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トヨタのカーラインナップの中でも長寿モデルのエスティマが、2019年10月に生産終了となることが発表されました。長きにわたってトヨタのクルマを引っ張ってきたエスティマが廃止されることで、販売現場がどのような影響を受けるのか、元トヨタディーラー営業マンが解説していきます。
■天才タマゴは唯一無二の存在
トヨタのカテゴリーではミニバンの中に位置するエスティマですが、エスティマは、セダン、ワゴン、クロカンなどのクルマの形状によるカテゴライズの中に、どこにも分類できない「エスティマ」という独自のカテゴリーを確立しました。その長所をマイナーチェンジごとにどんどんと伸ばしていったことが、今日までのエスティマの地位確立につながります。
2代目に移行したのが2000年、その後現行型の3代目に移行したのが2006年です。途中には複数回のマイナーチェンジが挟まるものの、ここまでフルモデルチェンジへのスパンが長いクルマは珍しいです。
時代に合わせて小規模な改良は行うものの、初代エスティマの持っていた、時代の古さを感じさせない作り込みは、現代でも十分通用するもので、時の流れに身を任せ、コロコロとコンセプトが変わってしまうクルマと違い、エスティマとはこういうクルマだ、という芯がぶれない点も、ファンが根付いて離れない要素になっているでしょう。
●アルファード/ヴェルファイアでは補完できない
エスティマのオーナーは、フルモデルチェンジをしなくても、改良された同一型の新車に代替をします。このような現象は、ディーラーの営業をしていて数多くの車種を販売していますが、エスティマだけに起こる現象です。それほどエスティマというクルマがトヨタブランドの中の独自のブランド力を持ち、ミニバンを求めるのではなく、エスティマを求めていることに他なりません。
ヴェルファイアの新型が出た時に、エスティマ保有のオーナーの多くに試乗してもらいましたが、いい感触は得られませんでした。「運転しにくい」「ボディラインが好きじゃない」「エスティマの方が安定して乗れる」といった意見が多く、箱のイメージが強いミニバンを嫌う傾向にありました。
●多くのユーザーを取りこぼす可能性が高い
販売現場では、エスティマというブランドに助けられていた面が大きいでしょう。トヨタが全車種併売に移る中で、利幅の大きいエスティマを取り上げられてしまったトヨタ店とカローラ店のダメージは大きいです。大型車種の取り扱いの多いトヨタ店はまだしも、販売利益の多くをエスティマが担っていたカローラ店の打撃は計り知れません。
現場の営業マンとしても、ミニバンはもちろん、ステーションワゴンやセダンユーザーまでをもカバーするエスティマの存在が消えてしまうと、販売力の低下は否めず、特にステーションワゴン市場で強力な商品のないトヨタにとって、他メーカーのステーションワゴンユーザーを取り込めなくなってしまうのは、大きな販売力の低下を招きます。
現在のエスティマユーザーの受け皿も無くなり、買い替えも進まず長きにわたってそのまま乗り続けるオーナーもいれば、走りの良い輸入車のミニバンへシフトする人も多いでしょう。営業マンにとっても、オーナーにとっても、エスティマの変わりはエスティマでしかなく、特に売る側としてはエスティマオーナーに何を勧めていいのかイメージができなくなります。販売のイメージができなければ良い提案もできなくなり、保有ユーザー数を極力減らさないというだけの守りの営業しかできなくなります。
2020年の5月に予定されている、全車種併売のなかでもエスティマの代わりがあるわけでもなく、既存のエスティマユーザーをどうやってケアしていくのかは大きな課題です。特に自動車の保有台数の伸びが悪い昨今、既存ユーザーの囲い込みを行い、点検やサービスで売り上げを伸ばしていかなければならないディーラー事情で、エスティマユーザーの流出を最小限に防がなければ販売店の未来はありません。今後のトヨタ店とカローラ店の対応は急務です。
●まとめ
名車エスティマを失ったショックは、メーカーが考えるよりも販売店側には深刻な問題です。新車販売の利益はもちろん、対応を間違うとサービスでの利益も失うことになり、来年の全車種併売へ向けた各販売店の争いで大きな後れを取ることに繋がります。エスティマが好きなユーザーを販売店、ひいては担当営業が好きと言わしめ、引き続き付き合いを続けられるかが、エスティマショックを乗り切る方法です。質の高い営業、サービス対応の高い能力が求められることでしょう。
(文;佐々木 亘)