今年のインドネシアモーターショーで最も注目されたモデルは三菱のエクスパンダーだ。SUV感覚の3列シート車というインドネシアでとても良く売れているクロスオーバーMPVであり、今回のインドネシアショーで唯一のワールドプレミアとなったクルマであるからだ。
エクスパンダーは三菱自動車としても久々の新型車である。経営的に厳しい状況が続いていた三菱としては、自社で開発した登録車の新型車は2012年のミラージュ以来であり、軽自動車を含めて考えても2014年のeKスペース以来だから、本当に久しぶりの新型車である。
エクスパンダーはインドネシアで世界初公開となったことからも分かるように、主にインドネシア市場にフォーカスして開発されたクルマであり、東南アジアや中東などの新興国市場を中心に販売することを目指したクルマだ。
外観デザインは写真の通りでシャープなプレスラインが強調され、けっこうカッコ良い。インドネシアではこのクラスにトヨタ・アヴァンツァ、ダイハツ・セニア、ホンダ・モビリオ、ホンダ・BR-Vなどの競合モデルが存在するが、それらと比較してもデザイン的にはっきり優位に立っているように思う。
悪路や洪水などの多いインドネシア事情に対応し、クラスでもトップレベルとなる205mmの最低地上高を確保しているのも特徴だ。ついでに書いておくと、インドネシアで生産されるクルマには、地元メーカーの低価格タイヤが装着されたりする例もあるが、エクスパンダーにはダンロップのエナセーブEC300+が装着される。ほかのメーカーのタイヤも装着されるかも知れないが、単に低価格だけを追求したタイヤではないことは確かだ。
搭載エンジンは1.5Lのガソリンのみの設定で、かねてから定評のある4A91型を搭載する。トランスミッションは5速MTと4速ATが設定されている。3列シートのボディはやや重く、またジャカルタのユーザーは急な勾配のある高地へ、避暑に出かけることも多いため、そうした使用環境にも対応できるパワートレーンにしたという。
新興国向けのクルマとあってコスト的な制約も大きかったはずだが、インテリア回りの質感もまずまずであると同時に、前述の競合車に対してやや大きめのボディを持つことで、室内には十分な居住空間が確保されている。
室内の使い勝手もポイントだ。三菱はこの市場に最後に参入するメーカーであるため、先行する各モデルを上回る仕様を目指して開発が進められた。多彩なシートアレンジがそれで2〜3列目の背もたれを倒してフルフラットにできるほか、2列目のシートを折り畳んで跳ね上げるタンブル方式も採用した。競合車には、フルフラットとタンブルの両方を両立させている例はないという。
三菱ではタイ製のミラージュを日本に輸入しているが、エクスパンダーもその可能性があるのかを聞くと、日本向けのクルマとしては全く考えていないとのこと。あくまでも新興市場専用に開発されたクルマである。
(村木哲郎)