ノート e-POWER 『NISMO』と『NISMO S』を乗り比べ。車体剛性感は同じでも、走りの違いは大きい?【日産ノート e-POWER NISMO S試乗】

●一段上を行くノート e-POWER NISMO Sの加速性能・走行性能

日産にとって久しぶりに良いニュースが出てきました。「ノート」があの絶対王者プリウスを破り、「2018年登録車販売台数No.1」を獲得しました。不祥事やゴーン氏の話題など、日産のダークサイドが目立ってしまっていた裏で、e-POWERを含む「ノート」は売れに売れまくっていたのです。

その「ノート」のグレードの中で最も尖がった存在が「e-POWER NISMO S」。今回、「e-POWER NISMO S」と「e-POWER NISMO」とを乗り比べて感じた印象は、例えるなら「標準のノートe-POWERがヒツジなら、NISMOがオオカミ、NISMO Sは犬神様」。それくらいの違いがありました。

「NISMO S」は最高出力100kW・トルクは320Nmと「NISMO」に比べて約25%向上させ、よりパワフルな走りを持った「ハイチューニング仕様」です。

「NISMO」は、Dレンジの「S」「ECO」モードにe-POWER Driveを設定していますが、対する「NISMO S」は「D」と「B」の2つのレンジそれぞれに「NORMAL」「S」「ECO」の3モードを設定。最も強烈な組み合わせは「BレンジのSモード」で、アクセルペダルのON/OFF時の加減速を最大の強さに設定。「e-POWER Drive」によるワンペダルでの加減速操作が、よりドライバーの「意のままに」なり、メリハリある走りができます。

まずはDレンジのNORMALモードを比べると、「NISMO」と「NISMO S」に加減速の違いはほぼ感じられません。どちらも「e-POWER」の滑らかな加速と減速ができ、少し硬めのサスペンションとも相まって、ノーマルのノートe-POWERに比べてボディの揺れが小さくダンピングの効いた乗り味です。

続いて、BレンジのSモードにすると「NISMO S」は豹変します。もともとe-POWERは力強く滑らかな加速をするとはいえ、どこかで頭打ちになる加速感でしたが、「NISMO S」はどこまでも伸びていきます。またアクセルペダルを少し踏んだところから音もなく「ドンッ」と前へ強く押し出される感覚は、一度味わってしまうと「NISMO」が物足りなくなるほど。

踏み始めの加速が抜群に良いため、コーナー手前で減速したスピードをコーナー立ち上がりですぐさま回復できるのは、ドライバーにとってまさに「意のままの加減速」。

さらに「NISMO S」で「意のままの加減速」と同じくらい素晴らしいのが、「コーナーでの安定感の高さ」です。

ロールが小さいということではなく、常にタイヤが路面をとらえ続けるため路面の外乱に強いです。一般道には大小のうねりや傾斜、アスファルトの継ぎ目などがあり、また、砂利・水分・落ち葉などが散乱していることもあるなど、クルマを走らせるための条件として理想的とはいえません。

「NISMO S」は厳しい条件のコーナーであっても常にタイヤが接地し、多少ボディが上下にはねあげられても接地感がすっぽ抜けることもなくクルマが粘るため、安心感が非常に高いのです。

サーキットを走ることだけを考えたら、旧来の「スポーツカー」らしく太くて扁平率の低いタイヤと引き締め上げたサスペンションをおごっておけば「スポーツカー好き」はごまかせるかもしれません。しかし、その価値は整備されたサーキットでない限り100%のありがたみは体感できません。それどころか、一般道での辟易させられる乗り心地に体力を奪われ、クルマに幻滅をしていくかもしれません。

ギャップへの強さの理由は、NISMO S・NISMO共に装着している16インチタイヤ(195/55R16 YOKOHAMA DNA S.DRIVE)の恩恵が大きいと思いますが、そのタイヤのアドバンテージを生かすため、両車ともタイヤからの入力をいなすサスペンションのセッティング、ボディの要所に補強された車体が大きな要因だと考えられます。

日産によると、主にアンダーフロアへフロントクロスバー、フロントメンバーステー、トンネルステー、リアメンバーステーなどの装着で、クイックなレスポンスと質感の高い乗り心地を実現したそう。「e-POWER NISMO」と「e-POWER NISMO S」での車体パーツの違いはありませんが、「NISMO S」のパワフルさも余裕でカバーする「芯のある車体剛性感」は、ぜひ一度体感していただきたい性能です。

ただし「NISMO S」専用オプションのNISMOシートの「乗降性の悪さ」は気になるところ。上半身のサポート性は抜群によいのですが、腿の横にあるサポートが高くそびえ立っており、クルマへの乗り降りが困難です。

シートバックの角度調節も通常のレバー式ではなくダイヤル式、ヒップポイントの上下昇降は無いなど、ドラポジを合わせにくいというネガティブ要素もあります。また、かなり「硬めの」シェルを使っているため「クッション性」も犠牲になっています。

「サーキットを走りたい、よりスポーティな雰囲気を楽しみたい」という方には良いシートですが、良くできた「標準」のNISMOシートの方が乗降性、快適性は高く、またサポート性も十分にあります。

「NISMO S」の購入を検討され、シートを選ぶ際には、ぜひ吟味をしていただきたいです。筆者の個人的な見解では「NISMO S」に標準のNISMOシートを選択するのがお勧めです。

NISMO Sの車両本体価格は267万1920円(税込)、NISMOは248万8320円(税込)。約18万4千円の価格差です。どちらがおすすめかはユーザー次第ですが、コンパクトなボディ、パンチの効いたパワートレイン、ギャップに強い足回り、サーキットには行かないまでも「走り」は大切にしたい、こうした楽しみ方を望む方には、「NISMO S」がおすすめです。

今が旬の「ジャパニーズ・コンパクト・スポーティカー」のあるカーライフはいかがでしょうか。

(文:吉川賢一/写真:鈴木祐子)

この記事の著者

Kenichi.Yoshikawa 近影

Kenichi.Yoshikawa

日産自動車にて11年間、操縦安定性-乗り心地の性能開発を担当。スカイラインやフーガ等のFR高級車の開発に従事。車の「本音と建前」を情報発信し、「自動車業界へ貢献していきたい」と考え、2016年に独立を決意。
現在は、車に関する「面白くて興味深い」記事作成や、「エンジニア視点での本音の車評価」の動画作成もこなしながら、モータージャーナリストへのキャリアを目指している。
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