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■クリーンディーゼルの鍵は「コモンレール」「過給技術」「後処理技術」
●飛躍的に進化したディーゼルの排出ガス低減技術
2000年以降、世界中でディーゼル車の排出ガス規制が強化され、ディーゼルエンジンの排出ガス低減技術は飛躍的に進化しました。日本では、最新のポスト新長期規制に適合したエンジンを、従来のディーゼルと区別して「クリーンディーゼル」と呼んでいます。排出ガス規制の推移と、クリーンディーゼルの技術について、解説していきます。
●ディーゼル排出ガス規制の推移
2000年以前のディーゼル車は、排出ガスが汚く、騒音が大きい、環境にとっては悪者でした。特に2000年頃の東京都による「ディーゼル車NO作戦(ディーゼル乗用車に乗らない、売らない、買わない)」が、イメージの悪化に拍車をかけました。
ディーゼル車のシェアが高い欧州は、2000年以降世界に先行してEuro3からEuro4、Euro5、現行のEuro6へと、NOxとPM(煤などの粒子状物質)の規制値を段階的に強化してきました。
日本でも同様に、新短期から新長期、現行のポスト新長期規制へと強化してきました。従来のディーゼルと区別するために、2009年から施行されている現行のポスト新長期規制に適合したエンジンを「クリーンディーゼル」と呼んでいます。クリーンディーゼル車は、「次世代自動車」のひとつと位置付けられ、自動車取得税と重量税が全額免除されるという優遇措置を受けています。
●クリーンディーゼルのための排出ガス低減技術
ディーゼルエンジンでは、酸素不足に起因する煤などのPMと、燃焼温度が高いことによって発生するNOxの低減が最大の課題です。PMとNOxがトレードオフの関係であることが、より低減を困難にしています。厳しい排出ガス規制に適合してクリーンディーゼルと呼ばれるためには、コモンレール噴射システムと過給技術、後処理技術の3つの技術開発が必要です。
●コモンレール噴射システム
1990年代後半に実用化されたコモンレール噴射システムによって、燃料噴射の噴射量や圧力、噴射時期、噴射回数を自在に制御できるようになりました。
ディーゼルエンジンは、噴射した燃料が自着火して燃焼するため、燃料噴射のパターンで燃焼を制御できます。特に、1回の燃焼行程中に噴射を複数回に分ける多段噴射によって、排出ガスと燃焼音を同時に低減できます。
●過給技術
NOxを低減するために、通常は排出ガスの一部を吸気に戻すEGR(Exhaust Gas Recirculation:排出ガス再循環)を採用しますが、このとき吸気量不足(酸素不足)となり、煤が発生します。煤の発生を抑えるためには、過給によって新気量を増やす必要があります。そのため、応答性の良いVGT(可変容量ターボ)や2ステージターボを採用しているケースが多いです。
●後処理による排出ガス低減
ディーゼルエンジンの燃焼は、ガソリンと異なり、希薄(リーン)燃焼です。理論空燃比で燃焼させると、噴射された軽油の液滴周辺が過濃(リッチ)になり、大量の煤が発生します。したがって、ガソリンエンジンのように三元触媒が使えず、希薄燃焼下でNOxを下げるリーンNOx触媒が必要です。
PMについては、DPF(ディーゼルパーテュレート・フィルター)で浄化します。DPFは、煤を主にしたPMを、多孔質のフィルターで捕集して、エンジンで定期的に高温制御して、捕集した煤を燃焼除去します。現在は、ほとんどのディーゼル車に装着されています。
NOx触媒としては、日産・エクストレイルや三菱・パジェロが採用しているNOx吸蔵触媒と、トヨタ・ランクルが採用している尿素SCR(選択還元触媒)システムがあります。SCR触媒の方が、NOx浄化率は高いのですが、コストが高くなります。また、マツダの「SKYACTIV-D」はNOx触媒を使わず、低圧縮比や燃焼制御技術でポスト新長期規制に適合したすばらしい技術です。
2015年に発生したVWディーゼル車の排出ガス不正やRDE(実走行排出ガス)規制の施行など、ディーゼル車にとっては、逆風状態が続いています。
世界的にみても、多くのメーカーは電動車の開発に注力しており、ディーゼルのシェアはこれ以上伸びる気配はありません。
(Mr.ソラン)