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■唯一の日本人ドライバーとして川畑真人がサンダーヒル25時間レースに挑戦
●滑りやすい路面はお手のもの! 雨中で見事なドライビングを披露
2019年12月7日11時。激しい雨と風が吹きつける中、サンダーヒル25時間レースの幕は切って落とされました。レースの名前のとおり、これから25時間にわたる長くて厳しい戦いが繰り広げられます。
そのレースの舞台となるサンダーヒルレースウェイの中に、一人の日本人ドライバーの姿がありました。その名は、川畑真人。「チームトーヨータイヤドリフト」の一員として、FIA IDC(インターコンチネンタル・ドリフティング・カップ)の初代王者をはじめ、D1グリンプリで幾度も王座に就いた経験のある、ドリフト競技においてはその名を轟かせている男です。
今回、clicccar取材班は川畑選手に密着取材を敢行しました。すでにレースの顛末は速報でお伝えしてはいますが、改めて詳細にその戦いぶりを振り返ってみたいと思います。
●多彩なマシンとドライバーが集うアメリカらしいレース
2019年で17回目の開催となるサンダーヒル25時間レース(以下、サンダーヒル25時間)は、12月第一週の週末に行われる耐久レースです。ル・マン24時間レースやニュルブルクリンク24時間レースといった名だたる耐久レースよりも走行時間が1時間長い、というのが自慢の一つです。
サンダーヒル25時間を簡単に表現するならば、「アメリカの偉大なる草レース」といったところでしょうか。プロからアマチュアまで参加するドライバーのレベルは様々で、マシンもとにかく多彩です。
クラスは8つに分かれているのですが、レギュレーションブックで最上位のカテゴリーの欄を見ていると「unlimited」という文言がありました。つまり無制限! 安全性さえ確保していれば、どんなクルマで走ってもOKなのです。したがって、LMP2といった本格的なプロトタイプカーからGT3カテゴリーのマシンも参戦しています。
その一方で、歴代のマツダ・ロードスター(現地名ミアータ)が元気にコースを走り回っていたり、CR-Xやプレリュードなどの懐かしいホンダ車の姿が見られたりと、日本人にとっては親しみやすい光景が広がっています。
ドライバーの面子が多彩なことにも驚かされます。NASCARドライバーのカート・ブッシュ選手やインディカードライバーのブライアン・ハータ選手といったプロ中のプロのほか、米映画『ワイルドスピード』シリーズで主演を務めた故ポール・ウォーカーさん、同じく米俳優でル・マン24時間にも出場経験のあるパトリック・デンプシーさんなどがこれまでエントリーリストに名を連ねてきました。
また、噂ではありますが、「世界の名だたるレースを制覇する」ことを目標に掲げている元F1王者のフェルナンド・アロンソ選手も、このサンダーヒル25時間参戦を目論んでいるとかいないとか!?
●マシンはプロクセスRRを履いた495psのアウディR8
そんなサンダーヒル25時間は、4日間にわたって開催されます。木曜日は練習走行、金曜日は練習走行と予選、そして土曜日の11時にレーススタート、日曜日の12時にゴールとなります。
川畑選手が遥々日本からアメリカに飛び、サンダーヒルレースウェイに足を踏み入れたのは木曜日のこと。今回加入するチーム「Flying Lizard Motorsports(フライングリザード・モータースポーツ)」のピットを訪れ、メンバーと挨拶を交わします。
フライングリザードは、日本ではあまり知られていないかもしれませんが、カリフォルニア州のソノマに本拠を置くアメリカの名門レーシングチームです。アメリカン・ル・マン・シリーズではポルシェからファクトリーサポートを受け何度もチーム王座に輝いたほか、ル・マン24時間レースにも長く参戦しており、2005年にはクラス3位を獲得した実績を誇ります。
