●かつてのシトロエンを彷彿とさせるPHCは、大陸的な使い方にマッチ!?
シトロエンC5エアクロスSUVはCセグメントのSUVにポジショニングされるモデルです。
日本で「SUV」というと、クロカン4WDが根底にあり、その血統を大切にするようなヘビーデューティ感にあふれたモデルが圧倒的に多いのですが、シトロエンのそれはかなりゆるめな雰囲気にあふれています。
ざっくりしたボディ形状は水平なボンネットと4つのドアを持つキャビン、そして垂直に近い配置をもつリヤハッチを備える……SUVのお手本的なものですが、ボディサイドアンダーにエアバンプと呼ばれる緩衝材を配置、キリッと引き締まったフロントまわりなどによって特徴的なスタイリングを実現しています。
日本やドイツのSUVがヘッドライトとグリルを大きくして威圧感を高めているのに対して、細めのデイライトに横長のグリルなど威圧感を与えないスタイリングは存在感もありながら優しい雰囲気がある不思議なものといえます。
搭載されるエンジンは2リットルのディーゼルターボで、最高出力は177馬力、最大トルクは400Nmになります。トルク感はかなり高く、低速から力強く加速します。ディーゼルだと感じさせない静粛性も兼ね備えているのですが、それは室内で自分が運転しているときだけな印象で、クルマを降りて冷静にアイドリング音を聞くとそれなりの音が出ています。
自分が快適ならいいやととるか? 夜中にこの音で帰宅するのはちょっとととるか? は居住環境と考え方でかわってきそうです。
シトロエンというクルマが話題になる際、つねにつきまとうのが「ハイドロニューマチックサスペション」です。かつてのシトロエンはエアとオイルを併用したハイドロニューマチックサスペションが売りで、他車とは異なる独特の乗り味を実現していました。詳しい機構の説明は省略しますが、ゆったりとフラットな乗り心地が味わえることが大きな特徴でした。
しかし、現代ではハイドロニューマチックサスペションは姿を消しています。ハイドロニューマチックサスペションが姿を消した理由は、信頼性、コストなどさまざまな面がありました。さまざまな意見はありますが、淘汰されたということはメリットよりデメリットが大きかったと判断するべきでしょう。
しかし、その独特の乗り心地はシトロエンファンの永遠のあこがれでありますし商品性も高いものです。シトロエンはそれを再現するために、プログレッシブ・ハイドローリック・クッション(PHC)と呼ばれるショックアブソーバーをC5エアクロスSUVに採用しました。
このショックアブソーバーは、ショックアブソーバー内にもう一つショックアブソーバーを備えるような機構で、以前は競技用などとして使われていました。
PHCは最初の減衰力を弱めることができますので、ハイドロニューマチックサスペションのようなふわふわ感のある乗り心地を再現はできますが、ハイドロニューマチックサスペションほどの柔らかさはありません。ロールが増えていくと、内蔵される2つめのショックアブソーバーが作動するので、剛性感がでるのですが、それもちょっと足りない感じです。
道路の状況が悪かった時代はハイドロニューマチックサスペションに大きな価値があったかも知れませんが、現代日本の整備された道路ではその恩恵はさほど大きくないでしょう。足まわりに関しては、もう少ししっかり感があったほうが安心して運転できるように思います。
しっかりリヤまで伸びたルーフと、垂直に近い配置がされているリヤゲートによって、ラゲッジスペースの広さは十分に広い。定員乗車時のスペースは最小で580リットル、リヤシートのスライドを前にすれば670リットルまで拡大可能です。さらにリヤシートをフォールディングした場合の最大容量は1630リットルにもなります。
フランスではこうしたモデルでキャンピングトレーラー引っ張って長期のバカンスを楽しんだりします。そうした使われ方では、サスペンションは柔らかいほうがいい方向になります。トレーラーの動きがけん引車に伝わったときにサスペンションが硬いと動きが急激になるからです。そうした大陸的な使い方をして、はじめてPHCは本領を発揮することでしょう。
(文/写真・諸星陽一)