クルマの事故時、頼りになるのは「クルマ版ブラックボックス」と「弁護士特約」

■「自動車自己解析におけるCDR/EDRの技術と活用について」の勉強会

・任意保険加入時には「弁護士特約」が必要不可欠って!?

「BOSCH(ボッシュ)」といえば世界最大の自動車部品のサプライヤー。さらに世界最大の有限会社です。

そのボッシュにて先日、日本自動車ジャーナリスト協会会員向けのオートモーティブアフターマーケットの勉強会が行われました。

テーマは、「自動車自己解析におけるCDR/EDRの技術と活用について」。

現在、事故を起こした場合や巻き込まれた場合、事故の責任を客観的に判断するために、活用が進んでいるというデジタル事故解析ツール、CDR/EDRに関してはお話。

ちなみに「CDR」とは「クラッシュ・データ・リトリーバル」の略で、事故の情報を読み出す機械システムのことで、「EDR」は「イベント・データ・レコーダー」の略で、自動車に搭載されている記録装置のこと。

日本では事故の解析はドライバーの証言などを中心に行っています。昨今では東名高速道路でのあおり運転事故以来、「ドライブレコーダー」が急激に普及していますが、実は現在、販売されているほとんどのクルマの本体に「イベント・データ・レコーダー(EDR)」が搭載され、運転の記録が残されています。しかしこのことはほとんど知られておらず、知っていても自分でそのデータを取り出すことはできません。

たとえば飛行機事故が起きた場合、飛行機の高度や速度、エンジンの回転数など飛行機の運行中の情報が記録されている「フライト・データ・レコーダー(FDR)」(別名アクシデント・データ・レコーダー[ADR])と、コクピット内での音声を記録する「コクピット・ボイス・レコーダー(CVR)」の、いわゆる「ブラックボックス」と呼ばれるもので事故の解析を行います。そのクルマ版のようなものが、「イベント・データ・レコーダー(EDR)」です。しかし飛行機の「ブラックボックス」との違いは、自動車の場合は映像や音声データ、時間や場所の情報も出さないなど、プライバシーにかかわるものは記録されません。

具体的には、事故の5秒前から2秒後までの速度やハンドルを切った量、ブレーキやアクセルを踏んだ量などの車両のデータをクルマに搭載された記録装置「イベント・データ・レコーダー(EDR)」に記録します。ボッシュはその車載データを「クラッシュ・データ・リトリーバル(CDR)」というシステムを使ってデータを読み出し、事故の解析を行います。

また、事故発生時までの状況を記録したものは「プリクラッシュ・データ」、事故発生時からエアバックの展開~終了までの状態を記録するものを「ポストクラッシュ・データ」というそうですが、「クラッシュ・データ・リトリーバル(CDR)」/「イベント・データ・レコーダー(EDR)」を使って事故の解析を行うと

1. ドライバーによる急ブレーキの有無
2. 運転注意警告の有無
3. ハンドル保持状態
4. ハンドル接触状況
5. GPSでの正確な位置情報
6. 車線の推定曲線情報
7. ターゲット選択相対オフセット
8. アダプティブクルーズコントロールの解除理由
9. 車線逸脱防止装置でのドライバーのはみだし
10. 車線逸脱防止装置の作動状況

などがわかるため、クルマ自体のシステムエラーなのか、あるいはドライバーの操作ミスなのかがわかります。

実は現在、「イベント・データ・レコーダー(EDR)」はトヨタをはじめ、ほとんどのクルマに搭載されています。アメリカではすでに2012年から法制化されていて、事故の際には「クラッシュ・データ・リトリーバル(CDR)」で抽出したデータを警察やユーザーが使って事故の解析を行い、保険請求や刑事事件などの証拠として使用しています。中国でも2021年に義務化になる予定ですが、日本ではまだ検討中とのこと。また2020年以降、自動運転のレベル3車両の導入に伴い、事故の責任の所在を明らかにすることはますます重要になるでしょう。「イベント・データ・レコーダー(EDR)」に加えて、運転車側の情報は自動運転用データ記録装置「データ・ストレージ・フォー・オートメ―テッド・ドライブ(DSSAD)」を活用するということがすでに米国の「EDR法規」をベースに国際基準になる方向に進んでいるようです。

昨今、「ドライブレコーダー」を搭載する人が増えましたが、「ドライブレコーダー」では、写っている映像から事故周辺の情報や信号、衝突場所の特定、衝突順序の特定などを推測することができます。しかし、踏み間違いや先進安全装備の作動状況は「ドライブレコーダー」ではわかりません。「イベント・データ・レコーダー(EDR)」のデータが必要なので、これらを併せて活用するのがよいでしょう。

しかし、もし事故が起きたときでも現在「イベント・データ・レコーダー(EDR)」で事故時の状況のデータを読み出すには、弁護士さんからの調査請求を行わないと抽出できないのだとか。価格は5~20万円程度とのこと。しかしそれは自動車保険の弁護士特約に入っていれば請求賄えるそう。

実は私は今の時期、自動車の任意保険の更新時期のため、保険のことについて少し見直す時期なのですが、去年、弁護士特約を初めて使いました。これまで使ったことが無かったので、弁護士特約のありがたみがわかりませんでしたが、入っててよかった!と実感。今回の更新時でも弁護士特約は必須。そして今後ますます「イベント・データ・レコーダー(EDR)」「クラッシュ・データ・リトリーバル(CDR)」「ドライブレコーダー」そして「弁護士特約」が必要不可欠になりそうです。

(吉田 由美)