2015年からはトーヨータイヤとパートナーシップを結び、それと同時にサンダーヒル25時間への参戦をスタートしました。それ以来、なんと4年連続で総合優勝を果たしています。5年目となる2019年は、当初参戦予定はありませんでした。ところが、レース2週間前に急遽参戦が決まり、そこでドライバーとして白羽の矢が立ったのが、川畑選手です。
川畑選手は2018年、「Valkyrie Autosport(ヴァルキリー・オートスポーツ)」というチームからサンダーヒル25時間に初参戦しました。ヴァルキリーのマシンは日産GT-Rニスモだったのですが、チームをサポートするトーヨータイヤUSAが「GT-Rといえばカワバタだから、ぜひ彼に乗ってもらいたい」という推薦があったことから、川畑選手のアメリカ初レースが実現しました。
当初、川畑選手は初めての本格的な耐久レース、初めて走るアメリカのサーキットということもあり、オファーに対して戸惑いがあったと言います。「やってみたい!」という前向きな気持ちと「大丈夫かな…」という不安が半分ずつ心を占めていましたが、持ち前のチャレンジ精神で参戦を決めました。
実は2018年のサンダーヒル25時間で、川畑選手は練習走行中で早々にコースアウトしてしまいました。シートポジションが合っておらず、アップヒルの頂点付近でコースの先を見失ってしまったのが原因です。その瞬間、チームクルーたちの「あの日本人、本当に大丈夫なのか…?」という不信感がピットを覆いました。
しかし、川畑選手は本番の決勝レースで安定した走りを披露し、見事にチームからの信頼を勝ち取ることに成功しました。そして、そのヴァルキリー・オートスポーツの推薦により、2019年は強豪のフライングリザードからの参戦が実現したという経緯があるのです。
川畑選手が2019年に挑戦するのは、「GTチャレンジ」クラスです。このクラスはGT3もしくはGT4のレギュレーションに準じたマシンが対象で、タイヤがワンメイクとなっているのが特徴。トーヨータイヤの「プロクセスRR」というレーシングタイヤで争われます。
なお、トーヨータイヤはサンダーヒル25時間のオフィシャルパートナーを努めています。その経緯と目的を、トーヨータイヤUSAのマーク・サンズンバチャーさんに聞いてみました。
「我々はプロフェッショナルなチームだけでなく、草の根のレーサーたちのサポートも大事にしています。そうすることが、トーヨータイヤのファンとユーザーを増やすことにつながるからです。そういう点では、サンダーヒル25時間は我々にとって最適なレースといえるでしょう」
トーヨータイヤのユーザーは、パドック内のテントでタイヤの組み換えやバランス取りといったサービスを受けられるほか、ケータリングを利用することもできます。そんな恩恵もあってか、2019年のサンダーヒル25時間では45台のエントリーのうち、じつに22台がトーヨータイヤを履いていました。彼らのために今回トーヨータイヤが持ち込んだタイヤの総数はなんと600本以上! トーヨータイヤのモータースポーツに関する裾野の広いサポート活動の一環が、このサンダーヒル25時間というわけなのです。
今回のレースで川畑選手の相棒となるのは、アウディR8 LMS GT4です。GT3とTCRの中間に位置するカテゴリーである「GT4」クラスに準じたマシンで、エンジンは最高出力495ps、最大トルク550Nmを絞り出す5.2リットルV10を搭載しています。トランスミッションは7速DCT(デュアルクラッチトランスミッション)で、ロードゴーイングモデルのR8クーペV10は四輪駆動ですが、GT4マシンは後輪駆動となっているのが特徴です。
●シートのポジション合わせは慎重に!
