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■開発者も悩むディーゼルエンジンの排出ガス低減策
●多くの制御パラメータのバランスが重要
ディーゼルエンジンにとっては、排出ガスの低減、特にNOxとPMの同時低減が最大の課題です。解決のためには、噴射系技術、過給技術、後処理技術など多くの制御パラメータをバランス良く最適化することが重要で、その技術的難易度は高いです。
今も開発者を悩ませているディーゼルエンジンの排出ガス低減手法について、解説していきます。
●排出ガス計測法
排出ガスと燃費は、「WLTC(Worldwide-harmonized Light vehicle Test Cycle)モード」試験で同時に計測されます。モード試験では、試験車をC/D(シャシーダイナモ)メーターのローラー上で、世界基準の走行を模擬した走行パターンで走行させ、排出ガス(CO、HC、NOx)と燃費を計測します。
計測法と成分ごとの規制値は、国ごとに法規で定められていますが、現在「試験法や規制値の世界標準化」の動きがあります。この世界標準化の動きに応えて、日本は2018年10月から従来のJC08モード試験に代わって、国際的に統一された試験法WLTCモードが導入されました。
●なぜディーゼルエンジンの排ガス低減は難しいのか
排出ガス規制の対象となる成分は、CO、HC、NOx、PM(Particulate Matter:粒子状物質)です。酸素不足に起因する煤を主にするPMと、燃焼温度が高いことによって発生するNOxの低減が最大の課題です。PMとNOxがトレードオフの関係であることが、より低減を困難にしています。
排出ガスの低減には、エンジンの「燃焼制御によって低減」する方法と、エンジンから排出された後に触媒などの「後処理技術で低減」する方法があります。
ここでは、燃焼制御として燃料噴射方法(噴射時期、噴射圧力、噴射パターン)、後処理技術としてDPF(ディーゼルパーテキュレート・フィルター)、NOx吸蔵触媒と尿素SCR(選択還元触媒)について説明します。
●燃焼制御による排出ガス低減
ディーゼルエンジンでは、電子制御のコモンレール噴射システムによって、噴射時期、噴射圧力、噴射パターンなどを運転条件に応じて最適化します。特に、1回の燃焼行程中に噴射を複数回に分ける多段噴射は、排出ガスと燃焼音を下げる有効な方法です。
●後処理による排出ガス低減
ディーゼルエンジンの燃焼は、ガソリンと異なり、希薄(リーン)燃焼です。理論空燃比で燃焼させると、噴射された軽油の液滴周辺が過濃(リッチ)になり、大量の煤が発生します。したがって、ガソリンエンジンのように三元触媒が使えず、希薄燃焼下でNOxを下げるリーンNOx触媒が必要となります。
NOx吸蔵触媒は、まず排出されたNOをNO2に酸化して触媒の吸蔵材に吸蔵させます。十分に吸蔵した時点で定期的にリッチ燃焼にしてHC、CO、H2を供給し、これらが還元剤となり、吸蔵したNO2を還元するという手法です。
尿素SCRシステムは、尿素を高温の排気ガス中に噴射し加水分解によってアンモニアを生成し、アンモニアによって、NOxをN2に還元する手法です。NOx吸蔵触媒よりも、浄化効率は高いのですが、システムが複雑でコストが高くなります。
PMについては、DPFで浄化します。DPFは、煤を主にしたPMを、多孔質のフィルタで捕集して、エンジンで定期的に高温制御して、捕集した煤を燃焼除去します。現在ほとんどのディーゼル車に装着されています。
リーンNOx触媒としては、浄化効率が高い尿素SCRが主流となりつつありますが、簡素で低コストなNOx吸蔵触媒は小型車で採用する傾向があります。
燃費が良く軽油も安いのに、なぜ日本ではディーゼル乗用車が普及しないのでしょうか。
エンジン本体と排ガス対策のためにコストがかかるため、ディーゼル車が高価であることがまず挙げられます。しかし決定的な理由は、日本は欧米に比べて生涯走行距離が短く、低燃費の恩恵を得にくいためではないでしょうか。
(Mr.ソラン)