われ、排気量が従来の上限360ccから550ccに拡大。これによって軽自動車が小型車に近い実用的なクルマとなり、1970年代後半には軽自動車は再び活気を取り戻しつつありました。
そのような中、1978(昭和53)年には、それまでの鈴木寛治郎3代目社長に代わり、2代目社長鈴木俊三の娘婿の鈴木修が4代目社長に就任しました。鈴木修社長の最初の功績は、「アルト」の成功でした。
●アルトが開拓した軽ボンネットバンとは
排ガス規制対応で後れを取った鈴木自動車が、次期車「アルト」のコンセプトとして決めたのは、「物品税がかからず価格が安くできる商用車でありながら、乗用車スタイルのクルマ」でした。
商用車にすることのメリットは、商用車は物品税が非課税のため販売価格が下げられることです。物品税とは贅沢品には課税するというもので、生活必需品は非課税でした。まだ「乗用車は贅沢品」という時代だったわけで、軽乗用車については当時15.5%の物品税が課せられていましたが、軽商用車は非課税でした。
軽商用車のアルトは、定員は4人ながら実質2人乗りで荷室が広い「軽ボンネットバン」という新しいジャンルを開拓。軽ボンネットバンが誕生した背景には、モータリゼーションが一段落して主婦層が足として利用するセカンドカー需要の増加、また、日常で使用する場合の乗車人数は2名以下であること、女性ドライバーは乗用車か商用車かを意識しないといった市場調査の結果がありました。
1979(昭和54)年に軽商用車「アルト」が発売されると、目標月販台数5,000台に対して1万8000台を受注するほどの大ヒットモデルになり、1980年代の軽自動車のトレンドを作り出しました。
●「アルト」の技術特徴
徹底的なコストダウンと、商用車だから実現できた「47万円」という車両価格は、それまでの軽自動車の低価格仕様でも55万円程度であった時代に驚異的な安さでした。
アルトはFF駆動の5代目「フロンテ」の商用車仕様で、基本構造は同じでした。
ただし後席シートを背もたれが垂直の、可倒式の最小限サイズのものに変更。これは「前席シートバックから後方のスペースのうち、半分以上は荷室であること」という商用車規格に合わせるためです。多くのユーザーが後席を使わないなら、後席エリアを減らしてでもコストを下げる方が得策という大胆な戦略でした。さらにウィンドウォッシャーは手押しポンプ式、ラジオはオプション設定、ドアなどの内張りは平らなボードにとどめ、左側ドアのカギ穴もなくすなど、徹底的なコストダウンが図られました。この大胆な戦略を考えたのも鈴木修社長です。
排気量550ccで最高出力28PSの水冷2ストロークおよび4ストローク3気筒エンジンを搭載しましたが、価格47万円仕様は安価な2ストロークエンジンでした。
大ヒットした「アルト」は、排ガス規制の影響で販売不振に陥っていた鈴木自動車の救世主となり、また、鈴木自動車を軽自動車のトップメーカーに押し上げる原動力になったのでした。
(文:Mr.ソラン 写真:スズキ)
第20回に続く。
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