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●20年以上前から渋滞情報を提供してきたVICSが進化
首都圏のドライバーは2020年3月までのカーナビVICS情報画面を覚えておくといいでしょう。いま見慣れているその渋滞表示も、翌月には歴史の彼方へ去っていくことになります。前時代の記憶を目に焼きつけておくのも悪くないかもしれません。
2020年4月、VICSはJARTIC(公益財団法人 日本道路交通情報センター)と共同で1都6県(茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)で、民間プローブ情報を活用した道路交通情報サービスの実証実験を実施します。これはVICS開始以来といってもいいほど革命的な進化で、渋滞情報が提供される道路が大幅に拡大されるというものです。
まず、これまでのVICSに関しておさらいしておきましょう。VICSは警察庁とかつての郵政省、建設省が協力して1990年に『VICS連絡協議会』が発足したところから始まりました。その後自動車メーカーなど関係企業も加わって官民共同のプロジェクトとして準備が進み、1996年に東京圏と東名・名神高速道路で情報提供を開始。2003年に全国展開が完了しました。
ご存じの方も多いと思いますが、VICSは渋滞情報、所要時間情報、駐車場情報、事故・工事などによる規制情報を、FM多重放送や道路に設置された光ビーコン、電波ビーコンでカーナビに提供するサービスです。この中で特に頻繁に利用するのは渋滞情報だと思いますが、渋滞情報はおもに道路に設置された感知器で取得したデータから渋滞を割り出しています。東京都のみ、2015年からタクシーの車載機から取得したデータ(タクシープローブ)も反映させていますが、それ以外のエリアでは渋滞情報が表示される道路には必ず感知器が設置されているということになります。
また、VICSは2015年にバージョンアップされ、VICS WIDEというサービスが始まりました。この恩恵を受けられるのはVICS WIDE対応機だけになるのですが、一般道のリンク旅行時間(道路の交差点間などの一定区間の通過に要する時間)の提供が可能となり、より渋滞回避の利便性が高まりました。また大雨の特別警報がポップアップ表示されたり、大雨のエリアを地図上で見られるようになったことにメリットを感じたユーザーも多かったようです。
●近年は民間各社の渋滞情報が充実してきた
しかし、サービス開始から20年以上を経過し、時代は大きく変わりました。VICSは唯一無二の渋滞情報提供サービスでは無くなっていました。VICSはおもに道路に設置された感知器を使って渋滞を検知します。この手法は、そこを通過する自動車の台数を直接数えられるので精度は高いのですが、設置や管理のコストがかかるので、あらゆる道路に設置できるわけではありません。渋滞情報を取得できる道路や区間は限定されてしまうのです。一方最近ではメーカー各社やカーナビアプリが独自で提供する渋滞情報の方が、より細かい道路までカバーするものさえ出てきました。これはプローブの効果です。プローブというのは、走行している自動車の位置などのデータを取得する方法です。
●民間プローブの活用でVICSがカバーする道路が2倍以上に!
そんなわけで、近年はVICS情報よりも、各社のプローブによる渋滞情報を利用していたドライバーも増えていたことでしょう。しかしここで話が冒頭にもどります。この形勢が一気に逆転するのです! とりあえず関東1都6県に限られますが、VICSは複数の自動車・車載機メーカー(トヨタ自動車株式会社、日産自動車株式会社、本田技研工業株式会社、パイオニア株式会社)が収集しているプローブ情報をビッグデータとして活用し、道路に設置された感知器からの交通情報を補完・補強することで、より多くの道路の交通情報を配信するサービスを提供するようになります。つまり、VICSはふたたび、もっとも詳細で精度が高い渋滞情報の提供者となるのです。
このプローブ情報活用には大きな壁がありました。VICS側も以前からプローブ情報は活用したかったのです。しかし、プローブ情報を収集している各社はデータの提供を渋っていました。当然です。プローブ情報は各メーカーの「競争領域」だったからです。他社より優れた渋滞情報を提供するために独自に取得した情報を出そうとはしなかったわけです。
しかし、ここ数年、これまた時代の趨勢が変わってきました。インターネットに常時接続する、いわゆる「コネクテッドカー」が大幅に普及し、メーカーによっては新車のすべて、新型車のすべてがコネクテッドカーになってきています。それにともない、以前なら渋滞情報を提供することを主な目的としていたネット接続車載機の役割は、車両の状況把握やコンディション診断、管理等ができることを主な目的とするように変わってきたのです。
また、東日本大震災後に各社の車両通行実績のプローブ情報の共有がなされるなどし、さらに東京オリンピック開催期間中の渋滞を緩和する方法が検討されている中で、各社とも社会のためにプローブ情報の提供に協力しようという気運が高まってきました。また、プローブ情報を有償提供することをビジネスとして考えられるようにもなってきたようです。そして実現したのが、この2020年4月からの首都圏でのプローブ情報を活用したVICS道路交通情報サービスの実証実験です。
●新たなカーナビを買うことなく従来機でも恩恵が受けられる!
では、この実証実験でプローブ情報を活用すると、渋滞情報はどのように変わるのでしょう? まず現在のVICSでは、首都圏の高速道路、国道、都道府県道等6.0万kmのうち、道路交通情報が提供しているのは1.8万kmにすぎません。これは全体の30%あまりです。それが民間プローブ情報を活用することで最大4.2万kmになります。なんと約70%まで拡充できるというのです。カバーされる道路は一気に倍以上になるのです。東京都ではすでにタクシープローブが活用されていましたが、それでも民間プローブは情報を提供できる道路の範囲が広いため、渋滞情報の精度や郊外での情報提供道路は大きく変わるでしょう。
この『最大70%』というのが面白いところです。というのは、感知器による情報取得の場合、つねに情報は取得できます。しかしプローブ情報の場合、そこをプローブ対応のクルマが通過しないと情報は取得できないのです。したがって、情報を取得している道路はそのときどきである程度変わっていくということになります。もっとも、クルマが通過しないということは、たぶん道も空いているので、情報が取得できていない道路での渋滞の心配は少ないでしょう。
このプローブ対応の新VICS情報ですが、従来どおりFM多重放送を使って提供されるので、ありがたいことに従来のVICS対応機にも表示されます。恩恵を受けるために新しいモデルを購入する必要はないのです。VICS WIDE対応機でなくても大丈夫です。もちろんVICS WIDE対応機であれば、渋滞回避の機能はより精度が高まることになりますが。
VICSセンター推奨の使いかたを紹介しておきます。それは、いつも使っている道や知っている道でもルート案内を使うというものです。そうすると事故や工事の情報も通知されるので、予想外の規制などがあったときに渋滞にはまらずに済みます。
さて、4月から始まるこの民間プローブを活用した交通情報の提供は、現在のところ秋までの実証実験という扱いではありますが、将来的には首都圏だけでなく全国への普及を目指しています。
道路と自動車をつなぐインフラ、通信網の発展は、この先まだまだ進化を遂げていくでしょうが、まずは4月からの渋滞情報の拡充が楽しみです。VICS WIDE対応カーナビが欲しくなってきた人もいるんじゃないでしょうか。
VICS実証実験の詳しい情報はこちらをどうぞ
https://www.vics.or.jp/everyone/special/
(まめ蔵)