目次
■最先端をゆく電動バイクの加速力はスカイダイビング並み!
●ゼロモーターサイクルズSR/F試乗インプレッション
電動バイクが盛り上がってきている昨今ですが、筆者は一昨年より海外での電動バイク事情が気になりはじめました。そこで、いろいろなニュースサイトをチェックして情報を集めるだけでなく、実際にメーカーを訪問することで、電動バイクの流れと現状、そして方向性が見えてきました。
そしてついに、現在のところ世界で電動バイクの最先端を行っている「Zero Motorcycles(ゼロモーターサイクルズ)」社を訪問することができました。場所はアメリカ、カリフォルニア州スコッツバレー。サンフランシスコからクルマで2時間程度の距離で、太平洋と内陸の間にある山の中腹に位置します。
「最先端」とは技術や性能のことだけではなく、実際に市場で販売されていて値段も現実的なものを掲げており、実際のユーザーにとって「すべてが実現している」ということを意味しています。
●性能と価格のバランスは他メーカーを大きく凌ぐ
試乗したのは同社のフラッグシップと呼べる新型の「SR/F」。性能と価格のバランスは今までの電動バイクから2段くらいレベルアップしており、他のメーカーとは大きな実力差を誇る、世界最高峰モデルです。
●性能、価格、デザインとすべてがハイレベル
まずはSR/Fのスペックを紹介します。
・モーター:Zeroオリジナル 空冷Z-Forceモーター
・最高出力:110馬力@5,000rpm
・最高トルク:190Nm
・バッテリー容量:14.4kWh
・航続距離:260km(市街)/160km(高速:89km/h巡航)
・価格:約220万円(アメリカ現地価格)
このスペックがどうすごいのか? 他の電動バイクの数値と比べないと分かりにくいかも知れませんが、2年間電動バイクを追いかけてきた筆者が「やっと電動バイクがここまで現実的になった」と思えるほどだ、とお伝えすれば少しはイメージしていただけるでしょうか。
驚異的なスペックを誇るSR/Fですが、オートバイは乗った感触が最も大事なのは電動バイクも変わりません。早速、試乗した感想をお伝えします。
●クオリティの高いスイッチ類が好印象
新しいモデル(特に電動バイク)に試乗するときに筆者が最初にチェックするのがハンドル周りです。特にスイッチ類のクオリティに注目します。実はここが顕著にメーカーの車両制作の姿勢が現れる部分なのです。
SR/Fのスイッチ周りは簡素ながら安っぽいイメージはなく合格です。ここが明らかに安いパーツの流用だったり、ハンドルバーの材質や塗装がチープだったりすると、ライダーの気分は盛り下がってしまいますからね。
ゼロモーターサイクルズ広報のダンに一通りの操作や注意点を教えてもらったあと、エコモードでスタートします。ダンには「イキナリスポーツモードはやめておけ」というか、「やめてください」な雰囲気で説明されました(あとあと、その理由が分かるのですが)。
駐車場からゆっくりと走り出して試乗スタートです。エコモードは特に加速が鋭いわけではありませんが、普段の乗り方には十分です。250ccから400ccぐらいのバイクに乗っている感覚です。回生ブレーキが効くセッティングなので、アクセルを戻せば4ストのエンジンブレーキのように減速します。
ゼロモーターサイクルズの本社があるスコッツバレー市街から峠道までは、エコモードのまま走って、車両と右側通行に慣れようと思っていました。しかし、あまりに普通に乗れてしまうので、早々にストリードモードにすることにチェンジ。
走行中でもアクセルをオフにすることでモード切り替えができます。ただし、アクセルオフすると回生ブレーキが効いてかなり減速するので後方車両との間隔が必要です。うまくモードが変わらないと焦るので、十分な余裕を確認した上で操作しましょう。
●これぞ電動バイク! 2ストバイクのような加速感
ストリートモードにしてからアクセルを全開にすると、「これぞ電動!」と思わせる勢いで加速していきます。イキナリ2ストロークエンジンのパワーバンドに入ったような加速で、一気に法定速度を超えてしまいそうになります。
回生ブレーキは効きが弱まり、4ストエンジンの4速か5速ぐらいのエンジンブレーキと同程度の強さになります。速度調整をするにはちょうどよく、ブレーキを使うことなく流れに合わせて走ることができます。
フルブレーキしてみると、十分な容量を感じさせる効きでした。ただ、フルブレーキ時には回生ブレーキもかかることから、タイヤやサスペンション、フレームに違う力が加わった感覚で、慣れないとちょっと違和感を感じます(スポーツモードでは回生ブレーキがあまり効かないので、この違和感はなくなります)。どうしても気になる方は、アプリで回生ブレーキの効き具合を調整することもできます。
車体を左右に振ってみると、重さはそれほど感じられず、普段使いでは問題なさそうです。峠道ではありますがとはいえ先導付きの試乗ですし、こちらもツーリングライダーなので膝を擦るような走りはしていませんが、小さなコーナーで切り返すような場面でも車体が引きずられる感覚はありませんでした。
