【真説「スズキ初代カタナ」第6回】貴重なスケッチを公開。カタナのデザインはどのようにして煮詰められていったのか?

■スケッチに描かれた40年前とは思えない先進的アイデアの数々

GSX750S/GSX1100Sカタナに18年間乗り続け、オーナーズクラブの副会長も努めた人物が、自らの経験と多くの人へのインタビューから「カタナ」というバイクについて考察する。

ED1(GS650G)が量産への道を歩み始めた頃、スズキの谷さんがターゲット・デザインの渉外役であるハンス・ムートに伝えた「あれがやりたいんだ」という言葉。「あれ」とはもちろんMVアグスタをベースに製作されたコンセプトモデル「ROSSO RAPTOR」のこと。

ROSSO RAPTOR
ROSSO RAPTOR(赤い猛禽類)と名付けられた、MVアグスタのためにデザインされたコンセプトモデル。

谷さんはそのイメージを受け継いだインパクトのあるモデルを、ヨーロッパ市場にスズキブランドを売り込む「切り札」にしたいと考えていたのだ。
そのバイクは「ED2」というコードネームでデザインが進められた。

ここにターゲット・デザインから寄せられた当時の貴重なスケッチ類を掲載する。

1100 ideation sketch
1100 ideation sketch(画像提供:Target Design)

「1100アイディアスケッチ」というファイル名が付けられたイラスト。空冷エンジンやマフラーらしいモノはあるもののタイヤもハンドルもない。まるでSFに登場するスペースシップのようだ。
「SUZUKI-ED」「PHILOSOPHY」「IMAGE」という文字からデザイナーがED2を具現化するにあたって自由に発想して描いたと推測できる。
興味深いのはシートの斜め下にある「ON/OFFスイッチ」と、マフラーの近くにある「ダイヤル型のスイッチ」。GSX1100Sカタナ好きならピンとくるはず。
このイラストを描いたのは下にあるサイン(FELLSTROM)からも分かる通りターゲット・デザインのデザイナー、ジャン・フェルストロムだ。

1100 sketch functional
1100 sketch functional(画像提供:Target Design)

ファイル名は「1100機能スケッチ」。開発のどの段階で描かれたものか不明だが、このイラストで注目すべき点は各部に書かれたコメントだ。
タンクの上には「オフセットフィラー付き24ℓタンク」と記載。タンクキャップがオフセットされているのだ。またサイドカバーにはダイヤル型のスイッチが埋め込まれている。
フロントカウル下には上から順に「コックピットは軽くて小さく、ハンドリング特性を改善するように設計されている」「全体的なウェッジ形状と追加スポイラーにより、良好なダウンプレッシャーを達成」「ライダーを保護するため上面にスクリーンを追加する」といった内容が書かれている。
赤いシートの上には「跳ね上げ式のフロントシートにより、収納コンパートメントにアクセス可能」とある。
右下のイラストはパニアケースを備えたタンデムシートのようだ。ユニット式で通常のタンデムシートと交換できるというアイディアであろう。これは今の目で見ても斬新だ。同時にED2がデザインだけではなく実用性も考慮されていたことが分かる。これも描いたのはジャン・フェルストロム。

katana_sketch
katana_sketch(画像提供:Target Design)

全体のフォルムはもちろん、ディテールまでが現実的に描かれたイラスト。オレンジのカラーリングは「ROSSO RAPTOR」のイメージを継いだものか。タンデムシート部やリヤまわりの処理なども独特。これもジャン・フェルストロムの手によるものだが、今までのイラストはどれもサインの横に、1980年を意味する「80」という数字が見える。短期間に多くのイラストを描き、デザインを煮詰めていったのだろうと想像できる。

1100 sketch
1100 sketch(画像提供:Target Design)

ある意味GSX1100Sカタナ好きにとって一番有名とも言えるイラスト。なぜならGSX750Sのカタログに掲載され、スズキの公式Tシャツのデザインに使われたこともあるからだ。
こちらにも興味深い書き込みがある。エンジンの前には「オイルクーラー」の文字があり、マフラーは「4in1エキゾースト」と記載。このときは集合マフラーを意識していたようだ。そして右下に書かれたサインはジャン・フェルストロムのものだ。

GSX750Sカタログ
GSX750Sカタログ(16ページ構成)の中央見開き。

GSX750Sのカタログはかなり凝っていて、通常の写真を使ったページの中央にこのイラストやコーナーリング中の写真が印刷されたトレーシングペーパーが織り込まれていた。

GSX750Sカタログのアップ
トレーシングペーパーに書かれた内容を見やすくスキャニングしたもの。

そして、ここに書かれている文章が日本でGSX1100Sカタナをデザインした人物の名を広める重要なポイントとなる。

(横田和彦/画像提供:Target Design)