【自動車用語辞典:点火と電装部品「点火プラグ」】高圧電流による火花で混合気に着火させる仕組み

■過酷な条件下でも安定した着火が使命

●電極には白金やイリジウムを用いるケースも

ガソリンエンジンでは、点火プラグの電極間に発生する火花放電によって、シリンダー内の混合気が着火して火炎が燃焼室全域に広がります。

燃焼室の中で高温高圧に晒されながら、確実に火花を飛ばす点火プラグの構造や機能について、解説していきます。

●点火プラグの役割とは

点火プラグは、点火コイルで発生した数万Vの高電圧を受けて、絶縁破壊によって電極間に火花放電します。この火花によって、シリンダー内の混合気は着火され、火炎となって燃焼室全域に広がります。

燃焼のトリガーとしての役目を担う点火プラグには、2000Kを超える高温と10MPaを超えるような高圧の過酷な条件下でも、確実に火花を飛ばすことが要求されます。

具体的には、機械的強度と耐熱性に優れ、燃焼ガスを漏らさないこと、さらに燃焼ガス中のカーボンやオイルなどによって電極が汚損しないことが必要です。

●点火プラグの構造

点火コイルから高電圧を供給される中心電極(+)は、絶縁ガイシ(インシュレータ―)によって絶縁保護されています。この中心電極と、燃焼室に組み付けるためのネジ部から出ている接地極(-)との間で火花が飛びます。

中心電極と接地極との隙間(ギャップ)は、通常0.6~1mm程度です。隙間が狭いと火花は飛びやすいが火花エネルギーは小さく、一方隙間が広いと火花は飛び難いが高エネルギーの火花が発生します。

また混合気の圧力や温度にも火花放電は影響されるので、広い運転条件で安定した強い火花が飛ぶように隙間は選定されます。

点火プラグの構造
点火プラグの構造

●熱価(ホットタイプとコールドタイプ)

点火プラグの電極温度が高すぎると、火花が飛ぶ前に勝手に熱面着火を起こす恐れがあります。一方低すぎると、カーボンが焼き払えず付着しやすくなります。

したがって電極温度は、付着したカーボンを焼き払う自己清浄作用のために、500~900℃程度に保つ必要があります。

点火プラグの電極温度を支配するのが、電極から燃焼室壁面への放熱です。この放熱能力を数値化したものが、点火プラグの熱価です。通常6番を基準として、番数が低いほど放熱性が低く、熱がこもり電極温度が上がりやすいことを示します。

絶縁ガイシの電極付近の放熱面積を大きくしたものをコールドタイプ、ガスポケットを広くとり放熱面積を小さくしたものをホットタイプと呼びます。

低出力エンジンで比較的低負荷運転を多用する場合は、ホットタイプで温度を維持して自己清浄作用を促進します。一方、高出力エンジンでは温度が上がり過ぎないようにコールドタイプを使います。

点火プラグの熱価
点火プラグの熱価

●さまざまな点火プラグ

最近は、多種多様なエンジンに対応するために点火プラグのバリエーションが増えています。

従来は、電極にはニッケル合金が使われていました。最近は、耐久性を向上させるためにさらに融点の高い白金チップを電極に使った白金タイプが主流になりました。電極部を細くしてカーボン汚損を抑えながら、着火性能を向上させたイリジウム合金の点火プラグの採用例も増えてきました。

また、電極消耗を分散させて耐久性向上を狙った多極プラグ(接地極を2~4極に複数化)や着火性向上のために中心電極先端形状をVカットしたプラグ、点火ノイズを抑えるためにセラミック抵抗体を内蔵したレジスター点火プラグなども一部のクルマで使われています。


点火プラグはかつては消耗品で、エンジンが不調になるとユーザー自ら、点火プラグがカーボンで被ってないかを確認し、きれいに掃除してダメなら交換していました。

現在は、点火プラグの熱許容レンジが広くなり、電極チップの白金化などで寿命が大幅に改善されています。運転条件にもよりますが、白金やイリジウム仕様では5~6万kmは交換しなくても大丈夫です。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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