●そして異次元の電動体験へ
しばらく走っていると、峠道からバイパスのような高速道路にステージが移りました。ストリートモードでも十分速いバイクでしたが、もう一つ上のモードが控えています。「スポーツモード」こそ、このSR/Fのスペックをフルに発揮できるモードとなります。そして、スポーツモードで走りはじめると、なぜこのバイクがロッソIIIを履いているのかがすぐに理解できました。
いったん減速して、先導車を先に行かせたところでフルスロットル! すると3秒後ぐらいには、「やばい! アクセル戻さなきゃ!!」となります。
うまく表現をする言葉が思い浮かばないので何度かフル加速を繰り返したのですが、たどり着いた結論は、「速すぎて脳みそがついていかない」と「スポーツモードはサーキットだけにしよう」でした。
試乗後に広報のダンと表現する言葉について相談したのですが、「スカイダイビングって言えば通じるんじゃない?」と言われて納得しました。筆者もスカイダイビングの経験がありますが、あの笑うしかない強力な加速が続く感じは、まさにSR/Fの凶暴的な加速に似ています。
ただ、スカイダイビングと違って電動バイクならば自分でそれをコントロールできるので、いつでもどこでも(安全なところで)アドレナリンの分泌ができると思うと、それだけでも所有する意味があります。サーキットでは存分に加速力を活かして楽しめそうなので、SR/Fのポテンシャルは相当に高いと思います。
SR/Fの0-100km/h加速は、2秒を切るそうです。フェラーリやランボルギーニが2秒台後半、あのブガッティ・シロンでさえ2.5秒ですから、そうしたスーパースポーツカーを大きく引き離す加速データです。
つまり、SR/Fはわずか200万円代でスーパースポーツカーを超える加速を体験できて、普段使いにも困ることなく、そして維持費も安いという、文句の付け所がない1台といえます。
●電動バイクのデメリットが感じられない
その後も、旋回やブレーキなどをいろいろと試しましたが、問題が見つかりませんでした。強いて言えば、少し加速したいときにアクセル開度の調整が難しいぐらいでしょうか(エンジン車のように、クラッチでトルクを逃がすとかができない)。ただ、これもアプリでの調整である程度は好みに変えられるようなので、オーナーとなってしまえば自分好みのセッティングに変更することで気にならなくなるかもしれません。
このアプリを利用したセッティング変更も、SR/Fの大きな魅力です。街中はもちろんですが、サーキットにおいても、走行枠ごとにいろいろなセッティングを工具を使うことなくアプリでさらっと変更可能。サーキット走行での楽しみをさらに加速します。
この車両に限りませんが、電動バイクの強みの一つは、普段の通勤用、週末のツーリング用(航続距離優先)、サーキット用(出力優先)といった具合に、目的に合わせて車両の特性をアプリやディーラーで自分好みに簡単に調整できることと言えます。いちいちキャブをバラしたり、インジェクションセッティングをプログラムし直す必要はありません。
このSR/F、筆者としては電動バイクの中では「ホンダCB400」との位置付けがしっくり来ます(加速力はCBR1000RRですが)。初心者にも扱いやすく、経験者にも十分な乗り応えがあって、これ1台でなんでもできる。そして他のバイクがいらなくなってしまう。そんな電動バイクの真ん中にあるモデルなのです。
充電に関してもオプションの急速充電ならば6kWhでの充電ができるので、充電時間がかなり短縮できます。走行の合間の休息やランチの間に充電できれば、航続距離の心配は無用でしょう。
初期の購入代金は割高ですが、給油やオイル交換の必要もなく、主に必要なのは電気代だけ。車検も現状では必要ありません。車両価格と維持費、そして航続距離などをトータルで考えれば、SR/Fは一般ユーザーの購入候補になる素質を持ち合わせています。
充電設備が整うことも電動バイクが普及する大事な要素ですが、車両のパフォーマンス自体はすでに実用レベルにあると思いました。
電動バイクにありがちな取ってつけたような部品も見当たらず、既存のエンジンバイクに劣らない品質です。アプリで自分好みのセッティングを探すのも楽しいし、走り方や技術が変わればまたセッティングを変えられます。つまり自分にあったチューニングをアプリ一つで細かく、そしていつでもできるというのは大きな魅力だし、ライダーとしての技量も上がるではないでしょうか。
他にもいろいろなラインアップがあるゼロモーターサイクルズ。SR/F以外の2020モデルも魅力的です。電動バイクに興味のある人は、一度ウェブサイトをチェックしてみてはいかがでしょうか。
ちなみに今回ご紹介したSR/Fについては未確認ですが、日本でもゼロモーターサイクルズ社の車両を輸入・販売しているショップがあるようです。
興味を持った方は、ぜひ一度電動の加速力を体験してみてください。
(電動バイクライター:Hiromi Kinukawa)
【関連リンク】
Zero Motorcycles公式サイト
https://www.zeromotorcycles.com