●「ポスト2020燃費基準」に対するマツダの燃費戦略とは?
2019年4月24日付けの日本経済新聞朝刊で、「車燃費3割改善義務」「30年度目標 EV普及2〜3割」「走行電力も抑制」といった見出しが掲載され、2030年度までの燃費規制を課し、20年度目標から約3割の改善を義務付ける方針、と報道しています。
筆者は2019年3月5日、6日にマツダ主催の「技術コミュニケーションミーティング」に参加し、「ライフサイクルアセスメント(LCA)」に関する学会発表を聴いたり、同社のLCAのプレゼンテーションを受けたりする機会がありました。
プレゼン最大の注目点は、燃費を算出する際の考え方を、従来の「Tank to Wheel(タンクから車輪まで)」から「Well to Wheel(油田から車輪まで)」に転換するだけでなく、車両製造から車両製造までカバーする「LCA(Life Cycle Assessment)」に取り組むという点。さらに、それでは終わらず、事業活動とサプライチェーンまでをカバーする「SBT(Science Based Target)」という取り組みをしていく、というのが要点です。
マツダでは「Well to Wheel」での企業平均CO2を2010年度比で、2030年で50%減、2050年度には90%減を目指すとしています。
同社の具体的な戦略については、別の記事でご紹介しますが、同社が「Well to Wheel」の考えで燃費削減を取り組むというのには、裏付けがあります。同日朝刊の日経新聞でも「きょうのことば」で、新規制は「Well to Wheel」に転換と短く掲載しています。
私が参加した「技術コミュニケーションミーティング」のプレゼンでは、経済産業省の「自動車新時代戦略会議(中間整理)」について触れ、「ポスト2020燃費基準」は、「Well to Wheel」ベースで設定する方向で検討中と披露しました。これは、2018年7月24日に発表されたもので、「Well-to-Wheel Zero Emission」チャレンジと表記されています。
これは、マツダの考えのみが当然ながら反映されたわけでありません。2019年4月8日に開催された「自動車新時代戦略会議」の委員名簿には、日産自動車の西川社長、トヨタ自動車の豊田社長、ホンダの八郷社長、マツダの丸本社長などのほか、大学教授や国連の理事、部品メーカーや自販連会長などの名前もあります。経済産業省の方針からも分かるように、マツダの戦略である「Well to Wheel」は、妥当といえるものになりそうです。
従来の「Tank to Wheel」の考え方では、「ローカル」で「ゼロ・エミッション」になるEV、カタログ燃費が有利となるPHEVの優位性が問題になっています。また、ローカルでゼロ・エミッションになっても発電を含めたCO2排出量は減っていない、という指摘もあります。ただし、マツダも認めているように、ローカルで「ゼロ・エミッション」であっても都市部の大気汚染問題など、排出ガスの削減は一定の効果があります。
「ポスト2020燃費基準」では、EVやPHEVなども石炭など化石燃料由来で発電された電気を使う場合、燃費に上乗せされるため、電費、燃費向上(CO2)削減が必要になり、場合によっては高効率なガソリンエンジン車やディーゼルエンジン車(ハイブリッド含む)と変わらないレベルか、不利になる可能性もあります。
結局、パリ協定による地球温暖化対策の前進には、「Well to Wheel」、さらにマツダが進める「ライフサイクルアセスメント(LCA)」なども含めた対策が運輸、自動車業界に求められることになりそうです。まずは、「Well to Wheel」の導入により、各社の燃費戦略がどのようになるのか注目です。
(文/塚田勝弘 スライド/マツダ)