さて、R8と対面した川畑選手は、さっそくコクピットドリルを受けます。ピットロードの速度制限を守るためのスピードリミッター、ヘッドライトのスイッチ(ピットイン中はヘッドライトを消灯するレギュレーションがある)、トラクションコントロールやABSのモード変更用のスイッチなど、一通りの操作方法も教えてもらいました。
続いて、シートのポジションをチェックします。川畑選手以外の4人のドライバーはすべてアメリカン。大柄な彼らに合わせたバケットシートは、典型的日本人体型の川畑選手にとってはブカブカなので、パッドを何枚も入れて、自分の好みのポジションに時間をかけてじっくりと調整します。合わないシートで無理してドライブした2018年と同じ轍を踏むわけにはいきません。特に気にしていたのが、目線です。本来ならばドライビングポジションは重心の観点から低い方がいいはずですが、アップダウンの多いコースで先を見通せるように、やや高めにセットしました。
R8が耐久レーシングマシンであることを実感させられるのが、フットポジションの調整方法です。バケットシートは床に直付けされていて、代わりに一体化されたペダルボックスが前後に動かせるようになっているのです。センターコンソールのボタンを押すと、エア圧で瞬時にペダルボックスを動かすことができます。この機構は川畑選手も初体験でした。
●初めて乗るマシンは素直で扱いやすくて好印象
さて、この日(木曜日)は練習日。フライングリザードもアメリカ人ドライバーのドライブにより、R8のテストランを繰り返します。川畑選手の出番は夕方にやってきました。
初めて乗るR8の感触を確かめながら、着実に周回を重ねていきます。途中、ピットインを挟みながら約40分の走行を終え、川畑選手はピットに戻ってきました。マシンに慣れているチームメイトのベストが1分56秒台なのに対して、川畑選手は1分58秒~2分前後のラップタイムを安定して刻んでいました。まずは上々の滑り出しです。
初めてドライブしたR8はどうだったのでしょうか?
「とても乗りやすいですね。変な癖がなく、フロントもよく入っていきます」と、R8のファーストコンタクトは好印象だった模様。「まだ攻め切れていないところがあるので、もっとタイムは詰められると思いますが、無理をする必要はないので…。シートポジションも視界も問題ありませんでした」と川畑選手は手応えを感じている様子でした。
●激しいアップダウンと逆バンクのコーナーがドライバーを悩ませる
サンダーヒルレースウェイパークは、アメリカ・カリフォルニア州のウィローズという町から西へ約20km、丘陵地帯を切り開いてできたような場所にあります。全長5マイル(約8km)とアメリカで一番長いレーストラックで、サンダーヒル25時間はそのうちの3マイル(約4.8km)トラックで争われます。
川畑選手によると、「草原の中を走っているような感じ」とのこと。「コースの中に平らな場所が一つもありません。とにかくアップダウンが多くて、1箇所、ペースが上がるとタイヤが浮く場所があります。山の頂点付近では前が見にくいですし、その後の下りながらのコーナーはリヤが出やすいので特に注意が必要ですね。また、逆バンクになっているコーナーが多いのも特徴です。スピードメーターがないので速度は分かりませんが、ホームストレートエンドで200km/hくらいは出ているのではないでしょうか」とのことでした。
金曜日もフライングリザードは練習走行を重ねます。川畑選手も木曜日と同様、約40分の練習走行を順調にこなしました。
この日は夕方から予選が行われる予定ですが、その前にチームはドライバーチェンジの練習を行うことにしました。耐久レースでは、ピットインの作業時間をいかに短縮できるかも勝利の鍵となります。走り終えたドライバーはただマシンを降りるだけでなく、次のドライバーのシートベルトを締めるのを手伝ったり、無線のジャックを差し込んであげたり、といった補助をしなくてはなりません。
川畑選手の場合は、乗り込むのがちょっと大変です。というのも、シートポジション調整のためのパッドをセットしなければならないからです。急いでいるからといって、この作業を疎かにしてしまうと、不自由なポジションでドライブしなくてはならず、自分の首を締めることになります。「なんでそんなに時間をかけているんだ」と訝しげに見ているドライバーもいましたが、本番に備えて川畑選手は練習と確認を何度も重ねたのでした。
さて、ドライバーチェンジの練習を終えた後、レインコンディションでの開催となった予選セッションにおいて、フライングリザードのR8は2分11秒425をマークして総合6番手、クラス首位という好位置をゲットしました。
「GTチャレンジ」クラスのライバルとなる2台のBMW M4は、それぞれ2分13秒975、2分16秒162という予選タイム。この結果だけを見るとR8が有利な感はありますが、耐久レースは1周のタイムだけで勝敗が決まるものではありません。果たして、フライングリザードは目標に掲げるクラス優勝を成し遂げることができるのでしょうか。そして、川畑選手は異国の地でどんな走りを見せてくれるのでしょうか。これまでの順調な流れを見る限り、期待できそうです!
