次期型Zには快適性の改善が必須、Zが生き残る戦略とは?【フェアレディZ ヘリテージエディション試乗・後編】

前編では、元某メーカーのシャシーエンジニアの端くれだった筆者が気付いた、フェアレディZの『良い点』をご紹介しました。今回は後編として、フェアレディZ『気になるところ』、そして『次期型Zに期待したい点』についてレビューをしてまいります。

【気になるところ① 快適性の欠如「疲れやすい」】

アクセル、ブレーキ、ステアリング操作に注力して、意のままにワインディングを「ズバッ」と攻略したときは、例えようのない程に「幸福感」を感じたものですが、それもその瞬間だけ。エンジンをかけて移動を開始した瞬間から、体力を奪われるのを覚悟することになります。

凹凸の少ない道路でない限り、固めのシートから「バシバシ」と受ける衝撃と、特に車両後方からの「ゴー」という甲高いロードノイズが常に乗員を襲います。アイドリングストップも無く、またアイドリング時はシフトレバーが常にブルブルする等、現代の水準の音振性能と並べるまでもないレベルです。

「スペシャリティカーなのだからそれでいいじゃない」という一部のユーザーの声もありますが、「不快な要素」はなくしていくことで、長く愛されるクルマになるのだと感じます。

背反となるハンドリング性能とのせめぎ合いがあることは承知の上ですが、ロードノイズが今の半分、せめてV37スカイライン並にでもなれば、どれほど魅力的な一台になるか。今現在、発表が待望されている「トヨタ・スープラ」の出来もベンチマーキングした上で、次期型では「快適性の向上」が要改善ポイントではないでしょうか。

【気になるところ② 燃費が「悪すぎる」】

今回の試乗コースは、一般道が7割、ワインディング走行が3割、総移動距離200kmに対して給油量が30Lですから燃費は6.7km/Lでした(カタログ燃費9.2km/L※JC08モード)。

この種のスペシャリティカーと比べても、決して褒められるレベルではありません。次期型がもしあるならば、大排気量・大トルクで悠々と加速する見せ方以外にも、「小排気量でも低速から濁りなく綺麗に回転するエンジン(サウンド)を楽しむ」、なんていう提案があるのではないでしょうか。

例えば、メルセデスベンツの2シータースペシャリティカーであるSLCには、SLC180の1.6Lターボ(カタログ燃費14.9km/L※JC08)、SLC200 sportsの2.0Lターボ(14.2km/L)など、小排気量エンジンのグレードもあります。トヨタがBMWと「スープラ」のシャシーを共同開発したように、日産も最強のパートナーを上手く活用してみてはいかがかでしょうか。スカイラインにベンツの2.0Lターボを積めたのですから。

3.7Lへと「肥大化」したのはポルシェの存在があったからと推測します。「プアマンズポルシェ(貧乏人のポルシェ)」という不名誉なネーミングでよばれてしまう由来は、いつまでも「ポルシェの背中を見ている」と、ユーザーに悟られてしまった、という要因もあるかと思います。

フェアレディZのような、非日常を味わえる「スペシャリティカー」の見せ方はこれだけではないはず。もしも筆者が「ファン代表」としてZに提案申し上げられるとしたら、「ライバルは過去のZ達、楽しさで勝ってください」と言いたいです。

ヘリテージ(heritage)という言葉は、「受け継いだもの、代々継承していくべきもの、遺産」という意味があります。クルマになぞらえて言うと、単に古いクルマというだけではなく、それぞれのクルマが誕生したその時代において、後世に何かしらの影響を残した、という意味に近く、「往年の名車」と呼ばれるようなデザインや、レースなどの功績があるクルマをさします。

フェアレディZは、初代S30型の登場から生誕50年を迎えます。各自動車メーカーは、長年、良いクルマを作ってきた歴史を持っています。各メーカーは、常に自社の商品と向き合い、競争力のある商品となる様にクルマの開発を行い、顧客へ提案してきました。

その商品を受け取った顧客は、評価し、良い商品ならばリピートをする。悪い商品であれば、他メーカーに移る、といったサイクルで、競争を繰り返してきました。「長い歴史を持つメーカーは強い」というよりも、「強いからこそ長年生き残っている」のです。

今回のヘリテージの登場は、次期型車ヘのメッセージを持たせるためかもしれません。次期型にモデルチェンジがあるのか否か、それはまだ謎ですが、話題を作るために出していることもあります。古くからのファン、そしてこれから顧客になってくれそうな若い世代に認知してもらう、こういった役割を担っているとも考えられます。

「賢いニッサン」ですから、商売になりにくいクルマには予算をかけたくない、という事情も分かります。

個人的な見解ですが、「ボディは小さく、エンジンも軽く」の方向に進んでいくのが、フェアレディZが生き残る方法なのかなと想像します。その中で、AMGやM、GRMNの様な、度肝を抜く「スペシャルバージョン(※400馬力のニッサン製3.0Lターボエンジン搭載!)」を設けてもらった方が、心が躍るクルマになると感じています。

一ファンの戯言ですが、微力ながら自身が開発に携わったこのクルマには、10年後も生き残ってほしいと、切に願います。

(文/写真:吉川賢一/藤野基就)

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この記事の著者

Kenichi.Yoshikawa 近影

Kenichi.Yoshikawa

日産自動車にて11年間、操縦安定性-乗り心地の性能開発を担当。スカイラインやフーガ等のFR高級車の開発に従事。車の「本音と建前」を情報発信し、「自動車業界へ貢献していきたい」と考え、2016年に独立を決意。
現在は、車に関する「面白くて興味深い」記事作成や、「エンジニア視点での本音の車評価」の動画作成もこなしながら、モータージャーナリストへのキャリアを目指している。
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