にじみ出る「貫禄」の源泉。新型ポルシェ911 カレラ4S・前篇【プレミアムカー定点観測試乗】

■新型へ、進化の背景

こんにちは、花嶋言成です。今回はポルシェが誇る金看板「911」の新型「タイプ992」のカレラ4Sを取り上げます。

ポルシェ・ジャパンが現在用意している広報車は諸事情により現在この1台きりということで、貴重な取材機会をいただけたことに感謝したいです。

1964年に生を受けて以来、ポルシェ911というクルマは世界最高のスポーツカーであり、世界最高の耐久レース用ベース車両であることを義務付けられて育ってきました。ゆえに911の歴史には絶えず連続性があり、変化には必ず理由があります。

赤いブレーキキャリパーは高性能版カレラSの証。フロントは6ポットとなる。

1989年のタイプ964で4WDシステムを加え、1993年のタイプ993でリアサスペンションをマルチリンク式に変更。1997年のタイプ996でエンジンの水冷化やホイールベース延長を断行し、2004年のタイプ997でダンパー減衰力を自動制御する「PASM」を導入しました。2011年のタイプ991では、アクティブスタビライザー「PDCC」やトルクベクタリング「PTV」を採用。

モデル期中にはパワートレインに大きな変更を加えるのが常で、タイプ930でのターボモデル追加、タイプ997でのエンジン直噴化やATのPDK化、タイプ991におけるカレラのターボ化などを実施してきました。

今回、992型へ進化する背景を探ってみましょう。ポルシェのラインナップはこれまでになく拡大し、SUVモデルでもたとえば最新のマカン・ターボが440psのV6ターボユニットを搭載するなど全体にパワフルになっている中で、911がラインナップ中最強モデルだと主張するためには、相応の高出力を持ち合わせなければなりません。

そしてそれを使いこなせるだけのシャシー性能を備えることも不可欠です。そうなれば当然価格も高くなるので、高級車相応の快適性や豪華さも要求されるようになります。

■よりグラマラス、ただしやや腰高に見えるデザイン

現段階で発表されているバリエーションでいずれも3リッター6気筒となるタイプ992のエンジン出力は、カレラ4SおよびカレラSが従来比+30psの450ps/530Nm、カレラ4およびカレラが+15psの385ps/450Nmに設定されました。これまで4WDのカレラ4系だけに与えられていたリアのワイドボディをリア駆動のカレラ系にも採用することで、全車が全幅1852mmとなっています。

昔より大ぶりになったリアウィングは、高速で確実に911の直進安定性に貢献する。

外観は先代991よりいっそうグラマラスになった印象を受けます。フロントフェンダーの峰はより高くなり、コクピットからふたつの「太股」がはっきり見えるようになりました。

幅広のリアフェンダーはそんなフロントエンドと呼応するようにボリュームを増していて、リアエンドはテールランプを高く掲げたスタイルに生まれ変わりました。赤いガーニッシュを左右に渡したデザインは、これまでカレラでは4Sの専売特許でしたが、タイプ992ではカレラ全車に装着されるようです。

カレラ一族ながら、もはや911ターボを思わせる貫禄ですが、その半面、後方から見ると視覚的重心が高くなり、スポーツカーらしさが薄らいだようにも感じます。

これは大型化した可動式リアウィングのカットラインにテールランプの配置を合わせた結果であり、同時に他のポルシェ各車のデザインと呼応させてブランド・アイデンティティを強調しようという意図の表れでもあると思われます。取材の直後に路上でパナメーラ4Sに後ろから追いついたのですが、近づいてエンブレムを読むまで「お、ここにもタイプ992が走っている!」と勘違いさせられたほどです。

標準装備のLEDヘッドライトは4灯のデイタイムランニングライトと組み合わせられる。RS Spyder Designホイールは38万9074円のオプション。

こうしたデザインにはどんな目的があるのでしょう? 雑誌記者だったころ、私はポルシェのデザインディレクター、ミハエル・マウアー氏をインタビューするためヴァイザッハのポルシェの開発センターを訪ねたことがありました。

マウアー氏はこのように述べました。

「スタイリングとデザインは異なります。前者は単に五感に心地よいラッピングをすること、後者は機能と一体になった設計の一部です。デザインする際は常に機能性を考慮しなければなりません。現在では、デザインのすべてのプロセスがまるでエンジニアリングのようです」

もの静かにそう語る実直な彼が、単純に美しさだけを追究するのではなく、エンジニアやセールス、マーケティングとの協調のもと、非常に論理的に911を含むポルシェ各車のかたちを構築してきたのは間違いのないところだと思います。

そうした考えが親会社のフォルクスワーゲンとも相容れるがゆえに、彼はいまではVWグループ全体のデザインを統括する要職に抜擢されたのではないでしょうか。

■ため息が出るほど満艦飾なテスト車両は2000万円超

話を今回のカレラ4Sに戻すと、車検証上に車両重量は1610kgと記してあります。カタログ上の空車重量(DIN)でも1565kgということで、これは991初期型カレラ4Sの1445kgよりも、991ターボSの1605kgに近い数字となっています。

装備や出力のうえでも、新型カレラ4Sは非常に充実しています。トランスミッションはデュアルクラッチ式ATの8段PDKが標準。前20、後21インチのホイール内部にはフロント6ポット、リア4ポットの高性能ブレーキが装着され、減衰力可変式ダンパーのPASMを備えるサスペンションと組み合わせられています。

電子制御ディファレンシャルを利用してコーナリング性能を高めるポルシェ トルク ベクタリング プラスや、路面状況を読んでトラクションをコントロールするポルシェWETモードといった駆動力制御も備わります。

直線基調のダッシュボードとシート形状は従来の911から受け継がれたが、横方向の余裕が世代を経るごとに増している。

インテリアも大幅に刷新されました。ナビゲーションや車載機器の操作、マルチメディアを統合したPCM(ポルシェ コミュニケーション マネージャー)は10.9インチの大型ディスプレーを備えます。メーターパネルも5眼が基本なのは変わりませんが、中央のレヴカウンター以外はデジタル表示となっています。

試乗車はオプションで、14ウェイ調節可能で通風機能もあるフル電動シートやアダプティブ クルーズ コントロール、レーンキープアシスト、BOSEサウンドシステム、スポーツクロノ パッケージなどを装着。足回りもスタビライザーの硬さを調節して乗り心地と操縦性を両立するPDCC(ポルシェ ダイナミックシャシー コントロール)や4輪操舵システムなど、総額400万円あまりを追加した豪華仕様でした。

車両本体価格は1804万8148円、オプション込みでは2213万6481円(ともに税込み)に及びます。こんな、ため息が出るほど満艦飾の新型カレラ4Sは、いったいどんな走りを見せるのでしょう。後編で試乗に移ります。

(花嶋言成)