●決勝はクラス首位の好位置からスタート。川畑選手は5番手を担当
そして迎えた決勝日。フライングリザードは5名のドライバーを擁しますが、川畑選手は5番手を担当します。ドライバーは一人あたり、約1時間の走行を2スティントずつ行うので、川畑選手が走行するのは暗くなってからとなりそうです。
この日は朝からどんよりと鉛色の雲が空を覆っていました。11時からのスタートを控えて各車がスターティンググリッドに並ぶ頃には、天気予報通り、大粒の雨がサンダーヒルレースウェイの路面を濡らし始めます。
土砂降りの中、ウォーミングラップを先導していたセーフティカーがピットイン。ウォータースクリーンが激しく立ち込める中、いよいよ25時間の長く激しい戦いの幕が切って落とされました!
スタート直後の混乱をうまくくぐり抜けたR8。順調に周回を重ね、途中、総合4番手にまで順位を上げるなど絶好調です。しばらくすると雨も上がり、雲の隙間からは時折太陽が顔をのぞかせるようになると路面は徐々に乾きはじめ、各車のペースもぐんぐんと上がります。
そして、レースがスタートしてから8時間が経過して太陽がサンダーヒルの丘の向こうにすっかりと姿を隠した頃、いよいよ川畑選手の出番が迫ってきました。2018年はルーキーイヤーだったため、ナイトセッションでの走行がレギュレーションで禁止されていました。したがって、川畑選手が夜間にレースを走るのは2019年が初めてのこととなります。
レーシングスーツに身を包み、スタンバイする川畑選手。前のドライバーの走行中、R8のブレーキからバイブレーションが発生したためフロントのディスクローターの交換を行っています。その際、いったん順位を下げてしまったため、川畑選手がどこまで追い上げられるか、期待が高まります。
●滑りやすくて視界も悪い中、好タイムを連発!
220周目、4度目のドライバーチェンジのためにR8がピットイン。いよいよ川畑選手がマシンに乗り込みます。シートにクッションを敷いてポジションをセットしなくてはならないため、ピットの作業時間が少しかかってしまいましたが、大きな問題はなくピットアウトしていきました。
しかし、サンダーヒルの女神の悪戯でしょうか、川畑選手が走り始めてしばらくすると、またしても雨が降ってきました。
サンダーヒルレースウェイのコース上には、ほとんど照明がありません。闇夜の中、頼りになるのはマシンのヘッドライトだけ。ところどころ、コーナーの途中に置かれている反射板を目印にしながらのドライビングが要求されます。そんなナイトセッション中に視界を妨げる雨まで降ってきてしまっては、ドライバーはたまったものではありません。
だんだんと路面が滑りやすくなっていく難しいコンディションではありますが、そんなときこそ、ドリフトで鍛えられた川畑選手のテクニックが発揮されます。「無理をするつもりはありません。耐久レースで一人だけパフォーマンスをしても仕方ないですから…」と語っていた川畑選手ですが、すばらしい走りを見せてくれました!
他車のペースが徐々に落ちていく中、ときにはライバルとなる同クラスのBMW M4よりも約10秒(!)も速いラップタイムを刻みます。コース上で川畑選手よりも速いのは最上位クラスのマシンのみ、という周回もしばしば。川畑選手の奮闘ぶりにピットも沸きます。
サンダーヒル25時間においては、「いかに上手に抜かれるか」という技術も重要になります。上位クラスのマシンが後ろから来た際、譲ってばかりでは自分のペースで走れません。ときには自分のラインをキープして「突っ張る」ことも必要となります。
また、周回遅れの処理の仕方も重要です。コーナーが連続する区間で遅いクルマに引っかかってしまうと、秒単位でラップタイムがあっという間に落ちてしまいます。とはいえ、簡単に雨が降って視界が悪い上に、どんどん滑りやすくなっていく悪コンディションで無理はできません。前と後ろの両方に注意を払いながら、集中力を途切れさせることのない走りが要求されます。
川畑選手はそんな抜きつ抜かれつも危なげなくことなし、プラン通り、約1時間の走行を終えた段階で一度ピットイン、ガスチャージのみを行って再びコースに戻ります。そして、2スティント目も順調に周回を重ねているように見えた、その矢先のことです!
