50代からの大型二輪免許取得もついに卒業検定。しかし緊張から一本橋で「走って」しまった……【RRR・第四回】

■検定終了から結果発表までの1時間半、非日常的な緊張した時間を過ごす

50歳になって、およそ30年ぶりにオートバイに乗ってみようと考えた自動車コラムニスト。リターンライダーとしてのアクシデントを防ぐためにライディングの基礎を思い出すことを決意。若干、本末転倒気味ですが、ライディングを学ぶことも含めて、せっかくだからと大型二輪免許を取ろうと考えた。そこから、この連載RRR(リターンライダーリハビリテーションの略)が始まりました。

前回まで3回の連載では大型二輪免許を取ろうと思ったきっかけ、そして30年以上ぶりの教習所での感じたことについてレポートしてきましたが、全12回の技能教習も終了。ついに卒業検定の日がやってきました。試験を受けるということ自体も久しぶりで、その日は朝から緊張しっぱなし。そして、この日はとある封印を解く日にもなりました。

じつは、大型二輪免許を取るべく教習所に通っている段階で、久しぶりの愛車となるバイクを購入していたのです。といっても、それは大型二輪でなければ、普通二輪でもない125ccの原付二種。教習車として大型二輪に触れる中で、自分の環境では置き場所の問題から大型二輪を所有するのは難しいと感じたからなのでした。リターンライダーとしては、なにかあっても御せると思えるくらいのバイクのほうが安心とい気持ちもありました。

ちなみに、どんなオートバイを手に入れたかといえば、Kawasaki Z125 PROです。なんだかんだ、このくらいのパワーや重さがリハビリテーションには安心感がありますから。

Kawasaki Z125 PRO
Kawasaki Z125 PRO

しかし、原付二種と大型二輪を比べると、様々なところで違いもあるわけで、小さなバイクの乗るのは大型二輪の免許を取得するまで封印していようと思っていました。しかし、卒業検定前のみきわめとなった技能教習において、キープレフトの甘さを指摘されます。たしかに、キープレフトができていない自覚はありました。やはり四輪の感覚が強く残っているのか、むしろ車線の中央から若干右に視点を置きたがるクセがあるのです。

だから、卒業検定の日に封印を解いたのです。自動車学校(教習所)までバイクで行くことでキープレフトの感覚を身につけようと思ったのでした。正直、そこには賭けという感覚もありました。あえて30km/h程度で走行することで速度感としても卒業検定で求められる感覚を維持しようと自分なりに工夫したりもしました。

Honda NC750L
ホンダNC750教習車仕様

さて、卒業検定前の説明は、検定中止となる行為の羅列から始まりました。

記憶に残ったところでいえば、1m以上の逆行(坂道発進での失敗)、4回以上のエンスト、一本橋など課題の通過不能、脱輪、縁石への接触(足をかけてしまうのも含む)、右側通行(区画線を踏んだらアウト)、転倒などなど。バイクが倒れなくても、ある程度以上バランスを崩すと転倒とみなされるとのことです。検定といってもコースを占有するわけではないので、他の教習車(二輪も四輪)を追い越したり、割り込んだりするのも一発アウトだということです。

検定中止とならなくとも合格できるとは限りません。100点満点の状態でスタートして、ミスのたびに減点されていきますから、なんとか検定自体はゴールしたとしても減点が30点を超えて持ち点が70点を下回ってしまうと不合格になってしまいます。

技能教習の第二段階でみきわめをもらったということは、合格できるレベルで走れますよという意味だとしても、「卒業検定」という言葉の響きが緊張感を高めます。さらに卒業検定用の教習車は、ピカピカにされていて、それも体を硬くしてしまうのでした。

ご存知にように、大型二輪の卒業検定というのは教習所内で決められたコースを走るというもの。指定速度もありますし、また波状路・一本橋・スラロームといった課題も、その中に含まれています。その中で、決められた課題をクリアしつつ、いわゆる法規に則った走行ができるかどうか、が卒業検定をクリアできるかどうかのポイント。ちなみに、ミスコース自体は減点対象ではないので、指示通りきちんと元のコースに復帰することができれば問題はないそうですが、もしミスコースなどしたら動揺して余計なミスを起こしそうです。

その日は大型二輪を含めて10名以上の卒業検定が実施されます。自分の番が迫ってくると脈拍がかなり速くなってくるのが実感できます。緊張感からネガな気分にもなってきます。そして、オートバイにまたがる段階でのルーティンさえ間違えてしまうほど。本来、またがって、ミラーの位置合わせをしてからエンジンを始動すべきなのですが、エンジンを始動してからミラーを合わせるといった具合。体がギクシャクしているのを感じます。懸案の課題では波状路こそ自信を持ってクリアできたといえますが、一本橋は明らかに規定の10秒よりも短い時間で渡り切ってしまったくらいです。正直、橋から落ちるくらいなら渡り切ることを優先してしまえ! と思った部分もありますが……。

しかし、そのあとにクランク路を走ったときに落ち着いてきます。技能教習を始めた当初は、どうにもぎこちなかったクランク路の走りですが、あるときから何かに開眼したかのようにクランク路が広く感じるようになったのです。そうした感覚がよみがえり、同時に自信も戻ってきました。

そこから先は落ち着いて走ることができました。キープレフトについても目付けが変わったかのように左に寄れるようになりました。ともかく検定中止になることなく卒業検定を完走できたのです。

しかし、検定終了から発表までの1時間以上の待ち時間は、心理的には針の筵。ノーミスでないことは重々承知していますから、あのミスでどのくらい減点されたのだろう? と想像するばかりで気持ちは落ち込みます。もっとも、もともとはライディングの基本を学び直すことも大型二輪免許を取るために教習所に通う狙いのひとつですから、ここで落ちて技能教習を受けることも自分のスキルアップにはつながるから悪いことじゃないはずだ、と逆説的にポジションシンキングをしてみたり。そんなこんな、落ち着かないまま合否発表の時間がやってきます。

もちろん「減点がないわけじゃないので、公道では十分に気をつけてください」と言われたものの、なんとか卒業証明書・卒業検定合格証明書をもらうことができました。同じ日に検定を受けた全員が卒業できたわけではないので、教習所に通えば簡単に免許が手に入るというわけではなく、あくまでも安全に走ることができると認められないと公道デビューはできないというわけです。

そして、翌々日には免許センターに行き、晴れて公道で大型二輪に乗れる資格を得たのでした。個人的には誕生月が1月のため、これまでの免許証といえばセーターなどを厚着をしていることが多かったのですが、今回は暑い盛りでの手続きとなりましたのでTシャツ一枚と薄着なのは、なんとも自分としては違和感だったり。

ともあれ、大型二輪の免許を得たことで、これからがリハビリテーションの本番。身長163cmのリターンライダーとして、どのようなメニューで進めていけばいいのか迷うところ。まずは教習車のベースとなったホンダの2気筒モデルNC750を公道で乗って、どんな印象なのかを確認してみたいと考えているのですが、その前に万一の際の安全性を考慮してプロテクター類を揃えることが最優先です。

(山本晋也)

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この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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