2014年に登場した初代は48万台を販売したベストセラーモデル。ヒット作のモデルチェンジは失敗が多いと言われる中、試行錯誤を重ねてたどり着いたという新型のデザインの意図はどこにあるのか。担当デザイナーの長田氏に話を聞きました。
■「先代を見ながら」ではダメ
── まず始めに、新型のデザインテーマには「タフで力強いスタイル」とありますが、そもそも先代から大きく舵を切ったのはなぜですか?
「先代は2014年の発売ですが、その時からはアウトドアのテイスト自体に変化が起きています。たとばカフェにアウトドア・ショップが併設されていたり、ウェアや腕時計などのファッションも含めて、アウトドアの表現が日常に溶け込んでいるんですね。そうした機能的なカッコよさのアイテムのひとつとして新型を捉え直したわけです」
── 先代の魅力は、本格四駆風のスタイルの中にあった「遊び」や「緩さ」でした。クロスビーが好例ですが、そこをさらに強調する考えはなかったのですか?
「当初はそこを狙って、ポップで明るいイメージをより打ち出す方向でスケッチを描いていました。ただ、どうしても変化感が出ない。つまり「先代を見ながら」という姿勢ではダメで、そこは見方を変えようと。私たちには、ハスラーは現在のコンパクトSUVの先駆けという意識がありますから、そこでポップな方向を伸ばすのは違うと考えました」
── 世代はその「遊び」や「緩さ」が女性にもウケたと思われますが、その点はどう考えましたか?
「たとえば新型ジムニーは機能性の塊のようなデザインですが、ご存知のとおり女性にも人気が高いんですね。四角くてカワイイと(笑)。今回も女性へのプレゼンを行うなど意見集約を重ねたのですが、そこはまったく同じでした。正直多少の不安はありましたが、明快な意図があれば男女はあまり関係ないということですね」
■ブリスターフェンダーではない表現を見つける
── 機能性や道具感を前面に打ち出すとして、サイドグラフィックを6ライトとしたのはなぜでしょう?
「今回はスクエアな表現を目指してピラーやバックドアを立てていますので、そのままだとCピラーが太くなり過ぎる。そこで視認性の向上と先代からの差別化を意識してクォーターガラスを設けました。ガラスの大きささはバックウインドウとのバランスなど、リアビューからの見え方をかなり検討した結果ですね」
── フロントはボディ色部分を広くしましたが、少々煩雑ではないですか?
「先代の特徴であるシルバー部分を減らしたのはやはり差別化からです。バンパーの上部はラジエターの開口が必要だったのと、下部はアウトドア・アイテムとして、パーツ同士が組み合うようなガッチリ感が欲しかったんですね。あと、突き出したプロテクターの内側にはトーイン(牽引)フックがあって、カバーの役割という裏話的な事情もあります」
── 先代は前後のブリスターフェンダーも特徴でしたが、これを継承する案はなかったのですか?
「私もあのブリスターは軽規格内でよくできたなと感心していましたが、新型で踏襲しようとは思いませんでした。今回はルーフからキャラクターラインまでがひとつの面、ラインから下にもうひとつの異なる面を作った。アクセントでもある強いキャラクターラインで面を分割し、そこに抑揚を持たせることで新たな表情を出したわけです」
── 今回はボンネットフードやサイドウインドウ回りなど、各部でパネルの厚みを感じさせますね
「そこはこだわった部分です。たとえばスチールのやかんや灯油の携行缶などがそうですが、面を「溜めて」曲げることで厚み感を上げている。初代のワゴンRなどでも窓のフチドリでパネルの厚みを出していましたが、折りの部分をもっと丸くすることで、より豊かで強い張りが出せるんですね」
── タフさや力強さを打ち出すのであれば、ホイールアーチだけでなく、ボディサイドの下部にもっと厚いプロテクターを付ける方法もあったのでは?
「当初はそういう案もあったんですが、正直そこはコストなどの制約がありまして。プロテクターは材着素材ですが、決して安価ではないんですね」
── では、最後に。新型はジムニー同様非常にシンプルな造形ですが、近年は煩雑なデザインも目立ちます。長田さんはその点をどう考えていますか?
「私自身はシンプルな造形が好きですね。ジムニーなど四角いデザインは、80年代頃の流行が1周して再人気になっているとも感じますが、四角でも丸でも、要はテーマ性が明快であることが重要なのだと思います。近年の煩雑なスタイリングは他社と違うカタチを求められ、目立つことが最優先された結果でしょうね」
── その点は、デザイナーさんにとっても悩ましい部分ですね。本日はありがとうございました。
(語る人)
スズキ株式会社
四輪商品・原価企画本部
四輪デザイン部 エクステリア課
係長 長田宏明 氏
(インタビュー・すぎもと たかよし)