●新車無し、輸入車少量。「クルマを見る」イベントでは無くなってきているのか
東京モーターショー2019では、輸入車メーカーの出展が軒並み減ってしまいました。今回参加しているのは、メルセデスベンツ、スマート、ルノー、アルピナの4ブランド3社だけで、最も日本人になじみのあるフォルクスワーゲン、フェラーリやランボルギーニなどのショーカーとして有望なメーカーは参加を見送っています。あわせてトヨタブースでは、新型市販車の展示がなく、コンセプトモデルが数台だけの展示となり、ステージショーが主体になっていて、従来のモーターショーの形が変わってきています。
1954年に始まった「全日本自動車ショウ」が今日の東京モーターショーの元祖となっていて、当時はモータリゼーションを広く普及させ、クルマの見本市としての機能が求められていました。日本の自動車文化がしっかりと根付き、昭和の終わりから平成の初めにかけて、東京モーターショーには100万人を超える来場者が、クルマを見るために集まりました。
2007年の第40回東京モーターショーまでは、来場者数100万人を超えていましたが、2009年の第41回からは60万人台から90万人台の来場者にとどまります。
ワールドプレミア、ジャパンプレミアの車両が減り、出展メーカーも減少していき、見本市としての東京モーターショーの機能は終焉を迎えたようです。日本国内では、自動車ディーラーの店舗は多く、国道沿いには多数のメーカーが販売店を構えています。わざわざ入場料を払ってクルマを見に行かなくとも、ディーラーに行けばタダで見ることができる世の中になって、ショービジネスとしてのモーターショーの在り方が問われているのでしょう。
●無料で見られるトヨタの新型車
今回の東京モーターショーは、有明から青海にかけて、広い会場が設けられました。チケットが無いと入れない有料エリアは、東京ビッグサイトの展示棟に限られており、会場の一部となっているメガウェブには、無料で入ることができます。
トヨタの市販化が見込まれる新型車は、このメガウェブと隣の商業施設ビーナスフォートに展示されていて、ビーナスフォートにはヴィッツの後継車「ヤリス」が、メガウェブには水素自動車「ミライ」の次期型のコンセプトモデルがあり、無料で見ることができます。展示棟の中に置かれていた新型車を無料エリアに配置し、有料エリアのトヨタブースにはヒューマンコネクティッドを主題にした、一つのモビリティ社会の縮図を描き出しています。
ヒューマノイドロボットがジャンケンをしてくれたり、チェックポイントを回って貯めたポイントを使ってトヨタコンビニでお買い物ができたり、ステージでは音と光とAIやロボットが融合したショーが展開されたりと、エンターテインメントショーの様相を呈しているトヨタブースが、今後のモーターショーのショービジネスとしての形を提案しているのでしょう。
今回のモーターショーの青海展示棟には、職業体験テーマパークのキッザニアが多くのエリアを占めており、子供同伴の家族で、体験をして楽しめる要素が増えています。各メーカーのブースも、単にクルマを見せるよりも、来場者が展示をどう「観る」のかを考えて、アニメーションやキャラクターを多く使用していました。
単にクルマを見るだけではショービジネスとして機能しない時代が到来しており、観て楽しむ、感動する、演劇やコンサート・スポーツ観戦のようなショーのカタチを取っていかなければ、来場者は増えていきません。
参加メーカーや初公開の車両が減っていく中で、ワールドスタンダートなモーターショーの形式は、東京モーターショーには合わなくなってきたのかもしれません。よりローカルに独自色を出して、単なる見本市ではない、来場者が能動的に楽しむ空間を提供することが、東京モーターショーの新しいカタチとして根付いていくのではないでしょうか。
(文:佐々木 亘)