8/16〜19にドイツ南西部、ラインラント=プファルツ州で開催されたラリードイチェランドで、TOYOTA GAZOO Racing WRT(World Rally Team) のオット・タナク/マルティン・ヤルベオヤ組のヤリスWRCが前戦に続いて優勝。今シーズン3勝目を飾った。
また、エサペッカ・ラッピ/ヤンネ・フェルム組のヤリスWRCも3位に入賞し。TOYOTA GAZOO Racing WRTはマニュファクチャラーズ(製造者)選手権のランキングを2位に上げた。
8/16に競技開始の前に行われたシェイクダウンで、ヤリスWRCのオット・タナク/マルティン・ヤルヴェオヤ組は3回目の走行で2分52秒9を叩き出した。
2位はヤリ-マティ・ラトバラ/ミーカ・アンティラ組の2分53秒1(4回目)でTOYOTA GAZOO Racing WRTが1-2を占めた。3位にはセバスチャン・オジエ/ジュリアン・イングラシア組(フォード フィエスタWRC)、4位にはティエリー・ヌービル/ニコラス・ジルソー組(ヒュンダイ i20クーペ WRC)が入り、ランキング上位各車は好調さを維持している(エサペッカ・ラッピ/ヤンネ・フェルム組は2:54.7で8位)。
最大6回の走行が許されたシェイクダウンでタナク組は3回、ラトバラ組は4回目で終了したが、ヌービル組は5回走行し、最速タイムは4回目に記録。ターマックで速いヒュンダイだが仕上がりにやや苦労している印象だ。
SS1「ザンクト・ヴェンデル」(St. Wendel 2.04 km)では、牧草ロール(牧草を乾燥後に巻いた物)を置き、作られた仮設コースがツイスティな上にタイトでWRカー(RC1)はアンダーステアに苦戦、牧草ロールにノーズを擦り付ける様にコーナリングする。
そんな中でトップタイムをマークしたタナク選手は「我々の車に合わないと思っていたので驚いた」とコメント。シェイクダウンで2位だったラトバラ組はSS走行中にエンジンがストールし、15番手に沈んだ。ラッピ組も12位と「良い感覚は得られなかったが、明日からのステージとは大きく異なるので、気にしない」と前向きなコメントを残した。
RC1勢2位は総合4位のダニ・ソルド/カルロス・デル・バリオ組(ヒュンダイi20クーペWRC)。オジエ組は6位、ヌービル組は13位と苦戦する中、RC2クラスのマシンが躍進した。RC2クラスのマシンはグループR5規定の1600ccターボエンジンの4輪駆動車であるが、(販売・パーツの)コスト制限の有る車両。重量はRC1のWRカーより重い(WR:1175kg/R5:1230kg)が登竜門クラスで若手が躍進した。
総合2位に躍り出たのはカッレ・ロバンペラ/ヨンネ・ハルッツネン組(シュコダ・ファビアR5)。
カッレは現在17歳。父親のハリ・ロバンペラもWRCで1勝を挙げた期待の新星だ。以下、トップ10圏内で3,5,9,10位と計5台のRC2(R5)クラスの車両が躍動した。
17日はSS2「シュタインウンドワイン1」(Stein und Wein1 19.44km)を皮切りに6つのSS(合計101.42km)・全450kmを走行する。当初は週末を通して好天の予報であったが、金曜の天気予報は雨。更に厄介なのは終日では無いにわか雨という事で、路面状況は刻々と変化をする事が予想された。
19kmのSS2が終了すると前日吹き荒れたRC2勢の猛威は収まり、上位はほぼマニュファクチャラー勢(RC1)となった。SS2を制し、総合トップに立ったのはオジェ組(フォード・フィエスタWRC)。
2位にタナク組(ヤリスWRC)、SS2で2位となったヌービル組(ヒュンダイi20クーペWRC)が3位と、ランキング上位3組が顔を揃えた。SS2で4位のラトバラ組、5位のラッピ組がそれぞれ総合5位,4位につけ、トヨタ勢は全車が上位に喰らいつく。一方、前回2位を獲得したマッズ・オストベルグ/トルステイン・エリクセン組(シトロエンC3 WRC)はSS2終了時点で10位と脚まわり一新後、初のターマック戦で熟成不足か後方に沈んでいる。
SS3「ミッテルモーゼル1」(Mittelmosel1 22.00km)ではタナク組が2位のオジェ組に5秒差を付けて首位の座に返り咲くと、ここから怒涛のタナク劇場が開幕する。
