これがチバニアンの由来となった千葉セクションの崖です。地質学ではこういった場所を露頭と呼びます。
千葉セクションの露頭には、下から見上げてみると赤や黄、緑の杭が打ってあるのがわかります。緑が現代と同じ、北がN極の時期、赤は逆転していた時期。あいだの黄色は磁極が安定していなかった時期の地層です。
注目したいのは、露頭の上の方で右肩上がりに走る溝のような線。Byk-Eと名付けられた火山灰層です。Byk-Eは白尾(ビャクビ)層に含まれ、長野県/岐阜県にある御嶽山が大噴火した際に噴出した火山灰が当時海底だったこの場所に積もったもの。この噴火が年代測定によって77万年前の物ではないかと言われており、それより上(新しい)は磁極の不安定な時期を経て、現代と同じ正磁極となるワケです。
高さのある露頭ですが、おおよそ2mで1000年分の堆積物が積もっています。この堆積スピードは速いため、短い時間をスローモーションで再生するように確認でき、細かく調べることができるのも千葉セクションの特徴です。
また勘違いしがちなのですが、この逆磁極の場所に方位磁針を近づけても針の向きが逆になることはありません。測定しているのは、降り積もった際にその堆積物が獲得した磁性。微弱なものですが、現代の測定機器でその方向を測ることができるのです。露頭のいろいろな場所にフィルムケース大(直径3センチくらい)の穴が空いています。これが測定のための試料を採取したあとです。
従来、更新世の前期と中期の境界は78万年前と言われていましたが、このエリアを精密に測定したことによって、1万年ほど遅い77万年前なのではないかということが明らかになってきました。
このように、この場所は地質学的にも大切な場所ですから、パワースポットなどといって、土に触れたり、削ってしまうようなことは、厳禁です。
さて見学には「○○のいないGWがオススメ」といいましたが、その理由はヒル(蛭)。
千葉セクションのある地域はシカやイノシシが生息しており、これから初夏にむかってヒルが増えていく季節になります。ヒルは動物の吐く二酸化や熱などに反応して取り付きますから、人間にも襲いかかってきます。
ヒルは今のところ危険なウィルスを媒介するような害虫ではありませんが、噛まれると取りにくく、出血も伴うので服を汚すなどということにもなりかねません。またヒルがいなくとも、梅雨の季節になれば養老川の水量も増え、露頭へのアクセスがしにくくなることもあります。
こういったこともあり、見学には5月初旬がオススメ。また服装は、長袖、長ズボン、そして濡れてもいい運動靴や長靴を用意して挑みましょう。
そして、見学地には私有地も含まれますので、十分配慮して行動してください。それから管理をしてくれている地域のスタッフに挨拶を忘れずに。
チバニアンとの境界を示す最後の逆磁極期は「松山逆磁極期」と呼ばれています。この名前は古い地磁気の向きが岩石に残っていて、地磁気が反転していた時代もあったということを世界で初めて論文にした、京都帝大の松山基範教授の功績を讃えて名付けられたものです。チバニアンが正式に認められ、日本にゆかりのある名称が並ぶ日は間近です。
国際標準模式地に選ばれると、境界となる地層表面に「ゴールデン・スパイク」と呼ばれる金色の鋲が打ちこまれることもあるようです。もしそうなったら、またその時にも観に行きたいものですね。
※掲載当初、露頭の杭の色について誤った表記があり、修正しました。正しくは緑が正磁極期、赤が逆磁極期を示しています。(2018年5月5日6時30分)
(古川教夫)