過失相殺とは?過失の割合に応じて加害者と被害者が公平に賠償額を負担【自動車用語辞典:交通事故編】

■走行中のクルマやバイクが衝突すると、状況はどうであれ通常は両者に過失が適用

●加害者だけでなく被害者側の過失の程度を考慮して両者の賠償額を決定

交通事故では、加害者側の100%責任のケースは少なく、実際には被害者にも何らかの過失が認められるケースが多いです。過失相殺とは、損害賠償額を決定する際に加害者のみならず被害者側の過失の程度を考慮して、賠償額を減額することです。

損害賠償額に大きな影響を与える過失相殺について、解説します。

●被害者の過失による賠償額の減額の考え方

実際の交通事故では、加害者のみが一方的に悪いということは少なく、多くは被害者側にも何らかの過失があることが多いです。

過失相殺は、過失の割合に応じて、両者が公平に責任を負担すべきという考え方に基づいています。

例えば、A車とB車が交差点で衝突した場合を考えてみます。

B車側には一旦停止の標識があり、A車とB車の過失割合は 20:80とし、A車の損害額は200万円、B車は100万円としています。

過失相殺の賠償額は、A車はB車に対して20万円、B車はA車に対して160万円負担することになります。結果として、賠償額を清算すると140万円をB車がA車に支払うことになります。

損害賠償を請求する場合、過失相殺が適用になるのは、主に任意保険です。

自賠責保険は、被害者保護という社会的な意義を持つ強制保険なので、被害者に重大な過失がある場合にしか、過失相殺は適用されません。

過失相殺の一例
過失相殺の一例

●過失割合の判定基準

過失割合によって賠償額が大きく変わり、また感情的な問題も絡むので、被害者側が納得いかず判定が争点になるケースが多いです。さまざまな形態の交通事故があり、定型的な明解な判定基準があるわけではないので、通常は過去の前例をベースに判定されます。

判定基準は、まず事故の形態で4輪対4輪、4輪対2輪、4輪対歩行者というように大きく分類され、加えて交差点や市街地など事故の発生場所によって基本的な過失割合が決定されます。

その上で、発生したのは昼か夜か、被害者の年齢、それぞれの過失が何かなど修正要素を考慮して基本過失割合を調整して、最終的な過失割合が決定します。

●過失割合の修正要素例

4輪車対歩行者の事故の修正要素としては、下記があります。

・歩行者に過失が加算される修正要素
ふらふら歩き、横断禁止の規制あり、夜間、幹線道路、直前直後横断など

・歩行者の過失が減算される修正要素
児童や高齢者、幼児や身体障害者、集団横断、歩車道の区別なし、住宅や商店街など

さらに具体的に構成要素による過失割合の修正例を示します。

歩行者が横断歩道の付近を歩いて横切り、通行してきたクルマ(加害者)と衝突したケースです。状況は、夜間で幹線道路、周囲は商店街、歩行者は高齢者です。

・基本過失割合:歩行者と4輪の事故、場所は横断歩道付近で25%

・歩行者に過失が加算される要素:夜間+5、幹線道路+10

・歩行者に過失が減算される要素:商店街-10、高齢者-10

以上、基本過失割合(25%)に修正要素を考慮して、最終的な歩行者の過失割合は20%です。

また修正要素には、「著しい過失」や「重過失」があります。クルマの場合、具体的には以下のような場合が該当し、当然ながら被害者でも高い過失割合になります。

・著しい過失

わき見運転、酒気帯び運転、携帯電話の使用、ハンドルまたはブレーキの不適切な操作、おおむね時速15km/h以上30km/h未満の速度オーバー

・重過失

居眠り運転、酒酔い運転、無免許運転、時速30km/h以上の速度違反


加害車がわき道から左右確認不足で直進走行中の被害車の側面に衝突しても、過失割合は100:0になることはありません。被害車側からみれば、横から突然衝突してきたのだから一方的に加害車が悪いと考えますが、被害車にも前方不注意という過失が認められるからです。

一般的には、走行中のクルマやバイクが衝突すると、状況はどうであれ過失相殺が適用されるのが通例です。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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