赤い郵便バイクが50年ぶりの大変身! これからの郵便配達はホンダの電動スクーターにおまかせ

■全国に2万4000か所の郵便局がEVバイク普及の未来を左右する!?

 郵政カブからEVベンリィに。赤い郵便バイクが50年ぶりのリニューアルの第一歩を記した。

 日本郵便とホンダは1月17日、郵便業務で使うEVバイクとして、「BENLY e:(ベンリィ・イー)」の導入で合意した。新宿、日本橋、渋谷、上野の4つの郵便局で合計200台を先行導入。2020年度中に2000台、合計2200台を走らせる予定だ。納車されるベンリィ・イーはガソリン車でいう排気量125cc相当と50cc相当の2タイプ。当初の200台のうち150台は125cc相当の原付2種だ。ホンダは年間生産計画のほとんどを日本郵政に振り向ける予定だ。

BENLY e:(ベンリィ・イー)
BENLY e:(ベンリィ・イー)

 同日、西新宿の新宿郵便局で行われた納車式には、日本郵便の上尾崎幸治執行役員とホンダの安倍典明常務執行役員らが出席。赤いEVベンリィ・イーを前に上尾崎氏はこう切り出した。

電動二輪車 納車式
電動二輪車 納車式

「長年、郵政カブを配達の主力として利用。約50年にわたって納車いただているホンダさんといっしょに約3年間、実証実験を積み重ねてきた結果、ようやくご披露することができた。都心部を中心に新しい電動二輪車が郵便事業の核として活躍する」

日本郵便の上尾崎幸治執行役員とホンダの安倍典明常務執行役員
日本郵便の上尾崎幸治執行役員とホンダの安倍典明常務執行役員

 ガソリンから電気に、日本郵便が配達の主力を切り替えることを明らかにし、その協業相手にホンダと覚書を交わしたのは2017年3月のことだった。一時は航続距離の短いEVバイクはビジネス用途に向かないのではないかという悲観論も流れたことがある。そんな空気を吹き飛ばすかのように、新春のスタートを切った。ホンダ二輪事業本部長の安倍氏は二輪事業の総責任者だ。
「検証の成果として、ベンリィ・イーの第一号のお客様になっていただき、本日を迎えることができた。ベンリィ・イーが郵便バイクとして当たり前にみなさまの日常生活に溶け込むことを期待し、より静かでクリーンな生活環境を提供することに貢献できればと思っている」

●配達集積地の都市部で活躍

 現在、日本郵便が全国で使用する郵便バイクは約8万5000台。そのすべてはガソリン車だ。今回、導入されることになったベンリィ・イーは東京都心から始まり、2020年度中には埼玉、神奈川など首都圏に拡大。さらに京都、神戸、広島、那覇など全国の政令指定都市に展開する予定だ。

BENLY e:(ベンリィ・イー)
BENLY e:(ベンリィ・イー)

 ビジネス用途のEVバイクの最大の課題は、一充電当たりの航続距離だ。日本郵便が都市部に重点導入する背景は、この航続距離と密接に関係している。配達のための走行距離は、都市部のほうが郊外より短い。郊外60~70kmに対して、都市部は30~40km程度だ。ベンリィ・イーは50cc相当で87km、125cc相当で43km(30km/h定地走行テスト、60km/h定地走行テスト)なので、都市部であれば十分対応できる。都市部のガソリンスタンド不足が加速する中で、遠方に給油で出る手間も省くことができる。

 配達業務に必要な大型フロントバスケットなどを装備したベンリィ・イープロは原付一種・原付二種ともに74万8000円(消費税込み)だ。ガソリン車と比較して高額だが、日本郵便は経済産業省の補助金に上積みできる東京都の資金を活用して抑制することを考えている。二階建ての補助金を利用することで、購入費は半額程度に抑えることができる。

将来は郵便局がバッテリーステーションに

 ベンリィ・イーは先行するPCXエレクトリックと共通する脱着式のモバイルバッテリーパックを採用している。専用充電器があれば100Vの家庭用電源が使える。

モバイルバッテリーパック
モバイルバッテリーパック
専用充電器
専用充電器

 2019年の東京モーターショーでは、モバイルバッテリーを充電するバッテリー・ステーションも披露された。
 ただ今回、郵便局の充電インフラは大規模な充電ステーションを使用しない。当面は充電専用のコンセントを増設して専用充電器1つでバッテリーパック1個を充電する方法で運用し実績を計りながら広げていく予定だ。

 EVバイクの展開は今後、どうなっていくのか。日本郵便の調達担当者はこんな話もする。
「協業の目的には、バッテリー・ステーションを置くことを視野に入れながら検討することが盛り込まれている。人々が集う場所として郵便局を活用していただければと考えているので今後、ホンダさんと検討していきたい」

BENLY e:(ベンリィ・イー
BENLY e:(ベンリィ・イー

 バッテリー・ステーションは単にバッテリー充電をするだけでなく、EVバイクに積んである充電が必要なバッテリーとステーションで充電済みバッテリーと交換する中継地点の役目を果たす。ステーションを整備することで航続距離に関係なく、移動距離を延ばせるシステムで、EVバイクをパーソナルユースにも広げていくためには必要不可欠な基盤だ。郵便局は全国に2万4000か所ある。ベンリィ・イーの日本郵便への納車は、EVバイク普及の未来を左右する可能性をも秘めている。

(中島みなみ)