【プレミアムカー定点観測試乗】「旧いボルボを思い出す安心感」スバル・レヴォーグ 1.6GT-S アイサイト

●「守られ感」が強いクルマ・レヴォーグ1.6GT-S アイサイト

【「アイサイト」のバージョンアップで熟成期待のモデル】

はじめまして、花嶋言成です。私が担当するページでは、国内外のプレミアムカーを題材として、自動運転支援の機能にもスポットを当てながらじっくり試乗・解説していきます。

多くの記事が試乗会などメーカーが整えた舞台で取材されているのとは異なり、私は取材中に1周70kmほどの決められたコースを走ることにしています。その中には高速巡航や市街地走行に加え、高速ワインディングロード、ダブル・レーンチェンジなどハンドリングや動力性能を試せる道が含まれていて、可能な限り公平な状況で評価することを目指しています。

第1回の取材対象には「アイサイト」の標準搭載で自動運転支援の充実したスバル・レヴォーグを選びました。2014年の発売から4年あまりを経て、幾度かのマイナーチェンジと「アイサイト」のバージョンアップが加えられた、熟成の期待できるモデルです。

前篇ではクルマ全体の印象を語りましょう。自販連の統計によると、レヴォーグの昨年4〜9月の新車販売累計は7,576台と、平均300万円を超える価格のクルマとしては優秀で、まだまだ勢いを残しています。

実際、通算10万台以上を販売したレヴォーグは路上でもわりとよく見かけるクルマの部類に入ると思いますが、それは台数だけでなく、印象的なデザインの効果もあるでしょう。前後のフェンダーは肉感的に盛り上がり、フロントのオーバーハングはかなり長めに取られています。300ps以上の高出力を誇る2.0Lモデルだけでなく、1.6Lモデルのボンネットにもエアスクープが穿たれて存在感を強調します。

1.6Lモデルの最高出力は170psに過ぎないのですが、代わりに2.0Lより燃費は18%ほど少なく、50万円ほど安い。それで売れ行きは1.6Lがおよそ7割を占めるそうですから、やっぱり時代はエコなのでしょう。私だったら我慢できず300psに行っちゃうと思いますけどね。

【人気の1.6 リッターモデルGT-S EyeSightを試乗】

そういうわけで、今回取材したのは時流を反映した1.6GT-S EyeSight(税抜き285万円、税込み307.8万円)というモデル。外観は2.0Lとアルミホイールの塗装がごくわずかに異なるのみと、ほとんど区別はつきません。試乗車はオプションの本革シートやサンルーフも装備した豪華仕様で、ステアリングとシートにはブルーのアクセントが加えられていて、スバルらしさを演出しています。

先代のレガシィからだと記憶しているのですが、スバル車の室内はトヨタ資本が入ったあとからかなり雰囲気が変わって、匂いまでトヨタ的になりました。素材自体の品質感は本革シートも含め特筆すべき点はないものの、組み立て精度が高い。走り始めても整然としていて、軋み音は少しも聞こえてきません。

同様に、素朴に好感度を高めるのはシート・ポジションと視界の良さです。レヴォーグは外から見ると重心の低そうなクルマに見えるのですが、実はすべての座席の着座位置が高めに設定されています。特に運転席からはメーターのフードがあまり邪魔にならずフロントウィンドーの見切りが良いのに加えて、Aピラーの形状の工夫とサイドミラーの形状により斜め横方向もとてもよく見えます。座面の広めな電動シートは座面の角度だけを独立して変更できるほか、チルト/テレスコピックのステアリング調整幅も大きく取られています。

視界がよいと、自分で運転状況をうまく制御できる気がして安全な気がするものですが、運転した印象はどうでしょうか。レヴォーグに初めて乗って「乗り心地のよいクルマ」という感想を持つ人はそう多くはないかもしれません。

ボディは十分にしっかりしているものの、ビルシュタイン製ダンパーを備えるサスペンションのストロークはわりと制限されていて、18インチのタイヤ(225/45R18 91W)はバネ下の重さとロードノイズを率直に伝えてきます。レザーシートの張りも強め。つまり微小な路面の起伏すら逐一乗員に伝えてくることが、気に障る人は気に障るかもしれません。2650mmと相対的にホイールベースが短めなことも影響しているように思えます。

【ビルシュタインが与えられ申し分ないフットワーク】

その一方で、上級モデルだけに与えられるビルシュタイン製ダンパーを備えたフットワークの安定ぶりは、申し分のないものでした。低速で自然なレスポンスを示すステアリングは、前輪駆動ベースの4WDらしく高速でも優れた直進性を示し、ちょっと意地悪なダブル・レーンチェンジを試みても一切破綻をきたさず、1570kg(意外に軽い)のボディはきっちり追従します。唯一、操舵角が大きめのタイトコーナーではステアリングがスローに感じることもありましたが、実用車としては容認すべきでしょう。

こうしたフットワークの良さを経験したあとでは、細かな起伏を拾いがちな乗り心地も、常に的確に路面状況を伝えてくれる、とポジティブに受け取れるのではないでしょうか。

最小回転半径は5.4mと、わりと小回りが利く方に思えますが、フロントオーバーハングが長いため、絶対的に取り回しが良いとは言い切れません。ただし、試乗車のようにフロント&サイドビューモニターを含むオプションの「アイサイトセイフティプラス」を装着すれば、ギリギリまで攻めた車庫入れが可能になります。

エンジンの印象を最後に記すのは、この水平対向ユニットがそれほど強いキャラクターの持ち主ではないからにほかなりません。125kW(170ps)/4800〜5600rpm、250Nm(25.5kgm)/1800〜4800rpmのスペックは、全長4690×全幅1780×全高1500mmというサイズのレヴォーグに必要にして十分というレベル。5000rpmを超えたところでほんの少し盛り上がりを見せる以外は徹底したフラット・トルクで、ひたすら実用に徹しています。

組み合わせられるリニアトロニックCVTは、高回転まで引っ張るとDレンジでも段階的な変速をしてドライバーの気分を盛り上げようとしてくれますが、エンジン回転数が落ちる巡航態勢から一気に深く踏み込むようなシーンでは、小排気量+ターボの特性もあってあまり鋭いレスポンスが得られないのが実情です。オンボード・コンピューターの記録によると、全体で288.7km走って燃費は9.4km/L。そのうち200km弱を高速道路が占めていました。このうち「いつものコース」における燃費は9.1km/Lでした。

自動運転支援システムに関するリポートは後篇に譲りますが、その結果も含めてレヴォーグの総評を記すと、非常に「守られ感」が強いクルマだと私は思いました。

シュアな操縦性と堅実なパワートレイン、しなやかとは表現しがたいけれど常に地に足のついた乗り心地と堅牢ボディ、そして車線をはみ出せば警告してくれてブレーキが遅れても注意してくれるアイサイトの組み合わせが、これさえ乗っていれば万全、とあらゆる点で思わせてくれる。

20年ほど昔のこと、筆者は長い間、ボルボ240を日常の足にしていたのですが、それとよく似た安心感がレヴォーグにはありました。まるで当時のボルボのごとく、現在のスバルがアメリカにおいて勢力を拡大していることは、そう考えれば納得の行く流れではないでしょうか。

(花嶋 言成)