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■安全予防装置の先駆けとして普及が進む
●車輪速センサーからタイヤのスリップを検知
予防安全機能を向上させるブレーキ機能の中で最も基本的なのは、制動時のタイヤロックを防止するABS(アンチロックブレーキシステム)です。
予防安全機能の先駆けとして登場したABSのシステムと制御技術について、解説していきます。
●ABSシステムの概要
ABSは、1970年代に登場し、現在はほとんどのクルマに導入されている基本機能です。ABSの採用によって、急ブレーキや滑りやすい路面の制動で生じるタイヤロックを防止して、適切な制動力を得ることができます。
タイヤロックは、スリップ率が100%(車輪速が0)の状態で発生し、このとき操舵性に寄与するコーナリングフォースはほぼ0です。後輪タイヤがロックした場合は車両が不安定なり、前輪タイヤがロックした場合には操舵が効かなくなります。
スリップ率 = (車体速度―車輪速度)/車体速度 ×100 (%)
ABSは、各タイヤのスリップ率を適正に保つ、グリップ力を適正に保つことによって、コーナリングフォースの低下を防ぎ、操舵性と最適な制動力実現します。
●ABS制御の概要
ABS-ECUは、各車輪速センサーのパルス周期から求めた車輪速度とその微分値である車輪加速度、車速を用いて、スリップ状況を演算します。スリップ状況に応じて、ABSアクチュエーターに指令を出して、各車輪のブレーキ油圧を独立に制御します。
ABSアクチュエーターは、制動時に各車輪のホイールシリンダー油圧を調整する装置です。各車輪に一対の電磁弁を有し、そのオン/オフ切り替えによってホイールシリンダーの油圧を増減・保持することによって、制動力を制御します。
●車輪速センサー
車輪速センサーは、車輪の回転速度を計測するセンサーで、車輪とともに回転するローターの磁界の変化を検出する非接触型センサーが用いられます。
かつては電磁ピックアップ方式が用いられていましたが、現在ではホール素子やMR素子で検出する半導体型が主流となっています。
●ABS制御方法
ABS-ECUは、常時各車輪のスリップ状態をモニターして、スリップが発生した場合は以下のようにABSの油圧制御を行います。
急ブレーキなどでタイヤスリップ率が基準値を超えた場合、タイヤロックと判定して、ホイールシリンダー油圧を減少させて制動力を緩め、油圧を保持して車輪速度の回復を待ちます。
その後、スリップが収まる(スリップ率が低下)と、油圧を周期的に保持・増圧を繰り返し、ホイールシリンダーの油圧を増加させ、再度車輪速度を低下(スリップ率低下)させます。
この油圧の減少・保持・増加のサイクルを数m~10m秒の短い周期で車両停止まで繰り返す(ポンピング機能)ことで、車輪ロックを防止します。
●ポンピングブレーキは不要
ABSが普及してない頃は、自動車学校では急ブレーキ時にはポンピング機能をブレーキペダルの踏み込み調整で行うように、ドライバーに指導していました。
ABS装着車の場合、急ブレーキ時には思い切ってブレーキペダルを踏み続け、ステアリング操作に集中すればよいのです。
●フェイルセーフ機能
ABSの故障は大事故につながるので、ABS-ECUは自己診断機能を持っています。
もしも故障が発生した場合は、警告ランプを点灯させてドライバーに認識させた上で、システムを通常の制動システムに切り替えます。ABSの誤作動で普通のブレーキ中に頻繁にABS制御が入ると、制動距離が延びてしまう恐れがあります。
長年クルマを運転していても、急ブレーキをかける経験は少ないと思います。ABSは、通常のブレーキでは作動せず、相当強く踏み込まないと作動しません。
ABSが作動しているときには、ブレーキ力を小刻みに制御するのでペダルや車体にガクガクした振動やガガガガといった作動音が発生します。
(Mr.ソラン)