●前走車がストレートの途中で謎の急ブレーキ! 絶体絶命の川畑選手は…
ピットの動きがにわかに慌ただしくなりました。川畑選手がホームストレートに戻ってこないのです。どうやら1コーナー手前のコース外でストップしてしまっているとのこと。急いで現場に駆けつけたclicccar取材班が見たのは、左フロント部を破損したR8をレッカー車が牽引している場面でした。
とにかくピットまで戻ってマシンを修復しなくてはなりません。しかし、レッカー車に牽引されてピットまで戻されてしまうと、そこでリタイアが決定してしまいます。痛々しい姿のR8ですがなんとか走行が可能だったため、川畑選手は自走でピットまで戻ることにしました。
ゆっくりとした足取りでフライングリザードのピットに戻ってきたR8。クルーが応急措置を施しますが、見た目以上にダメージは深刻でした。左フロントのサスペンションが完全に壊れており、その場での修理は不可能とチームは判断。川畑選手のサンダーヒル25時間は、折り返し点すら到達することが叶わず、約10時間で幕を閉じることとなったのでした。
川畑選手の車載映像には、ときどき大きくカウンターステアを当てている様子が映っていましたが、「雨で滑りやすかったですけど、決して無理をしているわけではありませんでした。コントロールできる範囲内で走っていましたから」と自分の走りを振り返ります。では、一体あの周に何があったのでしょうか。
「ホームストレートで前を走っていた2台に追いついたので、左のマシンの後にくっついて右のマシンを抜こうとしたところ、ブレーキングポイントのはるか手前で右のマシンが突然ブレーキを踏んだんです。それに釣られたのか、左のマシンも急ブレーキをかけたため、前を塞がれた形になってしまって避けきれずに接触してしまいました。自分もブレーキをかけてステアリングで回避しようとしたのですが…間に合いませんでした」
悔しいという感情が全身からあふれ出ている川畑選手。車載映像を何度も見返して、接触の原因を確かめようとしますが、「なぜ、前のマシンがあそこでブレーキングしたのか全然わかりません…」と納得が行かない様子です。
「耐久レースですから、次のドライバーにバトンを渡すことが何よりも大事。それができなかったのが本当に残念です。チームに申し訳ない…」と川畑選手は肩を落とします。
●チェッカーは受けられず…しかし、チームは川畑選手の走りを高く評価
しかし、クラッシュするまでの川畑選手の走りを、チームも高く評価していました。フライングリザードの戦略面を担当するスコット・ジャスムンドさんも川畑選手の健闘を称えてくれました。
「カワバタさんは、すばらしい走りをしていたよ。映像を見て普通ではない状況だったことはわかっている。私たちのチームも様々な経験をしてきたし、レースだからこういうことはあるんだ。だから、彼が謝る必要はない。トラブルがあった際、クルマや他のマシンのせいにするドライバーは多いのに、彼のように自分を責めるドライバーは珍しいね。また来年も、カワバタさんの走りを見たいと思っているよ」
また、傷ついたR8がたたずむピットでは、片付け作業をしていたメカニックと現地のメディアがこんな会話を交わしていました。
「フ●ックな結果だったな」と声をかけられたメカニック。彼はこう答えたのです。
「That’s Race,right?(これがレースだよ、そうだろ?)」と。
2019年の「GTチャレンジ」クラスは3台のエントリーだったため、フライングリザードはチェッカーフラッグを受けることはできなかったものの3位に認定されました。表彰セレモニーではチームの代表として川畑選手がトロフィーを受け取りましたが、その表情は安堵感と悔しさが入り混じったような複雑な表情でした。
「チームメイトも『よく頑張ったな』と握手してくれましたが、それを聞いて嬉しい反面、申し訳なさを強く感じます」と川畑選手。「まだ気が早いですけど、絶対リベンジしたいですね」と、彼の目はすでに来年に向けられていました。そう、2020年こそ25時間を戦い抜いた川畑選手の笑顔を見られることを期待しましょうではありませんか。
今回の経験を糧にして、これからも川畑選手はドリフト、グリップにかかわらず、様々なフィールドで大いに活躍してくれることでしょう。2020年も、「チームトーヨータイヤドリフト」の大黒柱、川畑選手の走りを見逃すことはできません!
(文:長野達郎、写真:トーヨータイヤ/長野達郎)
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