F1のパワーユニットとは?内燃機関にERS(エネルギー回収システム)を組み合わせてパワーアップ【自動車用語辞典:F1の技術編】

■ERSは、MGU-K(運動エネルギー回収装置)とMGU-H(排気熱回収装置)で構成

●エンジンとERSを組み合わせて低燃費と高出力を両立

F1用のパワーユニットは、1.6L V6 ターボエンジンにERS(エネルギー回収システム)を組み合わせた仕様に規定されています。ERSは、運動エネルギーを回収するMGU-Kと排気熱を回収するMGU-Hの2種のシステムで構成されています。

レギュレーション(規約)で規定されたF1用パワーユニットについて、解説していきます。

●パワーユニット

F1用のパワーユニットは、1.6L V6 ターボエンジンにERS(エネルギー回収システム)を組み合わせた仕様に規定されています。エンジンは、形式や排気量だけでなく、吸排気弁や直噴システム、点火システム、ピストン形状、各部の部品サイズや重量、材質などが詳細に規定されています。

パワーユニットとは、次のシステムの集合体を指します。

・エンジン:1.6L V6 ターボエンジン

・ERS(エネルギー回収システム):MGU-K(運動エネルギー回生システム)とMGU-H(排気熱回生システム)の総称

・ES(エネルギーストア):高いエネルギー密度とパワー密度を有するリチウムイオン電池

・CE(コントロールエレクトロニクス):発電エネルギーを管理するコンピューター

1回のレースで使用できるエンジンの燃料量110kg、瞬間的な燃料流量も100kg/hに制限されているので、できるだけ少ない燃料で高出力を実現することが要求されます。エンジンとERSのモーターの合計出力は、1000PS程度のレベルです。

F1用パワーユニット
F1用パワーユニット

●ERS(エネルギー回生システム)

ERSは、運動エネルギーを回生するMGU-Kと排気熱を回生するMGU-Hの2つのシステムがあります。

狙いを簡単に言えば、減速時にMGU-Kによって減速エネルギーを回生し再利用すること、加速時にはMGU-Hを使ってタービン回転をモーターでアシストしてターボラグを解消することです。

回生量には制限がかけられ、1周あたりの使用量も制限されていますが、両システムを使うことで短時間ならエンジン出力に加えて最大で160PS程度の出力向上が可能にです。

●MGU-K(運動エネルギー回生装置)

MGU-Kは、エンジンのクランクシャフトに直結させたモーター/発電機を使って、減速時に発電機の回転抵抗で減速しながら発電するシステムです。

回生システムのない一般車では、減速エネルギーはブレーキのディスクとパッドの摩擦熱で捨てています。モーター/発電機を搭載しているHEVなどの電動車では、「減速回生」と呼ばれバッテリを充電するために必要不可欠な技術です。

MGU-Kのモーター/発電機の最高出力は163PS(120kW)に制限されています。また、1周あたりに蓄えられるエネルギー量は2MJと規定されているので、2MJ回生するためには約20秒近い減速時間が必要です。

●MGU-H(排気熱回生装置)

MGU-Hでは、ターボチャージャーに直結したモーター/発電機を排気エネルギーで回転させて発電し、加速時にモーターとしてタービンをアシストするシステムです。

排気熱回収装置という名称ですが、排気エネルギー回収という方が適切で一般には電動ターボと呼ばれます。

エンジンの低回転域は、モーターアシストによってレスポンスと出力の向上を行い、ターボの弱点であるターボラグを解消します。

中高速域はターボチャージャーで過給しますが、余剰の排気エネルギーで発電します。


電動車で活用している減速エネルギー回生は、回生分を燃費向上に振り向けています。一方、F1パワーユニットでは、それをすべて出力向上やレスポンス向上に活用してサーキットでの走りに振り向けています。

特に注目すべきは、一般車ではまだ普及してないターボの電動化(電動ターボ)を実現していることです。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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