ダイハツの新型CVTはベルト駆動とギヤ駆動のハイブリッドがポイント【週刊クルマのミライ】

■プラネタリーギヤによって二系統のトルクをまとめてタイヤに送るという世界初のアイデア

ダイハツ工業がクルマづくりの基本となるDNGA(ダイハツ・ニュー・グローバル・アーキテクチャ)による新技術を発表しています。軽自動車や海外向け小型車におけるテクノロジーではトップランナーといえる同社の次世代アーキテクチャというわけです。

その内容は多岐にわたります。プラットフォームを一新するのはもちろん、エンジン、トランスミッション、先進安全装備……と何もかもが新しくなったといっても過言ではありません。

いずれのテクノロジーも見どころの多いものですが、ここで注目したいのは新型CVTです。そのセールスポイントとして『伝達効率向上と変速比幅拡大による燃費向上』が一番に書かれています。そのための技術的なポイントが世界初の「スプリットギヤ」なのです。

いきなりスプリットギヤと言われても戸惑ってしまいますが、日本語にすると「動力分割伝達機構」といったところでしょうか。

この新型CVTの構造を見ていくと、いわゆるCVTとは違うことに気付かされます。通常のCVTは対になったプーリーをベルトでつなぎ、プーリーの径を変えることで変速しています。プライマリー側と呼ばれるエンジンからの入力をあるほうを小さくすればローギヤード、反対にセカンダリー側を小さくすればハイギヤードになります。そうした基本制御はダイハツの新型CVTでも同じです。

しかし、この新型CVTはベルトによる駆動伝達のほかに、ギヤセットによる伝達経路を持っています。

CVTの欠点は伝達効率にありますが、ハイギヤード領域においてギヤ駆動を用いることで全体としての効率を上げ、また変速比幅を広げようというわけです。つまりベルト駆動とギヤ駆動と2つの伝達経路があります。通常のトランスミッションではトルクフロー(力の伝達経路)が1つですが、この新型CVTでは2系統のトルクフローがあるわけです。複数のトルクフローがあるパワートレインといえば、ハイブリッドを思い浮かべます。この仕組みではパワーの源はエンジンだけですのでハイブリッドパワートレインとはいえませんが、少なくともCVT内のトルクフローを見る限りはハイブリッドシステムに近い印象を受けます。

2つのトルクフローは、どこかでまとめてタイヤに送る必要があります。そのために必要なのが世界初という「スプリットギヤ」というわけです。その構造は遊星ギヤ(プラネタリーギヤ)で、ベルト駆動だけのときには一体回転することで、変速されたトルクをそのままファイナルギヤに伝えます。一方、ベルト駆動とギヤ駆動という2つのトルクフローを利用する際にはプラネタリーギヤによってミックスして伝達します。タイヤ側の視点に立つと、プラネタリーギヤによってベルトとギヤに駆動を分割しているように見えます。すなわち「スプリットギヤ」というわけです。

「スプリットギヤ」の部分では単純に伝達トルクをミックスしているわけではありません。プラネタリーギヤですからベルト駆動とギヤ駆動の比率を変えることができます。ダイハツの発表によれば、ハイギヤード領域におけるギヤ駆動の比率は40~90%で、これにより60km/h定地走行で約12%、100km/h定地走行では約19%もの燃費改善を果たしているといいます。これには伝達効率だけでなく、高速域をカバーするギヤ駆動を追加することで変速比幅が大きくなりエンジン回転数を低くできることも効いています。

新型CVTの変速比幅は設計値で7.3。従来、同社が使っていたCVTが5.3ですから大きな進化といえます。なお、この新型CVTは間もなく登場する次期タントに搭載されることが明らかとなっていますが、タントでは要求性能に合わせて変速比幅6.7の設定で利用するということです。

(山本晋也)

この記事の著者

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山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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