【自動車用語辞典:過給システム「ターボの複数化」】ツイン化、トリプル化によりさらなる高出力を目指す

■欧州の高級車を中心に普及が進む

●ガソリンエンジンでは効率面で限界も

レスポンスの改良とさらなる高出力化を狙って、複数のターボを配置するツインターボやトリプルターボシステムが、欧州の高級車で出現しています。

ツインターボとトリプルターボの狙いと効果について、解説していきます。

●ターボの仕組み

ターボは、タービンとコンプレッサーの一対の羽根車で構成されています。エンジンの排出ガスの運動エネルギーを使って、タービンを高速回転させます。タービンと一対で同軸上のコンプレッサーが高速回転することによって、吸気が圧縮(過給)されます。

過給によって吸入空気量を増大させるので、排気量を増やすことと同じ効果が得られます。ガソリンエンジンでは、燃費を良くするために排気量を小さくして、出力をターボでカバーするダウンサイジングターボエンジンが最近のトレンドになっています。

ディーゼルエンジンでは、高出力化に加えて、排出ガスを低減させる効果があるため、古くからターボを組み合わせて使うことが一般的です。

●ツインターボシステムの構成

ターボの配置や構成は、気筒数や気筒配置など、またメーカーによっても異なります。ターボの数によって、シングルターボ、ツインターボ、トリプルターボ、クワッドターボと呼ばれます。

ツインターボは、レイアウトと構成によって3種に分けられます。

・パラレルツインターボ

6気筒以上の多気筒エンジンに使われ、気筒を2グループに分けて、同じサイズのターボ2基で過給(例えば、V6エンジンの左右バンクに1基ずつ搭載)

・シーケンシャルツインターボ

大小2基のターボを組み合わせて、2基のターボを連続的に切り替えることによって、低回転から高回転まで安定した過給圧を実現

・2ステージツインターボ

1基目のターボを通過した排出ガスを、もう1基のターボに通す2段過給

●トリプルターボの採用例

ツインターボを搭載した例は多数ありますが、最近はさらなる高出力を目指してトリプルターボ、クアッドターボが出現し始めました。

ターボを3、4基と増やす一般的な方法は、パラレルツインターボと同様に1基のターボが担当する気筒をグループ分けする方式です。BMWの直6エンジンを2気筒ずつに分けたトリプルターボや、ボルボの「ハイパフォーマンス Drive-E」のように、もともとのツインターボに電動ターボ(モーターでターボのコンプレッサーを回すシステム)を追加したトリプルターボシステムなどがあります。

●ターボの数を増やすのは将来トレンドか

ターボの効率は、排気エネルギーをどれだけ回収できるかにかかっています。

回収できる排気エネルギーは、ターボの数が増えるにしたがい徐々に減ります。パッケージングの難しさやコスト高の割には、ターボ数を増やすことのメリットは小さくなります。特にガソリンエンジンの場合は、吸入空気量が増えるとノッキングしやすくなるので、高過給のメリットは減少していきます。


ディーゼル車が人気の欧州市場では、ディーゼルエンジンと相性の良い複数ターボ方式は、すでに普及し始めています。
しかしガソリン車中心の日本市場では、複数ターボのメリットを生かすのは難しく、今後も拡大しないのではないでしょうか。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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