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前回Part.1では、井出有治さん自身のフォーミュラニッポン時代の想い出と、カート時代から成長を見守る現FIA F3に挑戦中の後輩、名取鉄平選手の応援にイタリアGPへ行った話から、鉄平選手への叱咤激励をお届けしました。
このときのインタビューにはまだまだ先がありまして…。現在の日本のF1について、今後の日本人F1ドライバーについての井出有治さん流見解を熱く語ってくれました。そしてF1日本GP鈴鹿後にも再度インタビュー。井出さん自身が苦しいF1挑戦をしたからこそ語れる…そんな話を是非clicccar読者の皆さんとも共有したいと思います。(clicccar永光やすの)
■スカラシップで海外フォーミュラレース挑戦も素晴らしいシステム…だけど
Part.1で紹介した名取鉄平選手(19歳)は、カートから始まり2017年、SRS-F(鈴鹿サーキットレーシングスクール・フォーミュラ)のスカラシップを獲得、翌2018年のFIA F4にHONDAフォーミュラドリームプロジェクトから参戦、シリーズ2位でしたが特例として、2019年にF1ヨーロッパラウンドのサポートレースとして行われるFIA F3にCarlin Buzz Racing(カーリン・バズ・レーシング)から参戦しました。
速さはあるのに生かし切れず、成績的にはイマイチなんですけど…。
鉄平がFIA F3と並行して参戦しているユーロフォーミュラ・オープン第8戦で、ようやくポールtoウィン+ファステストラップをやってくれました。でも、ユーロフォーミュラ・オープンよりFIA F3に参戦しているドライバーのほうがレベル的に層が厚いので、ここで勝ててもF1へのステップアップに対する評価にはあまりなりません。たとえシリーズチャンピオンを獲ったとしても難しいでしょうね。
鉄平は危なっかしいけど才能もあるので、ポンポンと調子よくホンダのスカラシップでFIA F3まで行けました。でも、スカラシップで調子よく上がっても、チャンスを手にすることができるのはほんの一握り。才能を持った若手レーサーがスカラシップでポンポンと上のカテゴリーに上がり、そして認められなければいけません。
日本人がF1へ行く道筋としては、メーカーのサポートのもと18歳から海外でF3を1年、19歳からF2に1~2年乗って順調に行っても21歳で認められるかどうか…ですよね。遅くても20代前半までにカタチにできないと、今のF1へたどり着くのはかなり難しいです。
マクラーレンのランド・ノリス選手は2017年、17歳からF1のテストドライバーになり経験を積み、そして19歳でフル参戦! キミ・ライコネン選手はフォーミュラ・ルノー時代に21歳でザウバーのテストドライブをし、翌2001年からレギュラードライバーという、F3に乗らずにF1へ飛び級をした天才。
また、セバスチャン・ベッテル選手は19歳でBMWザウバーのサードドライバーとなり、2007年19歳時にロバート・クビサ選手の代役(クラッシュで重傷)としてカナダGPに初参戦し8位! これは当時のF1最年少入賞記録となったほどの超天才です。
●日本GP鈴鹿で山本尚貴選手がレッドブルHONDAで走ったのは素晴らしいシーンでした!…でも、コンセプトが違うんです
今、山本尚貴選手が日本人F1ドライバーの最有力候補!って言われています。今一番アブラが乗っていて速く、経験的、体力的にもピークだからなのでしょう。
でも、山本選手は31歳。2020年、32歳でF1デビュー!?になったら…現在のF1だとかなり異例だと思います。ボクがF1に乗った2006年、31歳でのデビューでしたけど、あの時代でも年齢的に遅いって自分でも感じていましたから。
部長(あ、山本選手のことをボクらは部長と呼んでいます!)は可愛い後輩だし大好きなレーサーだから、ボクだってF1挑戦を応援しています! それに、山本選手がF1でどんな走りをするのかも見てみたいです。
でもね、レッドブルのコンセプトは『才能ある若くて速いコをどんどん乗せて育成する』です。山本選手は2019日本GPで金曜日のフリープラクティスでドライブし、チームからの評判もよく好意的に報じられています。しかし、山本選手とまったく関係のない人の中には『他の若手にF1を経験させたほうが…』という超ドライな考え方もあったかと思います。
●オールジャパンじゃなくても、ジャパンが認める若手レーサーなら国籍は関係なし! グローバルに行けば世界は広がる!!
いまやスーパーライセンスポイントを規定の40P以上持っていないと、F1マシンにはテストで乗ることもできません(他にも細かい条件があります)。ちなみに、ボクの時(2006年)はスーパーライセンスポイント制ではなく、F3のシリーズチャンピオンや、その他F1の下位カテゴリーでの実績や成績をおさめていれば乗れました。
当然、ホンダは日本人ドライバーをF1に乗せたがっていると思います。スーパーライセンスポイントを取れるドライバーを育成するためにもここ数年、多くの日本人ドライバーをヨーロッパに行かせています。それでもヨーロッパは厳しく、なかなか結果は残せていません。
オールジャパンで!っていう気持ちも分かります。ボクも同じ気持ちです。ボクの時だってホンダエンジンで日本チーム(SUPER AGURI Formula 1 TEAM)で日本人ドライバー2名(佐藤琢磨選手とボク)で、という体制でF1レースを戦いました。
ボクが2002年フランスF3に参戦していた頃、当時のルノー・スポールの方から「ルノーはグローバルカンパニーだから、あえてフランス人じゃないドライバーを育成している」と言っていたのを、とても印象深く覚えています。
超客観的に言うと、日本も海外メーカーのように国籍関係なく才能ある若いドライバーにチャンスを与えるべきだと思うんです。オールジャパンの縛りを無くし国籍関係なしなら当然、世の中には才能に溢れる若い選手がいっぱいいます。これからは国籍に拘らずドライバーを育成していくことが必要なのかな…と、ボクは思います。
その点、2輪の世界では原田哲也さん(Aprilia/アプリリア)はじめ、海外メーカーと契約して活躍された日本人ライダーの方が何人もいらっしゃいましたよね。
ドライバーとして速い遅いではなく、F1サーキットを経験できる環境や海外のスタッフとコミュニケーションをとれる言葉や文化の違いもしかり。F1を目標とするなら、ヨーロッパでF3より下位のカテゴリーを早いうちから経験することが必要なのではないでしょうか。そうしないと日本人ドライバーにはチャンスを手にすることができないのが実情なのかな、とも感じています。
今後、ワールドワイドに活躍できる日本人F1ドライバーが誕生できる環境になることを願っています。
※でも、やっぱり個人的には、山本尚貴選手にF1のレギュラードライバーとして頑張ってもらいたいんだけどね! by 井出 有治
井出有治さん自らが過酷な事情の中で揉まれ、傷つけられながら挑戦したF1経験があるからこそ、「ヘンな評論家?批判家??とは思われたくないけど(笑)」と苦笑いしながら、言いにくい現在の日本のF1事情を語ってくれました。F1のシートを誰にも文句を言わせず実力で勝ち取れる、そんな日本人レーシングドライバーの出現が待ち遠しいですね。
(語り:井出 有治/文:永光 やすの/画像:オートスポーツ誌/F1速報誌/AUTOSPORT web)
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