残りのSS5つを全て制して、2位オジェ組に12.3秒のリードを築く事に成功する。3位ヌービル組はSS3終了後にボンネットを開き、エンジンルームをチェックする姿が見られた。軽微なオイル漏れだった様だが、20km走って秒差を争うラリーではストレスになる事は想像に難くない。SS7「ヴァーダーン-ヴァイスキッヘン2」(Wadern-Weiskichen2 9.27km)の終了時点で、ヌービル組は2位オジェ組から15.1秒引き離される。4位以下は更に10秒離されているが、4秒以内に4台がひしめく熾烈な順位争いを繰り広げた。
18日(土)デイ3は、4本のSSを各2回走行する。ラリー・ドイチェランドの名物「アレーナ・パンツァープラッテ」(SS8/12 Arena Panzerplatte 9.43km)と「パンツァープラッテ」(SS9/13 Panzerplatte 38.57kmは、バウムホールダー軍事演習場内を走行する。場内の道は舗装路ながら路面状態が目まぐるしく変わり、コンクリートで舗装された路面も多いSSだ。1日の総走行距離は453.94kmとデイ3は4日間でもっとも長い距離を走行する。
SS8でラトバラ組がトップタイムを叩き出す。
SS9ではソルド/デル・バリオ組 (ヒュンダイ i20 クーペWRC)、SS10ではラッピ組がトップタイムを記録し、4位以下の順位が目まぐるしく変わりながらタイム差を詰めてくる。
上位3台の差は大きく変わらなかったが、ヌービル組がブレーキの不調からSS10「フライゼン1」(Freisen1 14.78km),SS11「ローマシュトラウゼ1」(Romerstrase1 12.28km)で連続9番手タイムに終わり、4位に転落。かわってラトバラ組が3位に浮上する。更にSS12ではソルド組が4位に浮上する。SS13パンツァープラッテ2では、今度はオジェ組が痛恨のパンクでトップから1分43秒遅れの21番手。総合でも9番手に沈む。タナクを除くランキング上位勢が崩れた。
このSS12で再びソルド組がトップタイムをマーク、総合2位に躍り出た。オジェ組は続くSS14「フライゼン2」(Freisen2)でベストタイムを叩き出して8位に浮上するが、4位ヌービル組からは1分、トップのタナク組には2分近い差が開いた。ラトバラ組は3番手、ラッピ組は5位につけている。デイリタイアしたエバンス組は、翌日再出走する。
19日(日)最終日デイ4はモーゼル河畔のブドウ畑に設けられたSSグラフシャフト(Grafschaft 29.07km)を2回走行後、最終SSボーゼンバーグ(Bosenberg 14.97km)を走行する。1回目のSS16で波乱が起こる。総合3位のラトバラ組がSS到着迄に油圧ポンプが故障、手動シフトでSSに挑んだが駆動系トラブルでストップ。
そして、総合2位のソルド組はコースサイドのブドウの樹にヒット、走行を続けた20番手を記録した。しかし右側のバンパーとフェンダーを失い、フロントガラスは衝撃でクモの巣状にひびの入った状態でSS17には辿り着いたもののここでリタイヤとなった。2位と3位のリタイヤにより、2位にヌービル組、3位にラッピ組が浮上した。
また前戦で2位だったオストベルグ組(シトロエンC3)もSS16でコースアウト。冷却系トラブルを発生してリタイアとなった。
SS17では総合4位のオジェ組がトップを奪うが、3位のラッピ組とも37.6秒の差があり、トラブルが絡まない限りオジェの逆転表彰台は難しくなった。
SS18ボーゼンバーグはパワーステージ。トップから順に5-4-3-2-1とボーナスポイントが与えられる。ここで、トップタイムを奪ったのはオジェ組。総合順位でヌービル組の上を行く事が今回最大のミッションは叶わなかったが、出来うる最少失点差(2pt)に留める事に成功した。2位,3位にはタナク組、ラッピ組のトヨタ勢が入った。
4位はブリーン組(シトロエンC3)で、ヌービル組は5位であった。序盤、上位をにぎわしたロバンペラ組(シュコダ・ファビアR5)は総合10位、クラス2位での完走を果たした。総合9位、クラス優勝を果たしたのはヤン・コペッキー/パベル・ドレスラー組(シュコダ・ファビアR5)であった。
