【自動車用語辞典:潤滑系「ピストンリング」】ピストンに密着して往復運動を繰り返す摺動部分の潤滑

■トップ、セカンド、オイルという3本構成が一般的

●燃焼ガスの機密や油膜厚さの保持を担う

ピストンリングは通常3本で構成され、燃焼ガスやオイルをシールします。その他にも、ピストンの熱をシリンダー側に放熱する、ピストンとシリンダー壁面のオイル量(油膜厚さ)を適正に保持するなどの役割を担っています。

ピストンとともに高速で往復運動を繰り返し、高温の厳しい潤滑状態で使用されるピストンリングの役割について、解説していきます。

●ピストンリングの役割とは

ピストンリングは、通常は上からトップ(コンプレッション)リング、セカンド(コンプレッション)リング、オイルリングの3本で構成されます。

ピストンリングは硬くて摩耗しない、シリンダー壁も摩耗させないようにクロムメッキが施されています。

トップリングとセカンドリングの役割は、以下の通りです。

・燃焼ガスをピストンとシリンダー間の隙間から漏らさずにシール
燃焼ガスが漏れると熱効率が下がり、出力や燃費が悪化します。一方でシール性を高めるために、リング張力を強化すると、フリクションが大きくなり燃費が悪化します。

・燃焼によってピストンが受けた熱をシリンダー壁へ、最終的にはウォータージャケットへ放熱
ピストンの放熱が不十分だと、ピストンとリングが過昇温して亀裂やリング固着が発生します。

セカンドリングとオイルリングの役割は、以下の通りです。

・ピストンとシリンダー壁面のオイル量(油膜厚さ)を適正に保って、潤滑状態を制御
潤滑のためのオイルが少な過ぎるとシリンダー表面が傷つき、最悪の場合は焼き付きが発生します。多すぎると燃焼室にオイルが取り込まれ、燃焼して排出ガス中のHCが増大します。

一般的なピストンリングの構成
一般的なピストンリングの構成

●コンプレッションリングの作動メカニズム

コンプレッションリングは、気密性を保持するためにバネのような弾性力を持ち、その力(張力)でシリンダー壁に張り付いて密着します。リングには合口(切れ目)があり、この切れ目の隙間によって熱膨張しても変形せず、シリンダーへの追従性が維持されます。

通常コンプレッションリングは、トップリングとセカンドリングの2本があります。

トップリングは燃焼ガスが漏れないようにシール性を重視して丸みをおびたバレルフェイス、セカンドリングはそれに加えてシリンダー壁のオイルを掻き落としやすいようにテーパーフェイス形状が採用されることが多いです。

●オイルリングの作動メカニズム

オイルリングは、シリンダー壁の余分なオイルを掻き落とし、セカンドリングが補助的な役割を果たします。代表的な3ピースオイルリングは、波形のスペースエキスパンダーとそれを挟み込む上下の薄い板状のサイドシールで構成されます。スペースエキスパンダーが、サイドレールをシリンダー壁に押し付ける役目を果たしています。

ピストン上昇時には、オイルリングの上面からピストンのオイル逃がし穴を通ってピストン裏面内側へ排出されます。ピストン下降時には、オイルリングのオイル逃がし穴と、オイルリング下面からピストンのオイル逃がし穴を通ってピストン裏面内側へ排出されます。

この繰り返しによって、ピストンとシリンダー間に最低限必要な油膜を確保します。

オイルリングが、ピストンリングのフリクションの大部分を占めます。ただし、フリクションを低減するために張力を弱めると、オイル消費が増大するので両者のバランスを取ることが重要です。

オイルリングの油膜制御
オイルリングの油膜制御

ピストンリングは、目立つ部品ではありませんが、燃費と性能、排出ガス性能、さらに耐久信頼性に大きな影響を与える重要部品です。

かつて本田宗一郎がピストンリングの製作に苦労して、必死に勉強をしたという話が納得できるような気がします。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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