鈴木自動車は1962年、2ストローク単気筒エンジンのRM62で「マン島TT」初代50ccクラスの王者に【スズキ100年史・第5回・第1章 その5】

創立40周年にあたる1960(昭和35)年、鈴木自動車(当時)は世界GPの大舞台「マン島TT」に挑戦しました。

2年の苦闘の末、1962(昭和37)年に新設された50ccクラスでついに念願の初優勝を飾りました。その後も圧倒的な強さで125ccでも優勝を飾り、さらに1963(昭和38)には伊藤光夫が日本人ライダーとして初めて優勝するという快挙も成し遂げました。

掴み取った数々の栄光は、鈴木自動車の技術力をアピールし、国内外での販売促進という形で結実したのでした。

第1章 始まりは鈴木式織機、そして2輪車への挑戦

その5.世界最高峰レース「マン島TT」の制覇

●「マン島TT」へ初参戦

1960(昭和35)年、鈴木自動車は世界GP「マン島TT(ツーリスト・トロフィ)」への挑戦を開始。当時の世界GPは欧州各国を年間6~7レースで転戦して、チャンピオンシップを競っていました。しかし、鈴木チームの規模では全戦参戦するのは無理なので、まず最も認知度の高い「マン島TT」に絞って参戦したのです。

「マン島TT」は、英国とアイルランドの中間に位置する英国自治領のマン島1周60kmのレースで、世界で最も過酷なレースと言われています。しかも、参戦が決まってから本番の1960(昭和35)年6月まで準備期間が半年しかないという厳しい挑戦でした。

チームは125ccクラスで2ストローク2気筒エンジンのRT60マシン3台で参戦し、結果は15位、16位、18位でした。全車完走という最低限の目標は達成しましたが、一方で世界との大きな実力差を思い知らされた、ほろ苦いデビュー戦となったのです。

●世界GPへの本格参戦と初優勝

1961(昭和36)年には、「マン島TT」以外の世界GPへの参戦と、さらに125ccクラスに加えて250ccクラスにも参戦しました。

RT60マシンを改良したRT61マシンで125ccクラスに、2ストローク2気筒エンジンのRV61マシンで250ccクラスに参戦。しかし、耐久信頼性不足からリタイヤや完走がやっとの状態で散々な結果となり、この年はこのオランダ、ベルギーの2戦で参戦を中断して次年に備えました。

そして1962(昭和37)年には、鈴木自動車にとって朗報となる50ccクラスが新設。50ccクラスの2ストローク単気筒エンジンのRM62マシンで挑んだGP第3戦「マン島TT」でついに念願の初優勝を飾りました。その後も圧倒的な強さで、その年はライダーとメーカーの両方で初代50ccクラスの王者に輝いたのです。

ついにマン島TTレース初優勝
ついにマン島TTレース初優勝

●世界にアピールした鈴木自動車の2ストロークエンジン

50ccクラスで初優勝するも、125ccクラスと250ccクラスでは結果を残せませんでした。125ccクラスで優勝したのは、1963(昭和38)年。改良を加えた2ストローク2気筒エンジンのRT63で全12戦中「マン島TT」を含め9勝するという圧倒的強さで、125ccクラスのライダーとメーカーの両タイトルを獲得しました。

50ccクラスも前年に続きクラス優勝しましたが、特筆すべきは日本人ライダーの伊藤光夫が日本人として初めて「マン島TT」で優勝したことです。1907年に始まった「マン島TT」の現在までの1世紀余りの歴史の中で、今のところ日本人ライダーが優勝したのは最初で最後です。

日本人初のマン島優勝者伊藤光夫
日本人初のマン島優勝者伊藤光夫
マン島レース中の伊藤光夫の勇姿
マン島レース中の伊藤光夫の勇姿

以降の戦歴については、下記の通りです。

・1964(昭和39)年、50ccクラスはライダーとメーカーの両タイトルの3連覇を達成、125ccクラスの連覇は失敗

・1965(昭和40)年、50ccの水冷単気筒の新エンジンのチューニングが間に合わず、1962年以降守り続けた50ccクラス王者から陥落。一方125ccクラスは、ライダーとメーカーの両タイトルを獲得

・1966(昭和41)年、優勝なし

・1967(昭和42)年、再び50ccクラスでライダーとメーカーの両タイトルを奪取、これを最後に鈴木自動車はGP参戦を中断

鈴木自動車は、世界GPに参戦した8年間を通して得られた数々の栄光によって技術の高さ、特に2ストロークエンジンの優れた性能を、国内外で十分アピールすることができました。

その成果は、国内だけでなく世界中で好調な販売として結実したのでした。

(文:Mr.ソラン 写真:スズキ)

第6回につづく。


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この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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