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■エンジンを駆動力ではなく充電のために使う
●ノートに搭載されて一躍人気モデルに
2016年に、日産がハイブリッドシステム「e-POWER」を搭載したノートを発売しました。プリウスのTHSに代表されるシリーズ・パラレルおよびパラレル方式が主流の中で、希少なシリーズ方式のHEVとして、市場で高い評価を受け、販売を伸ばしています。
EV走行にこだわった「e-POWER」システムの構成や特徴について、解説していきます。
●「e-POWER」とは
「e-POWER」は、シリーズHEVの代表格です。
1.2Lエンジンとモーター、発電機、インバーター、電池などで構成されます。エンジンは、直接の駆動力源として使わず、発電機を回し、電池を充電するだけの役目です。
エンジンは、運転条件や電池残量に応じて起動させ、発電機を駆動して電池を充電し、その電気エネルギーによってモーター走行します。大出力が必要な急加速や登坂の場合には、発電機からの発電エネルギーを直接モーターの駆動力として付加します。
外部充電機能の代わりにエンジンで発電するので、燃料さえあれば電池切れになることはなく、EVのような後続距離に対する不安はありません。外部充電の手間を省いたある種のEVと言えるかもしれません。
●システムの構成と特徴
発電用のエンジンは増速機を介して発電機に連結し、モーターとタイヤは減速機を介して連結され、モーターの駆動力をタイヤに伝達します。
エンジンは、車速とは無関係に極力エンジンの効率が高い2200~2500rpmの領域を使います。ただし、急加速のような大電力が必要な場合は、エンジン回転は4000rpmぐらいまで上昇させます。
すべての運転はモーター走行なので、瞬時に最大トルクを発生し、変速に頼らないリニアな力強い発進と加速が実現されます。
また、燃費向上のため、積極的に回生ブレーキを使う「ワンペダル操作」を採用しています。
ブレーキ回生による減速力を通常の倍以上に増やすことによって、アクセルペダルの踏み込み、戻し操作だけで、穏やかな加速や減速走行なら容易に操作できます。操作に慣れれば、燃費向上だけでなく、市街地走行や渋滞走行での運転の負担が軽減できます。
●ライバルHEVとの比較
小型車ノートHEVのライバル車として、トヨタ・ヴィッツHEVとスズキ・スイフトHEVの仕様を比較しました。
・日産・ノートHEV:シリーズHEV、JC08燃費 37.2km/L
搭載エンジン 1.2L 直3、モーター 80kW、リチウムイオン電池 1.5kWh、電池電圧 292V
・トヨタ・ヴィッツHEV:シリーズ・パラレルHEV、JC08燃費 34.4km/L
搭載エンジン 1.5L 直4、モーター 45kW、ニッケル水素電池 0.94kWh、電池電圧 144V
・スズキ・スイフトマイルドHEV:パラレル(マイルド)HEV、JC08燃費 27.4km/L
搭載エンジン 1.2L 直4、モーター 2.3kW、リチウムイオン電池 0.036kWh、電池電圧 12V~
HEV化による燃費向上率(対ガソリン車)と車両価格差(対ガソリン車)は、大まかには以下のようになります。
ノートHEVの燃費向上率は58%で価格差38万円、ヴィッツHEVの燃費向上率は38%で価格差34万円、スイフトHEVの燃費向上率は14%で価格差16万です。
結果は、単純にHEV化だけの差(他の仕様も異なる)ではありませんが、ノートは大きなモーターと電池を搭載して、よりEVに近づけたHEVと言えます。
日産は電動化戦略として、EVを強力に推進しています。「e-POWER」は、エンジン車からEVに移行する中間的な位置づけのHEVとして、さらなる展開が予想されます。
ただし現状では、運転条件によっては走行中にエンジンが頻繁に起動してしまうことや、高速燃費はエンジンで走行する他のHEVに比べて劣るという本質的な課題があります。
(Mr.ソラン)