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■新型コロナウイルスの影響? ニューヨーク原油先物市場が史上初のマイナス価格!
4月20日のニューヨーク商業取引所の原油先物相場で原油価格の指標となる米国産WTI原油の先物価格(5月物)が1バレル=マイナス37.63ドルで取引を終えました。
これは原油先物の取引が1983年に始まって以来の最低の水準で「約160リットルの原油を約4000円上げるから持って行ってくれ」というのに等しい水準です。実際はそんな簡単な話ではないのですが、とてつもなく大暴落していることだけはお解りいただけると思います。
大暴落の原因は新型コロナウイルスでの世界的な石油需要の大減少と言われていますが、2月前半からサウジアラビアが原油価格を大幅に引き下げて世界が追従しきれなくなっているなどもあり、実際3月下旬からガソリンの価格も低下傾向にありました。価格が下がるということはモノが余っていること、つまりガソリンが余っていることとなり、大げさに言えば原油が売れなくて余っていることでもあります。
新型コロナウイルスが国内でも蔓延を始めるとマスクなどの他にトイレットペーパーが買い占めなどにより店舗から消えるなどがありましたが、その様子を1973年のオイルショックにそっくり、と揶揄する人々もいました。
その1973年当時は原油はあと30年で枯渇すると言われていたのではなかったのでしょうか? 枯渇へのカウントダウンが近づくにつれジワジワと価格が上昇していくと言われ続けていました。
新しい油田が発見され枯渇までの時間が延命されながらも、実際にバブル経済華やかな頃はレギュラーガソリンが1リットル80円前後から2012年ころの160円時代まで、政治や経済の情勢を踏まえながらもガソリン価格や原油価格の上昇は枯渇が徐々に近づいているから、と思い込んで許容していたのではないでしょうか。
■原油は無尽蔵?
そもそも石油製品の原料となる原油はどのように出来ているのか? 中学校の理科や地理の授業では、原油は古代の植物等の遺物が堆積物に覆われ高温で高い圧力がかかって原油になったと教わっています。これを石油の有機成因論と言いますが、この論点でいえば遺物が尽きれば石油が無くなってしまいます。しかし石油や天然ガスについては学校で教わった有機成因論はひとつの説に過ぎないということが言われています。
これに対し、最近注目されているのが石油の無機成因論です。石油の主成分である炭化水素は地球自体が生み出しているので石油の原料である原油は無尽蔵にある、という理論です。
もう少し詳しく言えば、惑星が成立する際には多量の炭化水素を内包しており、それがマントルなどに含まれればマントルの構成物質である岩石や鉱石よりも炭化水素は軽いために徐々に地表に向かって湧き出してくる、とのこと。湧き出す過程でマントルや地殻深部にある鉱石などと反応しながら原油としての成分が成立して行き油田にたまっていく、というのが無機成因論での原油の成り立ちです。
無機成因論に立てば原油は無尽蔵に作り続けられることになります。また無機成因論の証左としては油田の位置と生物の分布が明らかに違うこと、古代の植物や生物の遺物を成因とするにはありえない深度6000mという場所からも油田が発見されていることなどが挙げられています。そして無機成因論では、高深度掘削技術が進歩すれば地球のいたるところから原油が掘り出せるとも言われています。
■原油価格大暴落でなぜ石油無機成因論に脚光が?
そもそも原油価格の大暴落で、なぜ無機成因論が脚光を浴びたのでしょうか? 有機成因論にあるように原油は限りのあるものだとすれば市場経済や政治などの要因で多少の上下はあっても長い目で見れば価格は上がり続けていきます。しかし今回の大暴落で原油価格の上昇に疑いを持ち始めているとの見方が出てきます。
そこで無機成因論に注目し、今後の原油先物の動向を研究しようという流れが今回の大暴落であふれ出てきたようなのです。特に枯れたはずの油田が復活しているなどで油田の稼働率も上昇し産油量も増えてきている場合もあり、またシェールガスやシェールオイルなどで今まで大規模な原油輸入国であったアメリカ合衆国が一大産油国に様変わりするなど、石油を取り巻く環境は大きく変わっていきました。これらの大きく様変わりした環境を説明するのに無機成因論は都合がいいようなのです。
しかし、ここで紹介した有機成因論も無機成因論もあくまでも「論」であり、現段階では原油は枯渇するともしないとも言い切れません。ただし無機成因論は「論」としてはかなり興味深いもので、外出自粛の「おうち時間」の中ではかなり為になる読み物になると思います。
「原油 マントル」などを検索ワードにすれば学術論文なども読めます。中には陰謀説やトンデモ説などのオカルト系な記事もヒットしますが、そこは取り捨て選択を!
(写真・文:松永和浩)