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●隅々に至る過剰品質は紛れもなくBMWのスポーツカー
道が空いてきたのを見計らってアクセルを深めに踏み込んでみましょう。エンジンの表情は2000rpm前後からトップエンドまで、BMWらしいテノール、男性的な低めのノイズを伴いながら、6気筒ならではの密度感を保って高回転に至ります。スペックシート上では1600から4500rpmまでフラットな500Nmを保ち、5000から6500rpmにかけて340psの最大出力を発揮し続けることになっており、あまり個性的なようには思えません。
ところが実際に5000rpmを迎えてみれば、エンジン速度の上昇に従ってパワーの充実感は高まり続け、高回転域におけるスロットル・レスポンスの鋭さや、金属的なメカニカル・ノイズが、痛快なスポーティさを醸し出すのです。難点をいえば、パワーがありすぎるゆえに一般路上では、高回転域の表情を十全に味わう機会がなかなか訪れないことでしょう。
8段スポーツ・ステップトロニックATの歯切れの良い変速に誘われて、高速ワインディングロードでペースを上げて行きます。重厚でガッチリした乗り心地とは裏腹に、操舵に対するレスポンスはかなりクイックで、ホイールベース短縮の効果を体感させます。ステアリングを切り込み、サスペンションが縮んで、伸びてという動作のひとつひとつがしっかりと身体に伝わってくるのは、動きを伝えるすべてのコンポーネンツをしっかり作り込んだためでしょう。とてもスポーツカーらしく感じます。
今回試せた範囲では、ハイスピードでもスタビリティは十分に確保されているようでしたが、全長に対し短めのホイールベース設定により、前後方向の挙動変化は良くも悪くも顕著です。スポーツカーの運転に慣れた人にとって、こうした傾向は理解して制御できるものですが、最近の安定し切ったBMWのスポーツセダンに乗り慣れた人がZ4で高速ワインディングロードを飛ばすと、加減速に対して過敏で、ちょっと扱いにくいと思うかもしれません。
このような操縦性をZ4が与えられたということは、BMW、あるいは共同開発するトヨタが「敏捷であってこそスポーツカー」というポリシーを明確に打ち出した結果だと思われます。絶対的な安定性は広いトレッド、太いタイヤと電子制御で確保しつつ、セダンや2+2シーターとの差別化をはっきりさせたいのでしょう。実用高級車が十分すぎるほど速い現在、そうでもないと2シーターのスポーツカーに生き残る術はないと考えたのではないでしょうか。
筆者はBMW特有の乗り味も、トヨタならではの個性も理解しているつもりですが、今回新型Z4を走らせてみて、これは紛う方なきBMWそのものだと確信し、「トヨタっぽさ」のようなものは一切感じ取ることができませんでした。BMWらしい、どこをとっても少しずつ過剰な製造品質は、他のモデルと何も変わらないということです。
(花嶋言成)