新型アリアのタイムレスなデザインの秘密は、日本伝統の美とテクノロジーの融合にあり

●日産デザインの新しい試みがカタチになった、新型アリア

アリア・メイン
EVのスムーズな走りを表現した滑らかな面を持つボディ

2020年7月15日、日産の新型クロスオーバーEV「ARIYA(アリア)」のオンライン発表会が行われました。

会場は、横浜の本社近くに設置された「ニッサン パビリオン」。ここは4ヶ月間(8月1日から)の期間限定ながら日産の新たな情報発信基地となる施設で、それだけ力の入った発表会となりました。

アリアの国内発売は来年の半ばとかなり先の話ですが、今回のワールド・プレミアを受け、ひと足先にデザイン・チェックをしたいと思います。

昨年の東京モーターショーに出品されたコンセプトカーをほぼ踏襲したというスタイルは「タイムレス・ジャパニーズ・フィーチャリズム」がテーマ。最近の日産といえば「ニッサン・インテリジェント モビリティ」が有名ですが、実はここ数年のコンセプトカーはずっと「日本」「和」をテーマにして来ました。

アリア・フロント
伝統の組子細工の文様が施されたグリルには新しいロゴバッチが

EVの走りをイメージしたという滑らかなボディには、キリッとしたキャラクターラインが前後を貫いています。この明快な線と、とりわけリアフェンダーに見られる柔らかな面の組み合わせに「和」の意図を感じることができます。より強いエモーショナルを打ち出していた、これまでの日産デザインからの変化です。

EVらしく「穴」のないグリルは、先日発表されたばかりの「キックス」で採用された「ダブルVモーション」の応用版が見られます。このグリルに施された日本伝統の「組子」文様は、ドアトリムなどインテリアでも採用されています。

一方、リアは日産デザインの要素であるキックアップピラーが見られますが、下りてくるルーフラインがそのままピラーと融合されているのが新しい表現。横一文字のリアコンビについては、これは世界的な流行と言えるでしょう。

アリア・リア
緩やかに下るルーフラインと横一文字のランプが印象的なリアビュー

「日本のモダンラウンジ」をテーマにしたインテリアはインパネの木目調フィニッシュが特長で、その表面に直接表示されるスイッチ類は、これもまた近年のコンセプトカーで何度となくトライしてきた、従来のクルマにはない新しい素材感の実践です。

こうして各部分を見ると、日産デザインの新しい試みがカタチになっていて、これまでの取り組みが単なる「打ち上げ花火」でないことが分かります。

ただ、先のコンセプトカーに比べると、新鮮味よりむしろ、どこか懐かしさすら感じます。その理由のひとつは、実はこれまでにもありそうなクロスオーバーとしての基本的なプロポーションであること。もうひとつは、よりシンプルにシフトしたボディの面にあるかと思われます。

前者は、それこそEVとして自由な可能性があったはずですが、極めてオーソドックスなシルエットであり、かつリア周辺には「リーフ」との関連性が感じられ、ある種の既視感があるのかもしれません。

アリア・インテリア
木目調パネルに浮かび上がるスイッチ類は日産の新提案

後者は、コンセプトカーに見られたシンプルな面を際立たせる細かい演出、たとえばフロントランプやリアコンビの装飾などが省かれてみると、そのシンプルさが若干単調さに感じられる気配があることです。

それこそ要素を削った新しいブランドロゴを打ち出した日産ですが、このアリアから日産デザインの次章が始まるとするなら、ずっと模索してきた「日本」「和」というテーマを、マツダの「引き算の美学」とは異なる表現で見せられるかが見どころとなるのかもしれません。

(すぎもと たかよし)

この記事の著者

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すぎもと たかよし

東京都下の某大学に勤務する「サラリーマン自動車ライター」。大学では美術科で日本画を専攻、車も最初から興味を持ったのは中身よりもとにかくデザイン。自動車メディアではデザインの記事が少ない、じゃあ自分で書いてしまおうと、いつの間にかライターに。
現役サラリーマンとして、ユーザー目線のニュートラルな視点が身上。「デザインは好き嫌いの前に質の問題がある」がモットー。空いた時間は社会人バンドでドラムを叩き、そして美味しい珈琲を探して旅に。愛車は真っ赤ないすゞFFジェミニ・イルムシャー。
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