●居住性に配慮したパッケージを確保しつつ、美しさやエレガントさを追求
意表を突く二桁数字で登場した新型マツダCX-30。CX-3とCX-5の間を埋める、絶妙のサイズ感を持つクロスオーバーSUVのデザインはどのように生まれたのか、チーフデザイナーの柳澤氏に話を聞きました。
── まずはじめに、他社の場合は車種毎にスタイルが異なる場合が多いですが、マツダは継続した造形が特徴です。その場合、どのようにコンセプトをまとめるのでしょう?
「弊社もかつてはチーフデザイナーが個々に動いていましたが、2010年の「SINARI」以降、ビジョンモデルを出してからは継続した考え方になっています。現在は「RX-VISION」と「VISION COUPE」の2台を前提に、各々量産車へどう展開しようかと。その中で「3」はスポーティさを狙いましたが、CX-30ではむしろ居住性に配慮したパッケージを確保しつつ、同時に美しさやエレガントさを狙っています」
── RX-VISIONは「艶(えん)」、VISION COUPEは「稟(りん)」の極みを表現していますが、CX-30ではその要素をどう捉えたのですか?
「単純には切り分けられませんが、ザックリいえばプロポーションは「稟」を、サーフェスは「艶」となりますね。具体的に見えているわけではありませんが、ボディの前後には背骨がしっかり通っていて「稟」とした姿勢を、光の移ろいを生む滑らかな面が「艶」を表現しています」
── フロントグリルは代が進むにつれ奥行き感が強くなっていますが、たとえばCX-3などに比べると比較的左右の絞りが弱いですね
「そうですね。CX-3の場合は実用性よりもあえてデザイン性を優先させていますが、このクルマの場合はSUVとして荷室の広さなどを考慮しています。つまり、ユーザーを限定せずより広い層の方に選んでいただきたい。ただ、決して中庸を目指しているのではなく、グリルは深さの表現を工夫して、ある意味3よりも進化しているんです」
── バンパー下部ですが、他社ではアクセントになるようなパーツを置くことが多い中、かなりシンプルですね
「単に何もないということではなく、「引き算の美学」として余白を表現しているのです。フロントグリルの主役はあくまでもシグネチャー・ウイングですから、これを際立たせる造形ですね。水平基調にしているのは、ここを起点とする前後に伸びやかなプロポーションを強調する意図です」
── 特徴的な幅広いクラッティングパネルですが、他社ではホイールアーチを角型や複雑な異形にする例もある中、極めて素直な円形としましたね
「そこは車型によって異なるところで、たとえばジープなどではよりSUV感を高めるためにスクエアな表現をしますよね。一方、このクルマはあえて「クロスオーバーSUV」をキーワードとしていて、たとえばマツダ2など乗用車からの乗り換えを想定しています。そうしたユーザーさんが抵抗感を持たないよう、太さはあるけれどより素直な形状としているわけです」
── リアパネルの大きな「くびれ」が特徴と謳われていますが、その意図を教えてください
「ボディサイドと同様、リアから見たときの面の抑揚や動きを表現しています。もうひとつ、横から見ると分かるのですが、前から流れてきたボディの勢いがこの凸面にしっかりつながり、前後の伸びやかさを強調しているんです。下りてくるルーフラインはもちろん、リアホイールアーチから駆け上がるラインもここに収束しています」
── リアランプの形状は他のシリーズに準じますが、CXー30ではボディ面から外側に飛び出しているのが特徴ですね
「はい。実はこのクルマはリアにショルダーラインがなく、なで肩形状なんですね。ですから、その内側にランプを置いてしまうとリアハッチの開口幅が狭くなり、荷室面積も減ってしまう。そこで大きく外側に張り出させているわけです。また、同時にこれによって空気の流れがスムーズになり、空力性能も上がっているんです」
── その点でもSUVとしてパッケージを重視しているということですね。本日はありがとうございました。
【語る人】
マツダ株式会社
デザイン本部 チーフデザイナー
柳澤 亮 氏
(インタビュー・すぎもと たかよし)