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■ついに登場した現行WRX S4の完成形
2019年12月にWRX STIが受注を終了、2020年7月にはWRX S4がSTIスポーツに一本化されるなど、現行型WRXシリーズはエピローグへと突入しています。もっともS4は次期型登場直前までは販売が継続されると見られ、もうしばしモデルライフが続きそう。
そんなWRX S4のファイナルエディションといえるモデルが、STIチューンが施された特別仕様車「スバルWRX S4 STIスポーツ#(S#)」です。ベース車プラス57万2000円高となる474.1万円という高価でありながら、正式発表を待たずに限定の500台を見事に完売。近年のスバル人気の凄さを実感させられます。
開発を行ったSTIによると、限定車「S#」を「STIスポーツの完成形」と表現します。開発を指揮したのは、なんと現行型WRXシリーズの開発を指揮した高津益夫氏。まさにWRXを知り尽くした人物が手掛けたコンプリートカーなのです。
つまり、高津氏のこだわりが凝縮された「S#」は、大人のスポーツセダンとして送り出されたWRX S4の完成形といっても過言ではありません。
●STIスポーツと異なる内外装
まずは仕様を解説すると、エクステリアはダークグレー塗装のフロントグリルとブラック塗装のフロントスポイラー、そしてSTIの特別車お約束アイテムとなっているダクト付きリヤバンパーなど、コンプリートカーとしてはかなり控えめ。
アルミホイールは仕様こそ同じですが、ダークグレーからブラック塗装へと変更。ボディカラーには専用色として「セラミックホワイト」が用意されますが、そのほかのシルバー、ブラック、ブルーはS4の標準色です。
STIスポーツと異なる専用仕様のインテリアは、WRX STIファイナルエディションにも採用されたブラック内装にシルバーステッチを組み合わせたもの。標準車のボルドーに対してかなりシック。ステアリングがウルトラスエード巻きとなるのも特長です。
注目のメカニズムですが、パワートレイン系ではSTI製の低背圧エアクリーナー&低背圧パフォーマンスマフラーを装着。スペック上の差はないものの、過渡トルクが約10%向上しているといいます。
さらに冷却性能向上のために、CVTオイルクーラーと強化型ラジエーターファンが与えられました。これはCVTの保護制御の介入を遅らせるのが目的。ただ限界走行を目的としたものではなく、あくまで気持ちよく、走りをしっかり楽しむための「転ばぬ先の杖」のようです。
●意のままに操れるクルマに進化
そして、コンプリートカーの最大の調味料となるのが、STIによるボディパーツ。S#専用品となるフレキシブルタワーバーに加え、前後のフレキシブルドロースティフナーの計3点が装着されます。
結果、フレキシブルな補強で遊びを減らし、よりドライバーの意のままに操れるクルマへと進化したといいます。
正直に告白すれば、私の認識では「コンプリートカーの割に内容が限定的。ただ価格の増分よりは、お得な内容」という程度でした。ところがステアリングを握った瞬間、その差に愕然とすることに。
●走りの余韻まで味わい尽くす!
まずベース車の「STIスポーツ」でテストコースを走ります。もちろんスムーズな走りが楽しめ、不満はありません。
ところが「S#」に乗り換えると、まるでコーナーに吸い付くようにシャープなラインを描くのです。クルマの挙動もより安定し、STIスポーツではショックやボディが振られた個所でも、綺麗にいなしてくれます。
まるでクルマと人、そして道路が一体となったようで、ドライバーはクルマのメッセージに応えてあげるだけで、美しい走りが出来る。どちらのクルマでも、軽く流す程度のペースであったが、それでも明らかにS#の方が速く周回していました。
つまり同じ仕事で、より速く走ることが出来るというわけで、これならばロングツーリングの疲れも少ないでしょう。
まだ「S#」には秘密があります。それは静粛性の高さです。
コンプリートカーでありながら、音源となる箇所の制振材を強化。これも高津氏のこだわりで、ギンギンに走るクルマではなく、走りの余韻まで味わい尽くす究極のスポーツセダンを目指しているとのこと。なんといういぶし銀なコンプリートカーでしょうか。
しかも、これがベースの約60万円アップというのだから、コスパは超高い。それをスバルファンも肌で感じるからこそ、予約即完売という結果に繋がるのでしょう。
スティフナーなどボディパーツは、すでにパーツ販売もされており、今回コンプリートモデルとしての購入を逸したS4オーナーにも、その違いの一部でもぜひ体感していただきたいものです。
【スバル WRX S4 STI スポーツ# 】
■主要諸元
全長×全幅×全高(mm):4635×1795×1475 (参考値。車高はルーフアンテナを含む)
ホイールベース(mm):2650
トレッド[前/後](mm):1530/1540
最低地上高(mm):135*
車両重量(kg)【参考値】:1550
乗車定員(名):5
車両総重量(kg)【参考値】:1825
最小回転半径(m):5.6
ステアリング歯車形式:ラック&ピニオン式
ステアリングギヤ比:14.5:1
サスペンション[前輪/後輪]:ストラット式独立懸架/ダブルウィッシュボーン式独立懸架*
ブレーキ[前/後]:ベンチレーテッドディスク/ベンチレーテッドディスク
型式・種類:FA20 水平対向4気筒 2.0L DOHC 16バルブ デュアルAVCS 直噴ターボ“DIT”
内径×行程(mm):86.0×86.0
総排気量(cc):1998
圧縮比:10.6*
最高出力[ネット][kW(PS)/rpm]:221(300)/5600
最大トルク[ネット][N・m(kgf・m)/rpm]:400(40.8)/2000-4800
変速機形式:スポーツリニアトロニック(マニュアルモード付) 前進無段 後退1速
■主な特別装備
・足回り・メカニズム
18インチ×8 1/2Jアルミホイール(ブラック塗装)
STI製フレキシブルタワーバーフロント(STI Sport♯専用・ロゴ付)
STI製フレキシブルドロースティフナーフロント(STIロゴ付)
STI製フレキシブルドロースティフナーリヤ(STIロゴ付)&ガードバー(チェリーレッド塗装)
STI製低背圧パフォーマンスマフラー(STIロゴ入り)&エキゾーストパイプリヤ
STI製低圧損エアクリーナーエレメント
CVTオイルクーラー&ラジエーターファン強化タイプ
・操作性・計器盤・警告灯
ウルトラスエード巻ステアリングホイール(シルバーステッチ、STIロゴ入りハイグロスブラックベゼル)
本革巻シフトレバー(シルバーステッチ、高触感革+ハイグロスブラック加飾パネル)
シフトブーツ(シルバーステッチ)
・内装
RECAROフロントシート(ウルトラスエード/本革、ブラック、シルバーステッチ+
STIロゴ入り)&リヤシート(ウルトラスエード/本革、ブラック、シルバーステッチ)
フロントコンソール(ブラックレザー調素材巻+シルバーステッチ)
ドアトリム&ドアアームレスト(ウルトラスエード、ブラック、シルバーステッチ)
スライド機構付コンソールリッド(ウルトラスエード、ブラック、シルバーステッチ)
・外装
フロントグリル(ダークグレーシリカ塗装)
STI製大型フロントアンダースポイラー(艶ありブラック塗装)
リヤバンパー(エアアウトレットグリル付)
・安全装備
プリテンショナー&フォースリミッター付フロント3点式ELRシートベルト(シルバー)
リヤ全席3点式ELRシートベルト(左右はシルバー)
*社内計測値および社内型式名(方式名)
(文:大音安弘/写真:土屋勇人)