量産初ロータリーエンジン搭載の「コスモスポーツ」登場【マツダ100年史・第14回・第4章 その4】

【第14回・2020年7月14日公開】

ロータリーエンジンを搭載した「コスモスポーツ」は、1964(昭和39)年の東京モーターショーで鮮烈にデビューし、徹底した実車走行試験の後1967(昭和42)年に発売されました。
搭載されたロータリーエンジンは、他を圧倒する最高出力110psを発揮し、スムーズな加速、力強い走りを実現。また、ロータリーエンジンのデビューを飾るにふさわしい流線型のシャープなシルエットが、多くのファンを魅了したのです。

第4章 世界初のロータリーエンジン量産化(ロータリーの歴史1)

その4.量産初ロータリーエンジン搭載の「コスモスポーツ」登場

●2ローターのロータリーエンジンの開発

NSU社が開発したのは、ローターが1つのシングルローターでした。
シングルロータリーエンジンは、高回転では滑らかに回転するものの、低回転では振動が発生しやすくトルクも低いため、性能は十分なレベルではありませんでした。
そこで東洋工業ではシングルローターの弱点を解決するため、ローターの数を2つに増やした2ローターエンジンを試作して評価しました。ローターの数を増やすことは、レシプロエンジンでは気筒数を増やすことに相当します。
ローターのサイズにもよりますが、2ローターにするとレシプロ6気筒エンジン並みのトルクと回転のスムーズさを発揮することが確認できました。
その後、3、4、5ローターも試作して評価した上で、実用上もっとも有利と判断された2ローターエンジンを本命に据えた開発が進められました。

単室容積400cc 3ローターの試作ロータリーエンジン。
東洋工業は他のローター数のロータリーエンジンを試作した。写真は1964(昭和39)年に試作した、単室容積400cc 3ローターのロータリーエンジン。
単室容積400cc 4ローターの試作ロータリーエンジン。
同じく400cc 4ローターのロータリーエンジン。

●実用化のための徹底した走行試験

実用化の目途が立った1963(昭和38)年には、ロータリーエンジンの特長である軽量コンパクト、高出力を発揮できるクルマとして、スポーツカーへの搭載が決まりました。
2ローターのロータリーエンジンを搭載したスポーツカーは「コスモスポーツ」と名付けられ、翌年1964(昭和39)年の東京モーターショーで発表されました。美しいシルエットと量産初のロータリーエンジン車ということで、世界に衝撃を与えました。
「コスモスポーツ」は量産初のロータリーエンジン車なので、発売前に徹底した実車試験が行われました。特筆すべきは、全国のディーラーに60台の試作車を配備し、さまざまな気候条件や道路条件下で走行試験を実施したことです。
ディーラーによる走行試験は、発売直前の1966(昭和41)年まで実施され、問題点が抽出されてクルマにフィードバックされることによって、品質や商品力の向上に大きく貢献しました。

コスモスポーツ試作車。
コスモスポーツの試作車。細部がのちの市販版とは異なる。
1964(昭和39)年の第11回東京モーターショーに参考展示されたコスモスポーツ試作車。
この試作車は、1964(昭和39)年の第11回東京モーターショーに参考展示された。

●ついに「コスモスポーツ」デビュー

1964(昭和39)年の東京モーターショーでのデビューから3年後、満を持して1967(昭和42)年5月に「コスモスポーツ」が発売されました。
世界初・491cc×2ローター、110psのL10A型ロータリーエンジン搭載し、最高速度185km/hで0-400m加速は16.3秒という圧倒的な動力性能を誇りました。まさしくキャッチコピー「走るというより、飛ぶ感じ」を体現させるスポーツカーでした。
さらに、ロータリーエンジンのデビューを飾るにふさわしい流線型のシャープなシルエットが多くのファンを魅了しました。
翌年1968(昭和43)には、「ニューコスモスポーツ」としてさらにパワーアップさせ、最高出力を128PSに向上させ、最高速度200km/hを達成しました。
ただし、「コスモスポーツ」は非常に高価なスポーツカーだったので、1972(昭和47)年までの5年間で累計生産台数は1176台にとどまりました。

マツダ コスモスポーツ(1967(昭和42)年5月)。
マツダ コスモスポーツ、鮮烈デビュー!(1967(昭和42)年5月)。
マツダ コスモスポーツ(1967(昭和42)年5月)。
リヤのコンビランプはバンパーを境に上下にレイアウトされる。
マツダ コスモスポーツ(1967(昭和42)年5月)。
逆L字型をなす計器盤に7連のメーターを埋め込むのはスポーツカーの常套手段。ハンドルもシフトノブも木製だ。
L10Aエンジン。
コスモスポーツに積まれたL10Aエンジン。
マツダ コスモスポーツ当時の広告。
当時の広告。
コスモスポーツの車両透視図。
コスモスポーツの車両透視図。
L10Aエンジンの透視図。
L10Aエンジンの透視図。

【主要諸元】マツダ コスモスポーツ(4MT・1967(昭和42)年5月)
・全長×全幅×全高:4140×1595×1165mm
・ホイールベース:2200mm
・最低地上高:125mm
・乗車定員:2名
・エンジン:L10A 三葉型ロータリーエンジン 水冷直列2ローター
・排気量:単室容積 491cc×2 982cc
・圧縮比:9.4
・最高出力:110ps/7000rpm
・最大トルク:13.3kgm/3500rpm
・燃料供給装置:キャブレター(日立製4バレル2ステージ シングル)
・燃料タンク容量:57L
・車両重量:940kg
・サスペンション 前/後:ウィッシュボーン・コイル式独立懸架/ド・ディオン式半楕円リーフスプリング
・ブレーキ 前/後:ディスク式/リーディング・トレーリング
タイヤサイズ:6.45H-14-4PR
・車両本体価格(東京価格・当時)148万円

●ロータリーを初めて搭載した市販車「バンケルスパイダー」

「コスモスポーツ」は、量産初のロータリーエンジン車と評されています。
実はロータリーエンジンを世界で初めて搭載した市販車は、1964(昭和39)年に発売されたNSU社の「バンケルスパイダー」です。
しかし完成度が低く、チャターマークの発生やオイルの異常消費など、耐久・信頼性に関わるトラブルが続出しました。そのために販売台数は限定的で、NSU社は経営破綻を起こし、アウディに吸収されました。
その後、ダイムラーベンツやトヨタ、日産など名だたるメーカーが研究開発を試みましたが、結局量産化できたのは東洋工業だけだったのでした。

ヴァンケル スパイダー。
ヴァンケル スパイダー。

(Mr.ソラン)

第15回につづく。


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第4章・世界初のロータリーエンジン量産化

その1.バンケル式ロータリーエンジンの技術提携と開発着手【2020年7月11日公開】
その2.ロータリーエンジンの特長と課題【2020年7月12日公開】
その3.最大の難関「チャターマーク」との戦いと克服【2020年7月13日公開】

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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