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■日常のすべての運転条件を対象とする排出ガス試験
●いっこうに改善しない欧州の大気環境の改善策
欧州では2017年9月から、新しい排出ガス・燃費の試験法としてWLTC(日本では、2018年10月導入)とともに、実際の路上走行の排出ガス低減を目的としたRDE(Real Driving Emission)規制が導入されています。
今後、日本でも導入が計画されている路上走行の排出ガス規制RDEについて、解説していきます。
●VWディーゼル車の排出ガス不正
2015年9月、米環境保護局(EPA)がVWグループに対し、大気汚染防止法の違反通知を発行しました。ディーゼル車で組み込まれていた不正ソフトは「Defeat Device(無効装置)」と呼ばれる違法行為です。これは、走行パターンを分析してモード試験を受けていることを検出すると、その場合のみ排気ガス中の有害物質の排出量を低減するような仕組みです。
この種の不正ソフトは、過去にも多くの事例がありましたが、これだけ多くの車種、数に適用した例はなく、大きな社会問題となってディーゼル車の普及に水を差すことになりました。
VWディーゼル車の不正は、エンジン回転やステアリングの挙動から、モード運転中か、一般の路上走行中かを判断して、路上走行の場合はEGRを減らす(NOxを大量放出)等の操作によって、ドラビリや走行性能を確保するという内容でした。
●NEDC(New European Driving Cycle)モード試験からWLTCへ
欧州は2017年9月(日本では2018年10月)から、従来のNEDCモード試験に代わって、世界基準の燃費・排出ガス試験法WLTC(Worldwide-harmonized Light vehicle Test Cycle)が施行されています。クルマの燃費・排ガスを適正に評価する、国際的に統一された試験法です。
WLTCモード試験は、従来のNEDCに比べて、最高車速が高く、加減速が多い、走行時間や距離が長くなります。走行パターンは、「低速(市街地走行)」「中速(郊外走行)」「高速(高速道路走行)」「超高速」の4つのフェーズに分けられ、全体の平均燃費値とともに、フェーズごとの燃費値も表示することが義務付けられています。
●なぜRDE規制が必要なのか
欧州では、排出ガス規制が段階的に強化されているにもかかわらず、主要都市部の大気環境悪化に歯止めがかからないことが、問題視されていました。この原因のひとつとして、NEDCモードの排出ガス値と実際の路上走行の排出ガス値に大きな乖離があることが指摘されました。
この排出ガス値の乖離を解消するために、新しい試験法RDEの検討が始まり、2015年のVWの排出ガス不正の発覚によって、施行への動きが一気に加速しました。欧州では2017年9月から、WLTCとともにRDE試験を追加し、現在日本でも導入を検討中です。
●RDE規制とは?
RDE試験では、NEDCモードの走行条件以外の日常的に使用するすべての運転条件が排出ガス試験の対象です。車速だけでなく、加減速や標高や外気温なども、幅広く規定されています。その条件に合致した一般走行路を実際に走行し、排出ガスを車載排出ガス分析計PEMS(Portable Emissions Measurement System)で計測します。
NOxの規制値は、第一段階(2017年9月〜)では、ディーゼル車とガソリン車ともにNEDC(Euro6)規制値の2.1倍以下に設定されています。さらに2020年には、1.5倍以下に強化されます。排出ガスの計測対象となる運転条件は、NEDCモード試験<WLTC<RDE試験と大きくなります。
高速運転が多いWLTC試験やRDE試験の導入は、NOx排出量が多いディーゼル車にとっては、大きな障壁になっています。コストをかけずに、効果的にNOxを低減できる技術が開発できるかどうかが、ディーゼル車の生き残りを決定すると言っても過言ではありません。ディーゼル車のシェアが50%もある欧州にとっては、排ガス規制が難しいから止めるとは言えない事情があります。
(Mr.ソラン)