ライオンの牙と爪はプジョーの救世主なのか? 新型508のデザインにおける「新しい個性」を探る

●シャープなデザインで質感が高くても「プジョーらしさ」がない!?

プジョーの新しいフラッグシップセダン・508のスタイリングが評判です。

4桁シリーズ、すなわち2008、3008、5008など一連のSUVの世界的な評判を受け、セダンでも高い評価を得るべく出した答えが4ドア・ファストバックスタイルです。

もちろん、流行の4ドアクーペの流れにあるわけですが、そこにプジョー新しいデザイン表現を加味されています。

4750mmの全長に、わずか1420mmの全高のボディは、確かにスリムでスマートです。しかもハッチバックとしたリアは、アウディのA5やA7のスポーツバックを思わせる流麗さで、そのプロポーション・佇まいは実に「いい感じ」と言えます。

さらにPSAグループの中では、個性派のシトロエン、アバンギャルドなDS、そしてシャープなプジョー……と性格付けは完璧です。

ですが、昨今のプジョーそして新しい508は「プジョーらしい」といえるのでしょうか?

プジョーが日本市場で本格的に注目されたのは、恐らく205や405など80年代のピニンファリーナ時代あたりかと思われますが、極めて端正なボディの中にスポーティさを潜めるという黄金バランス的なデザインが魅力でした。

その次は大ヒットとなった206が印象的です。曲面指向に舵を切りながら、その独自性とまとまり感が素晴らしかった。若干印象は異なりますが306や406も同様の完成度を見せていました。

これらプジョーのヒット作には、直線基調であれ曲面重視であれ、ボディ全体にムダなラインや面、そして必要以上の装飾がありませんでした。とにかく見せ方がシンプルでテーマが明快でした。

ひるがえって新しい508ですが、LEDの「牙」にメッキパーツで派手なフロントや、例のJ型ラインが走っているボディサイド、3本爪のリアなど、それぞれは非常に質感が高い。ところが、全体としては「有無を言わせぬ個性やまとまり」が筆者には感じられないのです。

もちろん、クオリティの高さで「魅せる」という手法は否定しません。実際、最近のMINIやアルファロメオにもその傾向はありますから。

ただ、繰り返しますけど、そこに「もう、コレしかない」という鉄壁の個性やまとまりがないのです。405や206のような説得力が。

これはまもなく登場する新型208も同じで、牙と爪の前後表現は独特ですが、公式写真を見る限り、全体を眺めるとやっぱり何かが足りなく感じられます。

いまや、どのメーカーも自社のブランディングの「創出」や「仕立て直し」を模索し、デザイン・ディレクターは自らの個性を打ち出しています。

しかし、どんなに長い経歴を持った人材でも、後年に残る「名答」を見つけるのは想像以上に難しいのかもしれません。

(すぎもと たかよし)

この記事の著者

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すぎもと たかよし

東京都下の某大学に勤務する「サラリーマン自動車ライター」。大学では美術科で日本画を専攻、車も最初から興味を持ったのは中身よりもとにかくデザイン。自動車メディアではデザインの記事が少ない、じゃあ自分で書いてしまおうと、いつの間にかライターに。
現役サラリーマンとして、ユーザー目線のニュートラルな視点が身上。「デザインは好き嫌いの前に質の問題がある」がモットー。空いた時間は社会人バンドでドラムを叩き、そして美味しい珈琲を探して旅に。愛車は真っ赤ないすゞFFジェミニ・イルムシャー。
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