●「引き算の美学」という日本的な発想が欧米でも理解された!?
マツダのコンパクトSUV「CX-30」が、ドイツの自動車誌「AUTO ZEITUNG」が主催するデザイン賞で2冠を獲得しました。
この賞は同誌とその読者8270名が参加、ドイツ内でこの1年間に発売された新型車の中からデザインに優れたモデルを選出するもの。CX-30はSUVカテゴリーに加え、総合賞である「チャンピオン・オブ・オールクラス」でも優勝、見事「デザイン・トロフィー 2020」に輝きました。
日本ではあまり馴染みのない賞ですが、選考対象となったライバル車を見ると、実にレベルの高い内容であったのかが分かります。
たとえばSUVカテゴリーで争ったのは「アウディQ3・スポーツバック」と「ランドローバー・ディフェンダー」。
前者はアウディの新しいデザイン言語でまとめられた最新のSUVに、流行のクーペルックを融合したニッチ狙い商品。前後フェンダーを強調したSUVボディに流麗なルーフが美しい、まさにデザイン重視のクルマです。
後者はこれまで比較的無骨な佇まいだった歴代に対し、徹底的に磨き込まれた美しい面質と、リアパネルなどに見られる鋭角なラインを組み合わせ、カタマリ感に満ちたまったく新しい世界観を持つSUVです。
一方「チャンピオン・オブ・オールクラス」では、「フェラーリ・ローマ」と「ポルシェ911・カブリオレ」が候補に。
フェラーリは同じフロントエンジンのGT4Cとも異なり、あえてクリーン、調和、エレガント、ピュアというテーマを掲げ、ラインナップ中もっとも美しいプロポーションとシンプルな面を持った意欲作で、ミニマムなフロントランプやツインテールランプが際立った品位を表現した秀作。
ポルシェはタイムレスな911スタイルを基本に、オープンボディとすることで前半部は軽快さを強調、一方でリアは圧倒的なボリューム感を獲得しました。その組み合わせによる美しいプロポーションを見れば、なぜカブリオレが候補に選ばれたのかが分かります。
そうしたイタリアの本格スポーツカーや、ドイツ、イギリスのプレミアムブランド勢を制したのが、価格的にはまったく比較にならない日本のコンパクトSUVというところでしょう。デザインの良し悪しが値段に比例しないことは歴史が証明しているとはいえ、しかし痛快な快挙ではあります。
受賞の詳細な理由は明かされていませんが、「魂動」デザインが掲げる「引き算の美学」という極めて日本的な発想が欧米でも理解されたこと。また、ボディ下部のクラッディングの絶妙な幅など、ただただ愚直に美しいプロポーションを追求した姿勢が評価されたのではないでしょうか。
「ワールド・デザイン・カー・オブ・ザ・イヤー」をはじめ、近年マツダのデザイン賞獲得はもはや当然のように思われている気配がありますが、それはどのような選考を経たのか、つまり世界中のどれほど優れたクルマと競ったのかを知っておくべきかもしれません。
(すぎもと たかよし)