ラリードイッチェランド最終結果
1. オット・タナク/マルティン・ヤルベオヤ(トヨタ・ヤリスWRC)3h03m36.9s
2. ティエリー・ヌービル/ニコラ・ジルソー(ヒュンダイi20クーペWRC)+39.2s
3. エサペッカ・ラッピ/ヤンネ・フェルム(トヨタ・ヤリスWRC)+1m00.9s
4. セバスチャン・オジエ/ジュリアン・イングラシア(フォード・フィエスタWRC)+1m34.5s
5. テーム・スニネン/ミッコ・マルック(フォード・フィエスタWRC)+2m02.9s
6. アンドレアス・ミケルセン/アンデルス・ヤーゲル(ヒュンダイi20クーペWRC)+2m13.8s
7. クレイグ・ブリーン/スコット・マーティン(シトロエンC3 WRC)+2m39.1s
8. マリヤン・グリベル/アレクサンダー・ラース(シトロエンDS3WRC)+10m41.2s
9. ヤン・コペッキー/パベル・ドレスラー(シュコダ・ファビアR5)+13m12.8s
10. カッレ・ロバンペラ/ヨンネ・ハルッツネン(シュコダ・ファビアR5)+13m16.6s
25. エルフィン・エバンス/ダニエル・バリット(フォード・フィエスタWRC)+36m27.1s
リタイア:マッズ・オストベルグ/トルステイン・エリクセン(シトロエンC3 WRC)(SS16 メカニカル)
ヤリ‐マティ・ラトバラ/ミーカ・アンティラ(トヨタ・ヤリスWRC)(SS16 メカニカル)
ダニ・ソルド/カルロス・デル・バリオ(ヒュンダイi20クーペWRC)(SS17 メカニカル)
オット・タナク/マルティン・ヤルベオヤ組は前戦ラリーフィンランドに続き、今シーズン3勝目。また、昨年もドイツで優勝している為2年連続制覇となった。ドライバー・コドライバーランキングでは25+4ポイント(136pt)で2位のオジェ/イングラシア(149pt)に13ポイント、首位のヌービル/ニコラ・ジルソー(172pt)とは2戦前には72ポイント差が36ポイント差となり、逆転に現実味が出て来た。
タナク選手は「間違いなく、今まででもっとも大変な思いをして手にした勝利です。週末を通して激しいバトルが続き、ひたすら全力で攻め続けなくてはなりませんでしたが、金曜日のブドウ畑のステージでは、快適に運転する事ができました。土曜日の午前中はあまり自信を持てなかったのですが、チームが日中のサービスでクルマを大幅に改善してくれました。そして今日は、クリーンな走りだけを心がけました。我々のチームは今週末本当に強く、とても満足しています。」とコメントしている。
続けて「選手権争いについても正しい方向に進んでいると思いますが、それでも自分としては1戦、1戦を大事にしています。現在は次戦トルコに集中しており、できる限り万全な準備をしてラリーに臨みたいと思います。 」とタイトルを意識している事が伺える。
TOYOTA GAZOO Racing WRTは、昨年の再参戦以来ターマック戦での初勝利を挙げた。マニュファクチャラー選手権では40ポイントを加えて、241ポイントとなり、マニュファクチャラー選手権ではM-SPORT FORD WRT(224pt)を抜いてランキング2位へ躍進。首位HYUNDAI SHELL MOBIS WRT(254pt)とのポイント差は13となった。
WRC次戦は、第10戦ラリー・トルコ。地中海に面したリゾート、マルマリスをホームタウンに9月13日から16日にかけて開催される。トルコでのWRC開催は2010年以来となる。路面はグラベル(未舗装路)で、フラットで高速なステージと、多くの石が転がる荒れた山岳ステージが入り混じったコースが予想されている。
また、9月中旬でも最高気温は30度を超える事が珍しくない。グラベルだけでなく、ターマックでも戦える実力を証明したヤリスWRCが昨年苦しみ続けた冷却対策の成果が試される。今シーズンも残り4戦、次戦はタイトル獲得の試金石となる。
(川崎BASE・写真:TOYOTA GAZOO RACING/Jaanus Ree/RedBull ContentPool)